AIエージェントの時代が到来 AIと協働するWith AIの世界へ
生成AIが登場して約2年が経過したが、日本企業の利用率は他国に比べて低いとされている。そうした中、技術は生成AIから自律性を持つAIエージェントへと進歩。ギブリーはいち早く「AIエージェント実践オープン研修」を開催。動向や企業とビジネスパーソンへの影響を聞いた。
2025年は「AIエージェント元年」
業務での実装が可能な時代に

山川 雄志
株式会社ギブリー 取締役CAIO
2009年ギブリー創業、取締役に就任。以降、法人向けの新規事業を複数立ち上げグロースを牽引。2018年にAIチャットボットによる業務自動化事業を立ち上げ、2020年より部門長に就任。2023年業界に先駆けて生成AIチャットツール「法人GAI」をリリース、現在はAI×業務自動化支援のサービス群「MANA」をはじめ、CAIOとしてAIイネーブルメント推進の陣頭指揮を 執る。
AIエージェントとは、ユーザーのシンプルな指示から、業務を自動的に細分化し、必要な情報を補完しながらタスクを遂行するAIシステムのこと。2025年は「AIエージェント元年」と言われ注目が集まっている。
「2年前くらいからエージェント的な動きをする技術の芽が出てきて、概念が提唱されてきましたが、業務に耐え得るものではありませんでした。主にコスト、推論能力、データ連携に課題があったのです。しかしテクノロジーの進化で実装が可能になってきました」とギブリー取締役CAIOの山川雄志氏は話す。
主要テック企業からはAIエージェント関連のビジョンやサービスの発表が相次いでいる。
「特にマイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏がAIエージェントの潮流をつくり出そうとしていることはマーケットに影響を与えていると思います」と続ける。では、AIエージェントで何ができるのか?「AIエージェントの最大の特徴は自律性を持つことです」と山川氏はAIエージェントについて、次のように説明する。
例えばオンライン会議を自動で文字起こしや議事録作成をしてくれるアプリを活用する人が増えている。
生成AIの登場で前後の文脈を正しく把握し、誤字脱字のチェックもして議事録を作成し、メールの文案も作れるまでになった。
「ただ、生成AIは人間のToDoの指示なしには動きませんし、1回の指示で1つの応答しか返せません。AIエージェントは人間が設定した目標を達成するために、自ら状況を判断し、最適な行動を選択します。例えば、会議終了のボタンを押した瞬間に勝手に文字起こしをして、精文、要約をして、メール文書まで作ってくれる。AIエージェントから『〇〇にメールを送っていいですか』と通知が来たら、人間は『いいよ』とボタンを押すだけです。参加者に次回の定例会議の案内を通知する、前日にリマインドメールを送ることができる。能動的にアクションを起こしてワークフローを完了させるのがAIエージェントです。ただ目的がなければ業務で使えません。とりあえず試すものでなく、前提に何の業務に活かすかを考えることが大切です」
AIエージェントの構築方法が
学べるオープン講座を開催
「AIエージェントは技術があっても目的がなければ業務で使えないため、生成AIより導入までのスピードは遅れると考えられます。導入の格差が広がることが予想できるので、研修でそこを埋めたいと考えました」とギブリー生成AIリスキリングソリューション統括の小泉晴紀氏は話す。研修は「最先端のAIエージェントができることと、その活用方法を学ぶ座学」と「実際にAIエージェントをつくる実践」の2部構成で、1日7時間で集中的に学ぶ。
実践ではAIアプリ開発プラットフォーム「Dify」を使う。「Difyならまったくコーディング未経験の方でもAIエージェントがつくれる」ことが採用の理由だという。
参加した企業のほとんどが、すでに生成AI領域のツールを導入済み。「ここ2年使ってきたけれど、社内のシステムを思うように自動化できないという課題があり、AIエージェントを使っていきたい」というモチベーションで参加した企業が多い。年齢層は多様で、企業で決済権を持つ層から新卒1年目まで幅広い。
「発展的な領域であるため、公募制で意欲的に取り組みたいメンバーに任せようと考える企業は多いようだ」と小泉氏は分析する。参加者からは「AIエージェントは何なのか、ニュースを見てもセミナーに参加してもわからない部分があったが、研修では実際に手を動かしてAIエージェントを作れるので、なぜ『自律性を持つ』と言われるのかが理解できた」という感想が目立ったという。
同社は必要に応じ、個別企業の研修も実施。オープン研修ではできなかったこと、例えばハンズオンでAIエージェントをチューニングしたりできる。次回研修は5月に予定。同月にAIエージェントに関する新サービスのローンチも予定されている。
ワークフローや組織も変わる
「AIイネーブルメント」が大切に

山川 雄志
株式会社ギブリー
生成AIリスキリングソリューション 統括
早稲田大学在学中にVCやスタートアップを経験後、2023年4月ギブリー入社。企業向け生成AIプロジェクトの担当後、個人向けAI教育事業「エジソン塾」を立ち上げ、現在はAIエージェント研修事業の統括を兼任、自ら講師も務める。最新技術領域の研修に強みを持つ。
同社は2025年3月「AIエージェント実践」オープン研修を開催した。AIエージェントを活用した業務自動化について学び、現場の業務フローに適用するための手法を習得することが研修の目的だ。
同社が研修の開催とともに注力するのが「AIイネーブルメント」という新しい概念を浸透させることだ。これは企業がAIを効果的に活用し、人とAIが主体的に協働する環境を整えるための総合的な取り組みを指す言葉。企業の現状を知るには、組織や働き方のステップを知るための指標となる3段階「Before AI/Use AI/With AI」を理解することが有効だと山川氏は説明する。
「Before AI」は生成AIが入る前。「Use AI」は生成AIの利活用期、そして「With AI」がAIエージェントとの協働の時代だ。
「AIエージェントを活かす、With AI段階に至るまでに難しいのは、業務の棚卸しをしてどこにAIエージェントを使うか決めたり、必要な技術を身に付けることだけでは不十分で、人間側のチェンジマネジメントが求められていることだと思います。AIと仕事することは受け入れられない、AIは人間の対極にいる敵と思う方々もいる中、個人だけが使うのではなくて、チーム単位や組織単位で使わないと大きな成果にならないのですから」と山川氏。さらに「企業の根幹といえる部分、ワークフローや人材スキル、ガバナンスにまで作用するのがAIエージェントです。AIイネーブルメントの視点を持ち、準備をしていかなければならないのです」と強調する。
AIエージェント関連のリリースが日々企業から出るくらい、国内外の動きは活発化している。
「変わっていける企業とそうでない企業とで格差は拡大します。この警鐘を鳴らしていかなければならないと思っています。弊社はAIイネーブルメントを推し進めるカバレッジを持っていて、それが強みでもあると思うので、支援に尽力していきます」(山川氏)