山岳新校 加速する社会から「撤退」、これからを生きる「知」を育む
現代社会が抱える課題の根底には、止められない状況をつくり出している「慣性の力学」があり、これまでのやり方を停止し、撤退する知性が求められる――。「撤退学」の研究と「山岳新校」の展開について、奈良県立大学の堀田新五郎教授、梅田直美教授に話を聞いた。
「慣性の力学」からの
知的撤退の可能性を探る
堀田 新五郎
梅田 直美
──奈良県立大学 地域創造研究センター 撤退学研究ユニットでは、2022年に奈良・奥大和で新たな学びの場「山岳新校」を始められました。その背景にある「撤退学」とは、どういった研究なのですか。
堀田 過疎や限界集落、地方消滅等の問題に対し、従来は問題の所在は農山村にあり、農山村への支援が解決策になるというアプローチがとられてきました。しかし、地域活性化事業の「成功事例」は散発的に生まれているものの、日本全体の状況を好転させる状況には至っていません。それは、本当の問題は農山村にあるのではなく、東京一極集中をもたらす構造力学そのものにあるからです。
日本は長年、東京一極集中という生活習慣病を患ってきました。明治以来、日本では国の主導による東京一極集中の社会システムが築かれ、それにより戦後の焼け跡から奇跡的な復興を成し遂げました。しかし現在もその成功体験から逃れられず、これまでの価値観や生活スタイルを根本的に改めない限り、いずれカタストロフィー(破局)が訪れるのではないかと、多くの人が不安を抱きつつも「慣性の病」を克服できていません。
さらに世界においても、行き過ぎた市場原理主義、…
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