解雇規制と雇用の流動性の関係を再考する

雇用流動化の妨げになっているとして、しばしば緩和が主張される解雇規制。昨年の自民党総裁選で複数の候補者が争点としたのは記憶に新しい。しかし、緩和は本当に流動性をもたらすのだろうか?

日本の曖昧な解雇法制

江口 匡太

江口 匡太

中央大学商学部教授
専門は労働経済学、公共経済学。東京大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。筑波大学社会工学系講師、准教授を経て、2013年より現職。2023年より労働政策審議会雇用環境・均等分科会委員。著書に『キャリア・リスクの経済学』(生産性出版、2010年)、『大人になって読む経済学の教科書』(ミネルヴァ書房、2015年)、論文に「雇用流動化で考慮されるべき論点:解雇がもたらす影響について」日本労働研究雑誌No.647(2014年)、「労働者性と不完備性:労働者が保護される必要性について」同No.566(2007年)など。

意外かもしれないが、欧州諸国とは大きく異なり、日本では労働者を解雇するにあたり、企業が順守すべき告知期間、補償される金銭額、労使間の交渉をめぐる手続きなどに具体的な規定はほとんど存在しない。日本では成文法上の規定は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法第16条)とあるだけで、何かを具体的に規定しているわけではない。

また、経営上の理由による整理解雇については、判例の積み重ねの結果、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人員選定の合理性、④解雇手続の相当性、の4項目が注目されることが多いが、これもまた曖昧である。最も注目されるのは②解雇回避努力であり、配置転換や希望退職を募ることがこれにあたる。しかし、希望退職を募っても解雇が認められないこともあれば、反対に募らなくても認められることもある。

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