【文科省議事録詳報】体育の授業に「余白」を 次期学習指導要領、種目の限定表記を見直しへ

文部科学省は7月14日、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会「体育・保健体育、健康、安全ワーキンググループ」(第9回、2026年4月24日開催)の議事録を公開した。会合はウェブ会議と対面を組み合わせた形式で開かれ、議題は体育・保健体育の指導と評価の改善・充実。友添秀則主査(環太平洋大学体育学部教授)の進行のもと、前半と後半の2部構成で審議が進められた。

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次期学習指導要領の検討にあたっては、中央教育審議会教育課程企画特別部会が2025年9月にまとめた「論点整理」で、「主体的・対話的で深い学びの実装」「多様性の包摂」「実現可能性の確保」という3つの方向性が示されている。今回の会合ではこの方向性を踏まえながら、学習内容の精選による余白の創出、デジタル学習基盤の活用、教科の授業時数を柔軟に配分できる調整授業時数制度の活用という3つの論点を軸に意見が交わされた。

運動種目の限定的な示し方を見直す

前半ではまず、事務局を務めるスポーツ庁政策課の赤間企画調整室長が資料を説明した。現行の学習指導要領は運動領域について「〇〇運動では特定の運動を行う」という形で内容を示しており、この書き方が教師にとっても児童生徒にとっても「その運動をこなさなければならない」という義務感につながり、内発的な動機づけを引き出す活動や多様性を包摂した授業展開の妨げになっているとの問題意識が示された。

これを踏まえ、神経系の発達が進む小学校1〜4年生については、身につけさせたい「動き」を軸にした示し方へ見直す方向で検討が進められる。小学校5年生以降は多様な運動やスポーツを経験する段階と位置づけ、運動や種目の示し方をより柔軟にする案が示された。一方で、具体的な活動を示さなくなることで現場の指導イメージがかえって湧きにくくなる懸念にも触れ、学習指導要領本体ではなく指導参考資料などで活動例を補う考え方が示された。

続いて、2年間を一つのまとまりとして学習内容を計画する現行の枠組みについても議論が及んだ。実際の学校では特定の学年に特定の種目が偏って配置される実態があることを踏まえ、指導計画の立て方をより分かりやすく示し、国としても計画づくりの工夫を積極的に発信する方向性が説明された。加えて、体育と保健で内容が重なる部分、たとえば心の健康の学習とストレス対処としての運動の関係などについては、系統性を踏まえながら精選のあり方を検討することも論点として挙げられた。

こうした余白の創出という方向性について、佐藤豊委員(桐蔭横浜大学スポーツ科学部教授)は、「高次の資質・能力」という新しい用語が、既存の知識・技能や思考力・判断力・表現力とは別の新たなスキルであるかのように誤解されかねないと指摘した。斎藤祐介委員(神奈川県立総合教育センター体育指導センター指導研究課長)も、余白の創出が授業時数の削減を意味するものではないと強調したうえで、技能の示し方を見直す一方で「すること」自体を軽視してはならないと述べ、水泳指導を例に、実技を伴わない指導へと安易に置き換えられることへの懸念を示した。

小学校での実践を報告した中村めぐみ委員(つくば市立みどりの学園義務教育学校副校長)は、「精選」という言葉が現場では「削減」と受け止められがちだとしたうえで、自校では学習内容を削るのではなく組み替えて再構成する考え方でカリキュラム・マネジメントに取り組んでいると紹介した。動画教材の家庭配信や、運動会を体育の資質・能力を発揮する場として位置づけ直す取組を挙げ、行事と教科学習の共存を図っていると説明した。

デジタル活用は「使うこと」の目的化に注意

2つ目の論点であるデジタル学習基盤の活用については、動画撮影による動きの確認や学習カードの即時共有といった取組がすでに日常的になっている状況が報告された。事務局は、動きの質や保健の概念理解を深める効果が期待される一方、機器の操作そのものが目的化しないこと、体を動かす活動時間を十分に確保すること、個人情報への配慮が必要であることを留意点として挙げた。

渡辺弘司委員(公益財団法人日本学校保健会副会長、公益社団法人日本医師会常任理事)は、保健分野におけるパーソナル・ヘルス・レコード(PHR)の活用に言及し、マイナポータルに記録された健康情報を学習に生かす視点の重要性を述べた。宇山賢委員(株式会社Es.relier取締役)は、資料でVR技術に限定して言及されている点について、AR技術の普及も踏まえ、より上位概念であるXRという表現を用いるべきだと提案した。森良一委員(東海大学体育学部体育学科教授)は、デジタル活用が進む一方で健康面への影響について資料に記載がない点を課題として挙げ、ワーキンググループとして注意点を示す必要性を訴えた。

調整授業時数制度、期待と時数削減への懸念が交錯

3つ目の論点である調整授業時数制度は、各教科の標準授業時数の一部を捻出し、既存教科への上乗せや新教科の設定、あるいは裁量的な時間として児童生徒の新たな学習や教員の研修に充てられるようにする仕組みで、教育課程部会総則・評価特別部会で要件や類型、上限が検討されている段階にある。事務局は活用イメージとして、年齢や障害の有無を超えたスポーツの提供、外部専門家や機関と連携した安全教育、トレーナーによる科学的なモニタリングを取り入れた探究的な学び、地域資源を生かした授業、体育と保健を関連づけた単元展開の5つを示した。

この制度をめぐっては、複数の委員から授業時数そのものが減らされるのではないかという懸念が相次いだ。佐藤豊委員は、義務教育と高校でそれぞれ検討されている柔軟化によって実際にどの程度の時数減が見込まれるのか、具体的な数値を明らかにするよう求めた。渡辺弘司委員も総枠を維持することの重要性を重ねて述べ、子どもの心身の健康が学習の基盤であることを踏まえた制度設計を求めた。佐藤若委員(静岡産業大学准教授)は、高校現場で体育の授業が軽視されかねないという不安があるとしたうえで、柔軟な教育課程の編成権を持つ校長をはじめ現場の教員が制度の趣旨を正しく理解できる学習指導要領であってほしいと述べた。

一方、金岡恒治委員(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)は、外部専門家の活用例としてトレーナーが挙げられている点を評価し、公益財団法人日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)の活用を提案した。藤田大輔委員(大阪教育大学特任教授)は、2007年度から2011年度にかけて大阪教育大学附属池田小学校長を務めた際、教育課程特例校の指定を受けて2009年度に安全科を新設した経験を踏まえ、教科横断的な安全教育を調整授業時数制度の検討に含めるよう求めた。

教科書の記述にも精選の余地

教科書のあり方についても意見が出された。柏原聖子委員(狛江市教育委員会教育長)は、探究的な学習に十分な時間を割くためには教科書の内容そのものの作り方を見直す必要があるとし、がんに関する教材を例に、生活習慣病だけでなく感染性のがんや原発不明のがんまで幅広く扱える構成にすべきだと提案した。

高次の資質・能力を軸にした単元計画のイメージを提示

後半では、知識・技能を統合的に理解する力と、思考力・判断力・表現力を総合的に発揮する力を合わせた「高次の資質・能力」を、実際の授業づくりにどう生かすかという論点に移った。事務局は、小学校5年生の保健「心の健康」と中学校1・2年生の体育「ネット型バレーボール」を題材に、高次の資質・能力を起点として学習過程を組み立て、単元計画や評価計画に落とし込んでいく一連の流れを図で示した。

この提示に対し、森良一委員は、「学びに向かう力・人間性等」の評価がこれまでの議論の中で知識・技能の側に位置づけられてきた経緯を踏まえ、単元の目標や評価規準には3つの資質・能力がバランスよく反映される必要があると指摘した。斎藤祐介委員は、示された単元計画の完成度自体は高く評価しつつも、現行の授業時数のままでは全国の学校でこれを実現するのは難しく、時数の確保が伴わなければ理想が「絵に描いた餅」に終わりかねないと述べた。あわせて、領域ごとの資質・能力と全領域に共通する資質・能力を並列で示す事務局案には異論を唱え、両者を関連づけて統合的に理解し総合的に発揮できる力こそが高次の資質・能力の本質だとの考えを示した。

岡出美則委員(日本体育大学スポーツ文化学部教授)は、示された学習過程の図には、気持ちが落ち込んでいる子どもや自信を持てずにいる子どもがそのプロセスに乗れない場合への対応が読み取りにくいと指摘し、総則・評価特別部会での議論の経過を確認するよう事務局に求めた。前島光委員(日本女子体育大学体育学部健康スポーツ学科教授)も同様の問題意識から、運動が苦手な子どもや特性のある子どもを置き去りにしないために、「できる」をどの程度の到達で捉えるか、合理的配慮を踏まえてどこまで幅を持たせるかを明確にする必要があると述べた。

資料の分かりやすさについても指摘が相次いだ。佐藤若委員と岩佐知美委員(高槻市立冠中学校校長)は、単元計画づくりの参考イメージが内容としては理解できるものの、現場の教員がひと目で活用できるようにするにはさらなる簡素化が必要だと述べた。日野克博委員(愛媛大学教育学部教授)は、知識・技能の統合的な理解と思考力・判断力・表現力の総合的な発揮が相互に高め合う「横の関係」をより分かりやすく説明すべきだと述べ、柏原聖子委員は、心身の自己管理と社会性の育成を両立できる体育・保健体育の教科としての意義を改めて確認する必要があると述べた。

取りまとめに向け議論継続

友添主査は会合の締めくくりで、学習指導要領の改訂が現場の授業そのものを変えることになると述べ、引き続き議論を深めていく考えを示した。会合終了後も委員からの追加意見は事務局がメールで受け付けるとしている。

ワーキンググループはその後、2026年6月5日に第10回会合を開き、部活動・地域クラブ活動の学習指導要領上の扱いや、これまでの議論を踏まえた取りまとめの骨子案について審議した。取りまとめに向けた議論は現在も続いており、今後の会合の動向が注目される。