職場における「人の心理」を研究、人材の定着・育成を問い直す

雇用が流動化している中で、心理的安全性、エンゲージメントなどに見られるように、働く人の「心理」が注目されている。名古屋大学大学院・鈴木智之准教授に、職場における人間の性格心理に関する研究と、その知見に基づく人事活動の必要性について、話を聞いた。

企業の人事活動に資する
パーソナリティ研究の知見

鈴木 智之

鈴木 智之

名古屋大学大学院 経済学研究科産業経営システム専攻 准教授
1976年生まれ。慶應義塾大学卒業後、アクセンチュア株式会社に入社。同社退職後、起業して会社経営者を務める。その間、東京工業大学大学院に入学し、修士課程および博士課程修了。博士(工学)。東京大学大学院情報学環特任准教授などを経て、2021年4月から名古屋大学大学院経済学研究科准教授。2022年10月から岐阜大学社会システム経営学環准教授を兼務。主な著書に『就職選抜論-人材を選ぶ・採る科学の最前線-』(日本の人事部「HRアワード2022」書籍部門受賞)、『ワークプレイス・パーソナリティ論-人的資源管理の新視角と実証-』(日本の人事部「HRアワード2023」書籍部門受賞)。

── 鈴木先生は「ワークプレイス・パーソナリティ」の研究に取り組まれています。

ワークプレイス・パーソナリティ研究とは、職場(ワークプレイス)における人間の性格心理を扱うものです。心理学分野で長年にわたりパーソナリティ理論が研究されていますが、欧米では、その成果をワークプレイスに適用し、採用や育成などの人事施策に活かすための研究が活発化しています。しかし日本では、経営学分野において、パーソナリティ理論はあまり注目されていません。

よく知られたパーソナリティ理論として、ビッグファイブがあります。ビッグファイブとは、「外向性」「協調性」「勤勉性」「情緒安定性」「開放性」の5因子で人間の特性を捉える理論です。

雇用が流動化する時代において、人材の「定着」を促進するうえでも、パーソナリティ理論は欠かせません。例えば、新規入職者の定着や早期戦力化を目的とするオン・ボーディングについて、一般に「導入研修の充実」や「マニュアルやガイドラインの提供」等の施策が考えられますが、ビッグファイブの「開放性」が高い新規入職者は、一律のフォーマルな研修や明確なガイドラインよりも、実際の業務に従事しながら、ロールモデルとなる既存社員による支援のほうを好むという研究結果があります。

個々人のパーソナリティ特性と、それに基づく人間心理の理論的枠組みを知ることは、効果的な人材マネジメントの実現につながります。近年、ダイバーシティ経営が推進され、性別や国籍等の多様性が議論されていますが、一方で個々人のパーソナリティの差異については、あまり重要視されていません。私は多様性を考える軸の一つとして、個々人のパーソナリティの差異にもっと目を向けるべきだと思います。

(※全文:1954文字 画像:あり)

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