【文科省議事録詳報】大学評価は学部単位へ 理系重視の人材育成方針には異論相次ぐ

文部科学省は2026年7月14日、6月11日に開催した中央教育審議会大学分科会(第190回、分科会長・吉岡知哉日本学生支援機構理事長)の議事録を公開した。同会議では医学部臨時定員の措置延長に関する大学設置基準の改正を議決したほか、大学評価制度の抜本的な見直し案、大学の量的規模適正化と人材育成に関するビジョン、科学技術人材に関する基本政策案の3件が報告された。なかでも大学評価制度の刷新案と、理工系人材の増加を打ち出した人材育成の方向性をめぐっては、委員から質問や異論が相次いだ。

医学部臨時定員、2027年度も延長

会議ではまず、医学部の臨時定員措置の延長に伴う大学設置基準等の改正について審議し、賛成多数で了承した。地域医療への従事を条件とする「地域枠」と、大学院まで一貫して研究医を養成する大学に各大学3人まで認められる「研究医枠」の両制度を2027年度も延長する内容で、厚生労働省の検討結果を踏まえたものである。委員32人中29人が出席し、定足数を満たしたうえで議決に至った。

Photo by hamazou/ Adobe Stock

続いて報告されたのが、教育・学習の質向上に向けた新たな評価の在り方ワーキンググループ(主査・森朋子桐蔭横浜大学副学長)がまとめた議論の整理である。同ワーキンググループは、2025年2月21日の中教審答申「我が国の『知の総和』向上の未来像~高等教育システムの再構築~」を受けて設置された経緯があり、今回の提言はその具体化にあたる。

現行の認証評価は制度開始から20年が経過し、大学が法令上の基準を満たしているかどうかの点検に主眼が置かれてきた。これに対し新たな評価では、入学時から卒業時にかけて学生がどれだけ成長したかという教育の効果を測る視点を加える。評価の単位も大学全体から学部等へと切り下げ、法令適合性を問う「質保証」の観点と、教育成果の伸びを問う「質向上」の観点を組み合わせて4段階で評価する仕組みを想定している。評価に必要なデータは独立行政法人大学改革支援・学位授与機構に構築するプラットフォームで一元管理し、大学側の作業負担を軽減する狙いもある。運用開始の目途は2030年とされた。

この提言に対し、委員からは実現可能性を問う声が相次いだ。学校法人志學館学園理事長の志賀啓一委員は、研究志向の強い学部と地域の人材不足解消を担う福祉・保育系の学部とでは評価の物差しが異なり、分野を超えた公平な評価は難しいのではないかと指摘した。早稲田大学教育・総合科学学術院教授の濱中淳子委員は、評価対象となる学部等の総数や必要な評価者数、業務にかかる時間や謝金といった具体的な数字を示さない限り制度の実効性は判断できないと述べ、評価者の処遇や事務局支援を明確にするよう求めた。このほか高等専門学校や通信制大学の扱い、機関別評価と分野別評価の統合方針についても質問が出され、事務局はいずれも今後の制度設計のなかで検討していく考えを示した。

理系重視方針に、根本から異論

3件目の報告は、大学の量的規模適正化と、高校から大学・大学院までを通じた人材育成の方向性についてである。この方向性は、日本成長戦略会議人材育成分科会がまとめ文部科学省が2026年4月27日に公表した「高校から大学・大学院等を通した人材育成システム改革ビジョン~人への投資の好循環による強い経済の実現~」とも軌を一にする内容で、大学全体に占める理工農・デジタル・保健系の定員割合を、2024年度の35%から2040年には5割まで引き上げるという数値目標が掲げられている。背景には、2035年以降に経営が立ち行かなくなる私立大学が急増するとの推計があり、文部科学省は2026年度から5年間を「第Ⅰ期」と位置づけ、大都市圏の大規模私立大学に理工・デジタル系分野への重点化を促す一方、経営体力のあるうちに撤退を選べる大学には円滑な撤退を後押しする方針を示した。

この理系重視の方針をめぐっては、複数の委員から根本的な疑問が投げかけられた。國學院大學観光まちづくり学部教授で東京大学名誉教授の吉見俊哉委員は、工学部を卒業しても専攻と職種が一致しない例が年々増えているとしたうえで、そもそも文系・理系という区分自体が学問の実態に合わない発想だと述べ、必要なのは文系と理系双方の知を組み合わせられる人材であって、理系の定員を増やすだけでは根本的な解決にならないと主張した。ANAホールディングス株式会社特別顧問の平子裕志委員も、文と理をいつまで分け続けるのかという疑問を呈し、AIの発展次第で必要とされる人材像は今後も変わり得ると指摘した。

これに対し文部科学省高等教育局長の合田哲雄氏は、文系・理系という区分そのものは1918年の旧制高等学校令に由来する国際的にも珍しい制度であり、いずれ乗り越えたいという認識は共有していると応じた。そのうえで、高校1年生の段階で文系を選ぶと理数科目から離れてしまう現在の教育課程の構造を、まず変える必要があるとの考えを説明した。

科学技術人材の基本政策案も報告

最後に報告された「新しい時代の科学技術人材に関する基本政策(案)」は、科学技術・学術審議会人材委員会が1年半にわたり議論してきた内容をまとめたもので、2026年3月に閣議決定された第7期科学技術・イノベーション基本計画を踏まえている。研究者・技術者・高度専門人材それぞれの育成策に加え、博士後期課程学生への経済支援の拡充や、研究開発マネジメント人材の処遇改善などが盛り込まれた。この議題については審議時間が限られたため、質疑はほとんど行われないまま報告にとどまった。

分科会長を務める吉岡知哉氏は閉会にあたり、学生をどう育て、どう成長させるかという視点が教育行政の根幹にあるとしたうえで、今回報告された各案を今後の議論のなかで検証していく考えを示し、会議を締めくくった。なお、次回の第191回大学分科会は2026年7月16日に開催予定で、認証評価機関の認証に関する諮問が予定されている。