文化庁、コンテンツ人材育成21件採択

文化庁は2026年7月3日、独立行政法人日本芸術文化振興会に置かれた「クリエイター支援基金」(文化芸術活動基盤強化基金)を活用する2025年度補正予算事業「コンテンツ制作・発信を支える中核的専門人材育成・確保等」について、第1次採択先21件を決定したと発表した。応募総数55件から審査を経て絞り込まれた採択先は、マンガ4件、アニメ5件、ゲーム5件、映像4件、音楽2件、文芸等その他1件の6分野に及ぶ。第2次公募は2026年夏以降に予定されている。


Photo by Eric Akashi/ Adobe Stock

海外売上20兆円めざす背景

採択の背景には、日本のコンテンツ産業が抱える構造的な課題がある。マンガやアニメ、ゲーム、映画といった日本発コンテンツは世界市場で高く評価され、海外売上は半導体産業や鉄鋼産業の輸出額をすでに上回る規模へ育った。政府はこの勢いを追い風に、2023年時点で約5.8兆円だったコンテンツ産業の海外売上を、2033年までに約4倍となる20兆円へ引き上げる目標を掲げている。目標の実現には、全マンガ作品を扱う配信プラットフォームの構築、多言語翻訳AIを使いこなせる翻訳人材の育成、コンテンツの質を支える制作人材の確保、戦略的な海外発信体制の整備が不可欠だと文化庁は説明する。

175億円で3年間支援

文化庁は2025年度補正予算に175億円を計上し、産学官が連携してマンガをはじめとするコンテンツの海外発信基盤を複数年度にわたって整える取り組みを進めている。今回採択された21件は、このうち「コンテンツの制作・発信を支える人材の育成等」に位置づけられる事業で、アニメーターやゲームプログラマー、マンガ翻訳者など制作・発信の現場を直接担う中核的専門人材の育成・確保を目的とする。事業期間は2026年度から2028年度までの3年間、予算規模は1件あたり上限2億円で、5者以上の団体が参画する委託型事業に限り上限4億円まで拡大される。申請対象は、教育機関や企業、自治体など2者以上が連携する補助型と、業界統括団体が教育機関・企業・自治体等と連携して取り組む委託型の2種類だ。

経産省の育成策と連動

育成の枠組みは、経済産業省が進めてきた事業者支援策とも連動する。2023年度補正予算による「卓越した若手クリエイター」育成、2024年度補正予算による「グローバルに活躍する高度専門人材」育成に続き、今回の事業は制作・発信実務を直接担う中核的専門人材の裾野を広げる位置づけとなる。育成対象には現職の実務者だけでなく学生も含まれ、基本的技術の習得から卓越した技術の継承、3DCGやVFX、AI活用といった新技術対応能力の向上、キャリア教育まで幅広い取り組みが支援メニューとして想定されている。

マンガ分野は4件採択

マンガ分野で採択された4件のうち、特定非営利活動法人映像産業振興機構は、スペインの翻訳会社ダルマ社と連携し、スペイン語圏における日本マンガの翻訳者を育成する「HOLA, MANGA!」を採択額1億9995万円で手掛ける。株式会社角川メディアハウスは、海外ライセンスや商品化企画を担う人材の育成プログラムを1億9817万円で展開し、株式会社コアミックスはマンガ家・編集者への教育を通じて翻訳家を育てる取り組みを2億円で進める。一般財団法人出版文化産業振興財団も、実際の作品を翻訳するOJTと国際ブックフェアでのネットワーキングを組み合わせた翻訳者育成事業で1億9974万円の採択を受けた。

アニメ分野は5件採択 採択額最大

アニメ分野は5件が採択され、6分野の中で採択額の合計が最も大きくなった。株式会社KADOKAWAクリエイターズは、2026年3月に設立した育成・制作一体型スタジオを軸に、制作会社・動画工房が開発した教材「アニメータードリル」を活用する人材定着支援プロジェクトを2億円で実施する。学校法人呉学園は、アニメーター養成機関ササユリ動画研修所が完全監修する教育キットを開発し、海外展開も見据えた普及事業を同額で進める。ソニーグループ株式会社は、アニプレックス傘下のアニメ制作スタジオCloverWorksとA-1 Picturesが2026年4月に開所した作画スタジオ「FLINT BASE」を通じ、動画・原画人材の育成を2億円で行う。株式会社新潟日報社は新潟県や地元制作会社と連携した地域人材育成プロジェクトに1億8644万円、一般社団法人日本動画協会は制作進行と演出という不足職種の緊急的な育成対策を含む基盤整備事業に3億9960万円の採択を受けた。

ゲーム分野は5件採択

ゲーム分野では、株式会社アークライトがアナログゲームのデザイナーや開発ディレクターを育成するプロジェクトに1億9999万円、株式会社NHKエンタープライズが全国のコンテスト団体など35団体以上と連携する育成プログラム「Overgrow」に1億8182万円を投じて採択された。一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会は小中高生を対象とした教育導入基盤の整備を1億9807万円で進め、学校法人福岡工業大学は2027年4月に開設を構想中の「デジタルメディア学部(仮称)デジタルメディア学科」を軸とした3DCGクリエイター育成事業を1億2365万円で、福岡市は「クリエイティブ都市・福岡」の一環として地元クリエイターの育成と企業との接点づくりを8385万円で、それぞれ実施する。

映像分野は4件採択

映像分野では、特定非営利活動法人映像産業振興機構が模擬撮影演習や国際俳優育成、バーチャルプロダクション技能者育成など4つのプログラムを組み合わせた包括的な基盤整備事業で3億3353万円の採択を受けた。特定非営利活動法人ジャパン・フィルムコミッションはロケ撮影の受け入れを担うフィルムコミッション人材の育成事業に1億9849万円、株式会社ダゲレオ出版は映画祭ディレクターや展覧会キュレーターを育てる事業に6136万円、デジタルハリウッド株式会社はAIを制作フローに統合した3DCG制作人材の育成事業に1億8158万円をそれぞれ投じ、いずれも採択された。

音楽・その他は3件採択

音楽分野とその他分野でも採択が決まった。一般社団法人カルチャー アンド エンタテインメント産業振興会は、国内主要音楽団体5団体を母体に、海外で活躍できるグローバルプロデューサーを育成する事業を3億9999万円で実施する。株式会社ロフトワークは、映像や照明を統合したライブ演出人材の育成プログラムを、イタリアの音楽フェスティバルの知見を取り込みながら2億円で構築する。文芸等その他分野では、一般社団法人日本書籍出版協会が海外ブックフェアとポータルサイト「Japan Book Bank」を活用し、版権輸出を担う人材を育成する事業で3億9967万円の採択を受けた。

文化庁は今後、日本芸術文化振興会による伴走型支援を各採択団体に対して実施し、進捗の把握と成果の検証を継続する方針だ。2026年夏以降に予定される第2次公募では、今回採択されなかった分野や団体にも新たな応募機会が開かれる。