賃上げをともなう幸せな労働移動こそ雇用流動化拡大の鍵
生産性向上やイノベーション創出に向け雇用流動化が進むためには、企業や社会の利益だけでなく労働者個人の幸せも考慮に入れた労働移動、すなわち賃上げをともなう労働移動が必要だ。
雇用流動化は誰のため?
当事者不在の「べき論」

中村 天江
公益財団法人連合総合生活開発研究所(連合総研)主幹研究員
博士(商学、一橋大学)。専門は人的資源管理論。「働くの未来」をテーマに調査研究・政策提言を行う。1999年リクルート入社、2009年リクルートワークス研究所に異動、2021年連合総研に転職。連合総研にて「労働組合の未来」研究会を主担当として推進、2024年6月、研究報告書『労働組合の「未来」を創る――理解・共感・参加を広げる16のアプローチ』を発表。2024年から法政大学「職業キャリア政策」、早稲田大学「ダイバーシティ&インクルージョン」を非常勤で担当。著書に『採用のストラテジー』(慶應義塾大学出版会、2020年)、最近の論文に「社会関係資本としての労働組合――出会いとボランティア」(『日本労働研究雑誌』、No.775)。
「日本では解雇ができないから企業は成長できない」、「経済を発展させるためには雇用の流動化が不可欠である」。こういった言説を聞くたびに正直、少ししらけた気持ちになる。それは雇用流動化が不必要だと思っているからでも、終身雇用が絶対的な最善解だと信じているからでもない。
筆者はかつて就職や転職の企画の仕事に従事していたこともあり、労働移動は必要かつ重要だと考えている。労働移動が円滑にできるように、もっと環境を整備するべきだとも主張してきた。にもかかわらず、こうした雇用流動化推進論には違和感を拭えない。なぜならこうした意見は、本来労働移動の中心にいるはずの個人の満足度や幸福度をまったく考慮していないからである。
(※全文:2844文字 画像:あり)
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