企業のエンゲージメントを科学的に可視化・分析する

従業員エンゲージメントを向上させ、経営戦略へ落とし込むには、適切な分析が必要だ。「人材版伊藤レポート」の提唱者である伊藤邦雄氏とともに、エンゲージメントの科学的な可視化・分析モデルを開発したBUSINESS-ALLIANCE代表取締役の藤田健太郎氏に特徴や分析事例を聞いた。

人的資本経営の第一人者と
新たな分析モデルを共同開発

藤田 健太郎

藤田 健太郎

BUSINESS-ALLIANCE株式会社 代表取締役
ベンチャー企業の成長支援を行うBNGパートナーズに入社の後、営業成績・マネジメント能力を評価され、代表取締役に就任。クライアント数約2,000社の支援を総括し、150社のイグジットに貢献。日本有数のプライム上場企業にて、新規事業立ち上げやDX支援を実施する中で、経営と組織を一気通貫で強化するソリューションの提供に可能性を感じ、2019年にBUSINESS-ALLIANCEを創業。

2019年に創業したBUSINESS-ALLIANCEは、企業価値を向上させるための、人的資本データの「可視化・分析」を行う「coval(コバル)」を提供し、企業の持続的な成長を支援している。2025年4月、同社は「人材版伊藤レポート」の提唱者であり人的資本経営の第一人者である一橋大学名誉教授の伊藤邦雄氏の監修および共同開発により、企業のエンゲージメントを科学的に可視化・分析する「伊藤版エンゲージメント分析モデル」(以下、「本分析モデル」)を発表。本分析モデルを追加した「coval」の改定版を同年5月から提供開始した。伊藤氏と同社が出合うきかっけとなったのは、伊藤氏らが発起人を務める「人的資本経営コンソーシアム」の設立時会員に同社が所属したことだった。代表取締役の藤田健太郎氏はこう振り返る。

「起業時から論理的なデータによる課題の構造化・組織の可視化の重要性を訴え、事業を展開してきた一方、企業の役員層などには否定的な方もいました。ですが伊藤先生が人的資本経営を提唱しはじめると、企業のニーズは一変。私たちにとって伊藤先生は市場を拓いてくれた方でもあります。課題の優先順位を科学的に導き出すモデルをつくりたいとご相談したことから開発に至りました」

エンゲージメント向上の
課題となる要因を抽出する

本分析モデルは、持続的な価値創造につながるエンゲージメントKGI(重要目標達成指標)を定め、そこに対してどのような「因子」が影響しているかをモデル図化できる。

同分析モデルを実装した「coval」は企業価値(Corporate Value)を向上させるために、財務情報と人事情報を収集・統合し、資本を可視化・分析する人的資本経営支援ソリューションだ。自社の資本を「可視化→経営戦略を再構築→各資本へ」の投資を実践する改善サイクルを中長期的に続け、企業価値の向上に向けたロードマップを描く支援をしてくれる。具体的にどんな分析ができるのか。同社事業開発部マネージャーの榎本結花里氏は、エンゲージメントがどういった因子で構成されており、因子同士がどう影響を及ぼし合っているかがわかると指摘する。

「例えば、ある企業のエンゲージメントKGIに対して『経営戦略への信頼』が因子として影響度が高いにも関わらず、現在の評価を示すスコアランキング上の評価が低い場合、ギャップが生じていることが可視化できます(図)。この分析が同時に複数の因子を対象に行えるため、エンゲージメント向上に、どこに引っ掛かりがあるのか、つまり真因が見えてきます」

図 エンゲージメント向上モデルと要因抽出による分析イメージ

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他データとエンゲージメントサーベイを掛け合わせた分析を行い施策検討につなげることもできる。このためエンゲージメントが事業成果とどのような関係を成しているのかは、管理会計データを活用して組織分析をするというアプローチで見える化できる。

例えば、エンゲージメントが高くかつ成果も出ている「成長エンジン」に当てはまる企業内の組織はどこか、また、エンゲージメントは高くないが成果が出ている「リスク検討」に当たる組織はどこかなど、因子と組織の相関性が見えてくる。これを活用し、組織ごとの課題を整理したり、組織の傾向から仮説を立てた施策を経営会議に諮ったりすることにつながる。また、人事データと連携した分析もできる。残業時間は少ない方がよいと思われがちだが、労働時間とエンゲージメントの関係を見ていくと、「単純に残業時間が少なければいいわけではないことが見えてきたりする」と榎本氏は説明する。

「残業できないことで従業員は成長時間を奪われている、自律性が阻害されていると感じるケースは珍しくありません。労働時間をはじめ、現状分析から本当に必要とされる制度をつくることもできるでしょう」

「coval」は導入企業が保有する既存データ(エンゲージメントサーベイや従業員満足度等)のみで分析が可能。さらに、提供するレポートはファクトデータをわかりやすく示してくれるので、経営会議の素材として使うことができる。本分析モデルを実装した「coval」のリリースにあたり、明治グループがトライアルで導入した。エンゲージメントは経営戦略の達成のための先行指標と位置付けていたため、どのように改善サイクルを構築していくかを重視しサポートした。リリース後は、製造業、サービス業、小売業など大手上場企業でも本分析モデルの導入が進んでいるという。今後は「施策データを積み重ねていき、より経営を科学していきたい」と藤田氏は話す。

『この施策を打ったから、あれが変わった』と裏付けができるような、効果検証データを提供できるようになることを目指します」

また、「coval」で実践しているように中長期的に経営成長を支えるアライアンスを組み、その企業にとって唯一無二の存在になりたいと話す。

「『良い戦略を描けたので、あとは実行力を上げるだけ』もしくは『可視化された現場の声から、新たな戦略を描きたい』。こうした課題感や期待をお持ちの企業さまの力になっていきたいですね」

写真左から藤田健太郎氏、伊藤邦雄氏、榎本結花里氏。

 この他、スピーディーな課題解決をするための業務遂行におけるミスや漏れを無くし、「実行支援」をする「flowzoo(フローズー)」などを提供している。