特集1 個人と組織の在り方を見直し主体的に学ぶ人材を育成する

「リスキリング」に注目が集まり、企業の人材育成の関心が高まっている。デジタル化が進む中、新たな価値提供を担う能力を持つ人材を育成するため、主体的に学び続け、社員一人ひとりが持続的に成長していく組織づくりは喫緊の課題だ。現状の課題や最新の取組みなどを追った。(編集部)

学び続けることが求められる時代
学び合う組織をどう構築するか?

先行き不透明で予測困難なVUCAの時代といわれる中、「リスキリング」や「人的資本経営」に注目が集まっている。こうした状況を背景に、企業の人材開発・育成への関心が高まっている。

また、個人に目を向ければ、健康寿命の延伸などにより、「人生100年時代」と言われ、生成AIをはじめとする技術革新などにより、知識や技術の陳腐化のスピードが早まっており、誰もが主体的に学び続けることが求められる時代になっている。

しかし、日本の社会人は学ばないことが長く指摘されてきた。

パーソル総合研究所「グローバル就業実態・成長意識調査(2022 年)」によれば、「社外学習を何も行っていない人」の割合は世界の中でも日本人は突出して高く、「自己研鑽意欲の低さが際立つ」ことが指摘されている。

こうした状況を踏まえると、国や企業が、いくら多種多様な学習プログラムを提供しても、学ぶ社員は一部に留まることが予測されるため、持続的に「学び合う組織」づくりの重要性が改めて問われている。

2月7日、パーソル総合研究所は、全国20 ~ 60 歳の男女・正規雇用就業者(N=6,000)を対象に、「学び合う組織に関する定量調査」(以下「調査」)を実施、その結果を公表した(➡こちらの記事)。

調査では、学びから遠ざかる要因となる、学びについての偏った意識を「ラーニング・バイアス」として、7つのバイアスを特定。この結果、「新人」「学校」「自信欠如」「地頭」バイアスなどが、学習意欲を下げる傾向が、「現状維持」「タイパ」「現場」バイアスなどは、学習時間を短くしている傾向が確認された。

パーソル総合研究所上席主任研究員の小林祐児氏は「学びはもともと得意ではない、自信が無い『自信の欠如』バイアスは、学習意欲、学習時間、学習期間それぞれにマイナスの影響が見られました。これは、今回の調査結果の一つの特徴かといえます」と話す。

VUCAの時代では、誰もが主体的に学び続けることが求められている。画像はイメージ。

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「共創型OJT」や「WPL3.0」で
自律的な学びを実現する

社員が主体的に学び、社員同士が学び合う組織をつくることは、急速にデジタル化が進む中、新たな価値提供を担う能力を持つ社員を育成していく上でも重要だが、特に、若手社員をいかに育てていくかは、企業において喫緊の課題といえる。

公共・社会基盤分野、金融分野、法人分野、テクノロジーコンサルティング&ソリューション分野の4セクションがあるNTTデータ。NTTデータの法人分野では新入社員はトレーナーである先輩社員と2年間行動をともにして仕事を習得する徒弟制度型OJTを続けてきたが、課題も見えていた。そこで、組織の在り方をピラミッド型から自律・共創型のネットワーク型に変えようと、2020 年にはじめたのが新人への「共創型OJT」だ(➡こちらの記事)。

これは、新入社員でチームを組み、そのチームに一塊の仕事やミッションを与え、何をどうするかを新入社員のチーム内で考え、自由に進めるというものだ。

「必要な知識は自学自習で学んでもらいます。課題解決に取り組む場面でも先輩が指示することはありません。新人社員ばかりで心理的安全性が高いメリットを最大限生かし、その中で十分に議論を尽くして試行錯誤しながら進んでもらいます」と法人事業推進部の矢野忠則氏は話す。

また、学び合う組織をつくっていく上では、対象となる職場学習をどうデザインするかが重要となる。

一般的に企業内での学びは、①自分の経験を実践に活かしていく学び(経験学習)、②上司・先輩・同僚からの学び(OJT、1on1、対話など)、③ Webや書籍などを利用した情報での学び、④ 研修での学び(Off-JT、eラーニングや集合研修など)の4つに分類できる。このうち①~③が職場学習(ワークプレイスラーニング/ Workplace Lear ning:WPL)に当たる。2 月に著書『自ら学び、未来に活躍する人財が育つ WPL3.0 ワークプレイスラーニングの理論と実践』を上梓したサンライトヒューマンTDMC 代表取締役の森田晃子氏は、「ビジネスパーソンの『学びの全体像』を100%とした場合、『研修での学び』は10%程度に過ぎず、90%以上をWPLが占めると言われています。つまり、ビジネスゴール/パフォーマンスゴール達成に向けた人財育成におけるWPLの重要性は大きいのです」と話す。

同著では、WPLを3つの段階に整理。WPL1.0は模倣中心の個人依存型の職場学習、WPL2.0は組織として一律化された職場学習、そしてWPL3.0は職場ごとに最適化された職場学習だ。「WPL3.0の世界を『不確実な未来において活躍できる人財が育つように、個々人の自律的な学習を引き出す『経験学習』をベースとした職場ごとに最適化された学習支援が行われている状態のこと』と定義しました」と話す森田氏にWPLを戦略的にどう設計するかなど話を伺った(➡こちらの記事)。

学び続ける個人や組織づくりを
実現する上で必要な理論とは?

従業員が仕事の意義を捉え直し、主体的にやりがいをもって働けるようにするために、昨今、「ジョブ・クラフティング」という概念が注目を集めている。東京都立大学大学院教授の高尾義明氏には、ジョブ・クラフティングは個人の学習行動と、どういった関係にあるのか、組織としてジョブ・クラフティングに取り組むためには、何が重要なのかなどについて、話を伺った(➡こちらの記事)。

また、経営における個人と組織の関係性について研究をしている神戸大学大学院教授の鈴木竜太氏には、個人と組織の学習行動を促進するためには、何が重要なのか、そして学習行動の促進に向けて、リーダーやマネージャーにはどのような取組みが求められるのかなどについて話を伺った(➡こちらの記事)。続いて、長年にわたり日本企業のイノベーション創出について研究している武蔵大学教授の山﨑秀雄氏には、組織学習とイノベーション創出の関係や、イノベーションの創出に向けて、どのような組織設計や組織マネジメントが重要になるのか、また、注目される企業事例などについて話を伺った(➡こちらの記事)。

創造性とチーム学習行動に関する研究をしている東洋大学准教授の木村裕斗氏には、企業において、チーム学習行動を促進するためには何が重要になるのか、創造的なパフォーマンスを生み出すチーム学習行動とは、どういったものなのか、そして創造性が発揮されやすい集団特性などについて話を伺った(➡こちらの記事)。

本特集では「社員が『自育』する組織へ」をテーマに、社員が自ら学び成長する組織をどう構築すべきか。多様な角度から検証した。今後の組織づくりの一助となれば幸いだ。