特集1 人的資本の時代、個の可能性を最大化 働き方改革、さらなる深化へ

残業時間の上限規制などが盛り込まれた働き方改革関連法が施行されて6年が経過した。時間外労働の減少など働き方改革が進展する一方で、生成AIの台頭など急速に変化する社会構造の中、更なる働き方改革の深化が求められている。本特集では、そのために必要な視点などを探った。

働き方改革が進む中
いまだ残る企業の課題

2018年6月、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(以下「働き方改革関連法」)が成立し、同年7月に公布された。

働き方改革関連法では「労働時間法制の見直し」として、①残業時間の上限規制(時間外労働の上限を原則月45時間・年360時間)、②「勤務間インターバル」制度の導入促進、③年5日間の年次有給休暇の取得、④月60時間超残業の割増賃金率引上げ、⑤労働時間の客観的な把握、⑥「フレックスタイム制」の拡充、⑦「高度プロフェッショナル制度」の創設といった改正が行われた。

働き方改革関連法は2019年4月から施行され6年が経過。「残業時間の上限規制」に関して適用を猶予されていた業種も段階的に適用が開始された。この間、全体の時間外・休日労働は緩やかに減少しており、企業の働き方改革の取り組みの成果ともいえる。一方で、生産性の向上など現状の課題はいくつかあると、中央大学教授の阿部正浩氏は指摘する(➡こちらの記事)。阿部氏には、今後、どの様な働き方改革を目指すべきなのかなどについて話を聞いた。

場所に捉われれない働き方が定着
固定的で硬直的な働き方の見直し

「働き方改革関連法」施行以降、コロナ禍やデジタル技術の発展により場所に捉われない働き方が浸透した。代表的な例にテレワークの普及がある。パーソル総合研究所「第十回・テレワークに関する調査」のテレワーク実施率の推移を見ると、23年~25年はほぼ横ばいとなっており、テレワークの定着傾向が見られる(図表1)。さらにテレワーク実施者に今後のテレワーク希望を聞いたところ「続けたい」は計82.2%と過去最高。2020年後半以降、高止まりの状態が続いている(図表2)。また、フリー株式会社の調査では、会社員の理想の働き方は「ワークライフ・バランス」が約7割といった結果も出ている(図表3)。

図表1 【全国】従業員のテレワーク実施率 推移〔正社員ベース〕

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図表2 高止まりの状態が続くテレワークへの継続希望意向

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図表3 会社員の理想の働き方は「ワークライフ・バランス」が約7割

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このように働き方は個別・多様化が進行。副業・兼業等によるキャリアの複線化も進み、仕事への価値観や生活スタイルに応じて自発的にキャリアを形成でき、働く場所や時間、就業形態をライフ・キャリアステージに合わせて選択できる働き方を求めるビジネスパーソンが増えている。

県立広島大学大学院教授の木谷宏氏は「誰もがワーク・ライフ・バランスを実現できるようにするために、固定的で硬直的な働き方を変える必要があります」と話す(➡こちらの記事)。木谷宏氏には、働き方改革と従業員の「学び」の関係、これからの働き方改革を考えるうえで、どのような視点が重要なのかなど話を聞いた。

生成AIの登場がもたらす
働き方の変化と必要なスキル

生成AIの登場はビジネスパーソンの働き方に大きな影響を与えている。一方、海外に比べて日本での活用は立ち遅れが指摘されている。生成AIがもたらす働き方の変化を踏まえ、今後の人材育成戦略をどう描くべきなのか。エデュニア株式会社代表取締役の千葉佑介氏に寄稿いただいた(➡こちらの記事)。

「働き方改革関連法」以降、働き方改革は着実に進展してきたものの、その実現は道半ばである。働き方改革を深化させるためには、働く人々が自らのモチベーションに火をつけ、働き方を効果的に調整する方策が必要となる。そこで九州大学大学院准教授の池田浩氏に寄稿いただいた(➡こちらの記事)。

働き方改革に取り組む以前に、そもそも重要なのが睡眠時間の確保だ。一人一人が休養感のある十分な睡眠時間を確保すること。そのために必要な知識や工夫について東京科学大学教授の駒田陽子氏に寄稿いただいた(➡こちらの記事)。

「働き方改革関連法」は改正後の労働基準法等について、施行の状況等を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとされている。そうした中、「労働基準関係法制研究会」は2025年1月に報告書を公表した。連続勤務の上限規制(14日以上)、勤務間インターバル制度の義務化、副業・兼業の場合の割増賃金における労働時間通算の見直しなどが挙げられており、企業が働き方改革を進める上でも法改正の状況を注視する必要がある。

労働力人口の減少により人手不足が深刻となる中、個別・多様化したビジネスパーソンの働き方やキャリア形成に寄り添えることが企業の持続的な成長にも繋がる。本特集が働き方改革に悩む企業の一助となれば幸いだ。

 

「労働基準関係法制研究会 報告書」(2025年1月)