優秀な女性の力を地域に活かす「でじたる女子プロジェクト」

結婚や出産で、復職が難しい。仕事と家庭のバランスが取りにくい。そうした女性たちに、自分で仕事や働き方を選択してほしいという願いから設立され、多様な働き方が可能な仕組みを提供することで女性の就労と自立を支援しているのがMAIAだ。CEOの月田氏に、その思いを聞いた。

女性たちが自信を持って
自立できる社会を目指して

月田 有香

月田 有香

株式会社MAIA 代表取締役CEO
兵庫県出身。関西学院大学卒業後、アビームコンサルティング株式会社にて、業務設計やシステム導入、内部統制導入を推進。その後、2017年に株式会社MAIAを共同創業し、CEOに就任。MAIAでは2018年より全国に約1,500名のRPA、SAPなどに携わる女性デジタル人材を育成、官民連携の就労支援を推進している。

2017年11月に設立されたMAIAは、「女性活躍」×「地域」×「IT」の掛け合わせを通じて、女性が自分自身で仕事や働き方を選択し、あるいは築いたキャリアを諦めずに働き続けることで「自分らしく生きられる未来」をつくることを目指している。

そのために独自の学習プログラムによって女性のITスキル向上を図るリスキリング支援や、スキルを習得した女性の就労支援を展開。また、地方自治体や企業のDX推進などを主な事業としている。

共同創業者で代表取締役CEOの月田有香氏には、自立を目指す女性を取り巻く環境や状況についての痛切な問題意識があったという。

「日本の女性は、結婚や出産などライフスタイルの変化によって働き方やその有り様が変わってしまいます。私自身、優秀な女性が結婚などでキャリアを断念せざるをえず、その後も復帰できないといった姿を目にしてきました。そうした女性たちがもっと活躍できる場を作れたら、という思いが起業の大きな動機です。特に日本は、男女の役割に明確な格差があり、地方ほどその傾向が強くあります。そのなかで、自分に自信を持てない、自分が活躍していけるイメージを持てないという女性が多く、男性側もどうすればよいのかがわからない。そうした社会の現状を何とかしたいと思いました。人口減少が進む日本は、女性も含めて総動員しなければ立ち行かなくなります。女性が自信を持って自立し、自分の道を歩いていくことが、社会の活性化につながると思いますし、そのためには女性特有のライフスタイルに合わせて、いつでもどこでも仕事ができ、しかも高単価で働ける環境をつくることが必要なのです」

日本の働く女性を取り巻く
深刻な現状を変えていく

世界経済フォーラム「グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書(2024)」によると、日本のジェンダーギャップ指数は146ヵ国中118位で、特に政治・経済の分野で低迷している。

男女間の賃金格差も、長期的には縮小傾向にあるが、男性一般労働者の給与水準を100とした場合、女性は75.2%台で、依然として格差が大きい。さらに国際比較で見ると、OECD加盟国の平均(88.4%)を大きく下回っている。また、総務省統計局「我が国における家事関連時間の男女の差」によれば、共働き世帯における、6歳未満の子どもを持つ夫婦と子どもの世帯について、家事関連時間(週全体平均)を見ると、夫は1時間55分に対して、妻は6時間33分となっており、共働き世帯の家事負担も圧倒的に女性のほうが大きい状態が続いている。

加えて、「地域のジェンダーギャップも深刻です」と月田氏は語る。

「沖縄県ではシングルマザーが生活困窮に陥る例も多く、千葉県や四国も課題先進地域と言えます。また、ほとんどの県で都市部(東京23区+政令指定都市)への女性の転出超過が進んでいます。主な理由は『やりたい仕事がない』『低所得』『人間関係が閉鎖的』などで、ジェンダーに関するアンコンシャス(無自覚な)・バイアスも根強いという声もよく聞きます。さらに弊社の独自調査では5割近い女性が常駐での就労が難しく、稼働できる時間も8割が月120時間以下と答えています。このため、多くの女性は働く意欲があっても就労条件と一致せず、結果的に女性の力が活用されずに眠っている。それが今日の日本女性を取り巻く現状なのです」

ITスキルの習得はもちろん
就労につなげることを重視

ITスキル習得を通じて女性の活躍機会拡大と国・地域の生産性向上を目指す上で、MAIAは、世界トップシェアのERP(統合基幹業務システム)であるSAPや、定型業務を自動化するRPAなど、いわゆる基幹システム系のデジタル人材育成を重視している。不足人材が2万人にものぼるといわれるSAPをはじめ人材不足が特に深刻な分野に着目すれば、就労率も高くなるからだ。そして、需要の高いITスキルの習得を促し、高単価な業務と女性たちとのマッチングを実現すべく、同社が展開している事業が「でじたる女子プロジェクト」だ。

図 全国のでじたる女子プロジェクト

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事業のコンセプトは「集める・育てる・『働く』を創る」。大きな特徴の一つに、地方自治体との積極的な連携がある。最初の事例が誕生したのは、愛媛県や沖縄県糸満市といった女性活躍が喫緊の課題となっていた地域で、首長自らがトップダウンで連携を進めたという。その後、県職員などの提案によるボトムアップでの連携も進み、これまでに8県、10市町村等が「でじたる女子プロジェクト」でMAIAと連携している(図)。

たとえば、岩手県が2024年度に実施した「いわて女性デジタル人材育成プロジェクト」では、7月から県在住18歳以上の女性30名を募集し、10月から4ヵ月にわたってデジタルスキルを習得した。

「でじたる女子プロジェクト」の集合研修の様子。

カリキュラムは、まず共通コースとして「ビジネススキルプログラム」(約29時間)がある。ビジネス基礎や自己研鑽(マインドセット)、IT基礎、テレワーク基礎などをeラーニングで学習する。また、学習を進めていくにあたって、同期である仲間との一体感やモチベーションアップを図るために、集合型の現地研修を実施する(3回合計約13時間)。集合研修では、ロジカルシンキングやセルフブランディングなど、就労に必要な考え方やマインドを身に付けていく。

そして、「ITスキルプログラム」では「業務知識+SAP基礎コース」(約140時間)と「業務改善+RPA開発コース」(約160時間)の2コースからカリキュラムを選択する。

「業務知識+SAP基礎コース」では、製品知識や業務知識、テスト手法、運用保守などを学び、実際に実機でオペレーションをしながら、様々な基礎知識を学んでいく。

「業務改善+RPA開発コース」では、国内シェアが高く、ニーズの多いRPAツール「Ui Path」「BizRobo!」を使用し、RPAの開発技術や業務効率化をするための手法などを学ぶ。なお、岩手県では「SAP」「RPA」の2コースだが、連携先の希望に応じて、「ChatGPTプロンプトエンジニアリング」「ServiceNow」「Tricentis」など別コンテンツの提供も可能だ。

学習中は、Slackによる随時サポートや月次相談会といった伴走支援も充実しており、受講料は県の助成により8,800円に抑えられている。最後に、実技試験とマークシート方式の学科試験の認定試験を受験、合格すると「でじたる女子」に認定される。認定されると、MAIAの専門カウンセラーが就労希望条件などを聞く「キャリアヒアリング」を経て、県内外のプロジェクト案件を紹介するという流れだ。

「社会で活躍したい、力を活かしたいという女性を集めて、デジタル人材として育成し、就労支援まで一気通貫で行うのが『でじたる女子プロジェクト』という取り組みです。eラーニングを通じてビジネスやITの基礎から専門スキルまで学んでいただきますが、私たちがそうした育成以上に大事にしているのは、その後いかに就労につなげていくかです。短時間なり、リモートなり、自分のライフスタイルに合わせた働き方で就労先につないでいくことこそが、この取り組みの眼目です。現在、自治体でもリスキリングやリカレント教育支援が活性化していますが、プログラム修了後、就職活動をした際に、先ほどの常駐や稼働可能時間の問題から、就労率の点では課題があります。そこでMAIAでは、『でじたる女子』を対象に、『中間就労』と呼ばれるチーム制のワークシェアリングOJTを取り入れました。これにより、常駐が難しい方や稼働可能時間に制限がある方も、実際の業務に参加できるようにしています。もちろんプロジェクトの最終的なQCD(品質・コスト・納期)はMAIAが担保しますが、まずは女性たちが協力し合いながら働ける形をつくる。それが『でじたる女子プロジェクト』の大きな特徴です」

また、MAIAは、2022年5月に、グラミン日本、SAPジャパンとともに「でじたる女子活躍推進コンソーシアム」を設立、自治体と連携しながら、就労機会を求める地域女性の経済的・精神的自立を支援する取り組みを強化している。コンソーシアムには、大手コンサルティングファーム、国内大手IT会社、国内大手通信会社などがパートナー企業として参画。パートナー企業は「中間就労」の受託先となったり、ITスキル習得のプログラムの提供などを行っている。

また、「でじたる女子プロジェクト」には、もう一つ、オンラインコミュニティづくりという特徴もある。志を同じくする女子同士の重要なコミュニケーションの場にもなっている。

「自治体連携で進んでいるプロジェクトの場合は、その自治体内だけのコミュニティですが、『でじたる女子』に認定されると全国規模のコミュニティに入ることができます。現在、約1,500人の規模になっており、技術情報の他、就労情報の交換なども活発に行われています」

地域の女性が地場産業に
貢献する「地産地消」モデル

全国に「でじたる女子」を増やしていく先に月田氏が見据えているのは、人材の「地産地消」だ。

「今後は、地域の女性人材が地域の企業のDXに、多様な働き方を通じて貢献していくという『地産地消モデル』によりフォーカスしていきたいと考えています。テレワークやリモートのような多様な働き方の仕組みを導入すれば、諸事情によって埋もれている優れた人材を地域の企業が活用できる余地がまだまだあるはずです。そのためのインフラ全体を整え、女性たちの就労を支援していく上で、地域企業はもちろん、それを支える自治体や商工会、地銀などそれぞれの意識改革も必要かもしれません。地域企業の場合、『正社員雇用』などの概念にとらわれているケースも多いので、企業自体も変わっていただき、女性の多様な働き方についての理解を深めていただくことが欠かせないからです。リスキリングして終わりではなく確実に就労につなげるための支援に加え、そうした啓発活動にも力を入れていきたいと思います」

「でじたる女子プロジェクト」の卒業生で糸満市のシングルマザーだったある女性は、パソコンに触れたこともなかった状態から見事「SAP」コースを修了し、現在グローバルコンサルティングファーム系の企業でリモートワーカーとして働く一方、福島県に移住して「プチ起業」を進めているという。

「この方のように、チャレンジをして人生を大きく変えた女性が大勢います。最近はプチ起業をしたいという女性も多くなったので、今後は、皆さんとともにどのような形がよいかを考えながら、起業支援も視野に入れる必要がありそうです」

活かされないまま埋もれている女性の才能やパワーを引き出すMAIAの取り組みには、まだまだ大きな可能性が秘められている。

「男女間賃金格差(我が国の現状)」男女共同参画局  https://www.gender.go.jp/research/weekly_data/07.html