小松ウオール工業 創業以来のチャレンジ精神の再興へ
間仕切りの専門メーカーとして東証プライムに上場する小松ウオール工業。2023年に就任した三代目・加納慎也社長は、創業期から脈打つチャレンジの精神を全社で取り戻すべく、95億円の新工場建設やショールーム刷新を自ら牽引している。
規模の拡大で薄れた、
創業以来の精神
加納 慎也
小松ウオール工業株式会社 代表取締役社長
1983年9月12日生。2011年に小松ウオール工業入社。東京支店営業部長、企画本部長、技術開発本部長、IR・経営企画担当などを歴任し、2023年6月、代表取締役社長・社長執行役員に就任。営業、企画、技術開発、経営企画の各部門を横断して経験を重ね、全社的な視座から事業と組織を牽引している。
小松ウオール工業は1968年の創業以来、オフィスや公共施設向けの間仕切り製品を、製造から販売、施工まで一貫して手がけてきた。全国53支店の営業体制と、オーダーメイド品を短納期で供給できる設計力・製造力を強みとする。加納社長は入社後、営業部門で約10年を過ごした。東京ビッグサイトや幕張メッセといった大型施設への納入現場で目にしたのは、前例のない要望にも応えようとする先輩たちの姿だった。
「前例がないような案件を先輩方が引き受け、形にしてきたのを目の当たりにしてきました。『こんなの作れるのか』という非常識に応えてきたのが、うちの会社の原点です」
創業期は規模が小さく、設計担当が営業拠点に長期出張するなど、一人が何役も担うのが当たり前だった。部門の壁がないからこそ、工程を越えて互いの仕事を理解し、未知の要求にも応えられた。ところが規模の拡大とともに効率が優先され、製造、営業、設計といった職務の縦割り化が進んだ。
小松ウオール工業の競争力を強化するために、加納社長が重視するのは、創業期以来のチャレンジ精神を再び組織に取り戻すことだ。部門を越えて知恵を出し合い、まだ世の中にない提案を形にできる人材を育てることこそが、小松ウオール工業の競争力になると考えている。
投資で示す、挑戦への本気
「チャレンジしようぜ、と口だけで言っても伝わりません。会社として今までなかった出来事をどれだけ増やせるか。そこがポイントだと思っています」。加納社長はこの信念を、自らの行動で示してきた。
加納社長にとって投資は、成長のための施策であると同時に、会社が挑戦を後押しするというメッセージでもある。その象徴が二つある。
一つ目は、東京・神田錦町のライブオフィス兼ショールーム「101 TOKYO SHOWROOM OFFICE」だ。2021年の開設時から加納社長がプロジェクトリーダーを務め、一貫して主導した。社長就任後にはブラッシュアップを施し、2025年に第38回日経ニューオフィス賞(クリエイティブ・オフィス賞)を受賞。間仕切りメーカーが受賞する側に立つのは異例で、業界内に大きな反響を呼んだ。
日経ニューオフィス賞を受賞した『101 TOKYO SHOWROOM OFFICE』。
二つ目は、石川県加賀市で建設が進む新工場「加賀工場2号棟」である。約95億円を投じ、主力の可動間仕切りの生産能力を現状の1.5倍に引き上げる。首都圏を中心としたオフィス需要の堅調な伸びに対し、生産体制は限界に近づいていた。中期経営計画「NEXT VISION 2028」の累計投資額も、50億円から150億円超へと上方修正した。
「繁忙期は受注と供給のバランスがぎりぎりで、社員も相当苦労していた。まずこの状況を解消しなければならないと思っていたのです」と、加納社長は振り返る。
巨額投資には慎重論も少なくなかった。そこで加納社長は外部の専門家を交え、需要予測やNPV等の定量分析を重ね、一つずつ懸念をつぶしながら合意を形成した。ショールームも新工場も、社長就任前から当事者として関わってきた加納社長が、経営トップとして最終決断を担った。
部門を越えた経験が
経営者をつくる
営業を約10年経験し、設計開発部門やIR担当役員を経て、2023年に40歳を前に社長に就任した。部門を越えて歩んできたキャリアそのものが、加納社長の経営観を形作っている。
「営業部門にいた頃は、自分一人で成果を上げているように思っていた時期もありました。しかし本社に移って、工場の皆さんに支えられてこそ成り立っていたのだと実感しました。自分自身も謙虚になれましたし、営業の経験があるからこそ、現場にお願いすべきことも伝えやすくなりました」
加納社長の就任には様子見の空気もあった。
「結果で黙らせるしかない。結果が出なければ社員に良い給料は払えないし、株主への配当も出せない」。中期経営計画の実行に集中し、業績で信頼を積み上げてきた。
自らの経験は、組織設計にも反映されている。現在、上位層から段階的に部門同士の交流を拡大中だ。部門の壁を越える人材配置を進め、視野の転換を組織的に促している。相手の立場や仕事を知ることが、提案力や当事者意識につながると考えるからだ。
対話と仕組みで、挑戦を後押し
チャレンジの文化は、仕組みなしには根づかない。自律と挑戦の文化を取り戻すため、加納社長がまず着手したのは、会議の削減だった。就任当初、社内には営業会議や企画会議など多くの会議があり、現場の判断よりも会議の場での情報共有や根回しが優先されがちだった。
「中間管理職や現場レベルが、部下の話をきちんと聞き、自分の頭で考えたうえで上に報告する。その流れをつくりたかったのです」と、判断を現場に近づけることが大切だと説く。
その一方で、対話も欠かすことはない。1on1ミーティングも広く実施し、加納社長自身も直属の部下と月1回面談している。仕事上の課題にとどまらず、本人が今後挑戦したいことまで引き出す。ただし、「なぜやるのか」「裏付けはあるのか」と、必ず根拠を問う。挑戦を促す一方で、考えが十分に整理されないまま話が進むことを防ぐためだ。こうした対話を双方にとって実りあるものにするため、管理職向けに傾聴やハラスメントに関する研修を実施し、安心して話せる土台づくりも進めている。
加納社長自身も立ち止まってはいない。
「自分に不足しているものに気づき、模索しながら取り入れていくこと。それが大切だと思っています」と加納社長は語る。営業で顧客の声を知り、本社でものづくりの現場を学び、IRで経営の全体像をつかんだ。部門を越えるたびに視野を広げてきた経験が、この言葉を裏づけている。
自ら学び続けてきた実感があるからこそ、社員にも挑戦を促し、それを支える仕組みづくりを進める。創業以来の精神を、いまの組織でどう活性化していくか。加納社長の挑戦は続いている。