LinkedIn日本代表に聞く AI時代の人材戦略 スキルベースの採用と育成を
「世界で働くすべての人のために、経済的なチャンスを作り出す」をビジョンに掲げるLinkedIn。世界最大級の人材プラットフォームの強みを活かし、企業や教育・行政機関の人材採用・育成などをサポートしている。日本代表の田中若菜氏に企業に必要な人材戦略など聞いた。

世界最大級の人材データベースと
オンライン学習プラットフォーム
田中 若菜
リンクトイン・ジャパン株式会社
日本代表
ハーバード・ビジネススクール卒業(ハーバードビジネススクール理事)。前職はGoogleにてパートナー企業のデジタル推進を担当。その前は製薬企業の経営戦略、国会事故調(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)、ロレアルのブランドマネージャー、経営コンサルタントを歴任。2023年3月から現職。経営戦略・リスクマネジメント・組織改革と消費財マーケティングとデジタルの経験とスキルを持つ。Forbes『Women In Tech 30』2024に選出。
LinkedInは世界200を超える国と地域に、14億人以上が利用する世界最大級のプロフェッショナルネットワークだ。LinkedInのQRコードを交換する学生やビジネスパーソンが増え、世界共通の名刺となっている。
また、オンライン学習プラットフォーム「LinkedIn Learning」を展開。世界14万以上の教育機関が利用し、ビジネス、クリエイティブ、テクノロジー分野を含め、2万5000コース以上提供している。その結果、世界最大級の人材データベースとオンライン学習を併せ持つ、唯一無二のプラットフォームに成長した。
「LinkedIn Learning」は、日本の教育機関でも導入が進んでいる。東京大学は「LinkedIn Learning」を全学で導入し、2026年7月から提供を開始した。学生はスキル向上やキャリア形成に活用できる。一方、独自コンテンツを追加できる教職員は、学生への指導・支援にも活用できる。
LinkedIn日本代表の田中若菜氏は「世界の労働人口約35億人に対して約4割がLinkedInを利用しているので、世界トップの人材データベースだと自負しています。企業が新規事業で新たなスキルが必要となった時、人を採用するか、育成するか。この両方をできるのがLinkedInの最大の強みです」と話す。
リンクトイン・ジャパン東京オフィスにある撮影スタジオ。2万5000コース以上ある「LinkedIn Learning」の多くの講座は自前で制作している。
世界で進むスキルベース採用と
可視化できない日本企業の課題
LinkedInは世界で約7100万の企業・組織が利用し、毎週7000万人以上の求職者が求人を訪問している。1分あたりに約8200人のメンバーが求人に応募している中、スキルベースの採用が主流になっていると田中氏は話す。また、男性が多数を占める職種では、スキルベースの採用によって女性候補者の割合が24%増加するデータもあるという。
「女性のキャリア採用で困っている企業も少なくないと思いますが、スキルベースの採用に移行することで、より多様な人に機会を広げることができるのです」
そして、生成AIの登場で企業が求めるスキルも日々変化している。
「LinkedInの調査では2030年までに同じ職種で必要なスキルの70%がAIによって変化すると予測しています(図1)。同じ仕事でも中身がどんどん変わっていく。全ての人にとって『リスキリングは待ったなし』の状況といえます」
ビジネスパーソンも実感しているのか、日本では2022年以降、LinkedIn上でスキルを更新する登録メンバーの数が140%増加した。一方で、田中氏は多くの日本企業の課題として、必要なスキル要件を可視化できていないと指摘する。
「可視化できないと、必要なスキル要件が曖昧なまま採用が進み、どんなキャリアパスがあり、成長機会があるのか、十分に提示できていないケースも目立ちます。自分のキャリアパスのために会社は何をしてくれるのか。そういう考え方を持つ若い世代も多いので、選ばれる企業になるためには、スキルを定義付けて、可視化し、キャリアパスを提示したり、そのためのサポートなどを企業は見せていく必要があります」
スキルの可視化について、企業側と社員側の認識のギャップを示すデータもある。LinkedInが日本で実施した調査では「明確なキャリアパスが整備されていない」と回答した従業員は37.0%にのぼる一方、経営層では20.5%にとどまった。さらに、「キャリアアップに必要なスキルが分からない」と答えた従業員は34.3%に対し経営層は13.0%だった。
「次のステップに進める基準が明確に見えないと、何のスキルアップをすれば良いのか分かりませんしモチベーションにも影響します。企業は、キャリアアップに必要なスキルは何か。明確な基準を作ることが重要です」
フレームワークに沿って
必要な時に必要な学びを
企業が必要なスキルを可視化できれば、そのギャップを埋めるための人材育成が必要となる。そこで、LinkedInでは、様々なフレームワークを企業に提供している。その一つが「AIアップスキルフレームワーク」だ。①理解、②活用、③開発・構築、④応用、⑤エキスパートと階層別ごとに、学ぶべき内容と対象者を設定している(図2)。
「フレームワークのボトム『①理解』は、全社員が対象で『AIリテラシー』や『責任あるAI』などが含まれます。企業は、このフレームワークに基づいて、全ての管理職は『②活用』までクリアするなど目標をたてて、LinkedIn Learningで学んでいただいています」
また、AIの活用には人間ならではのヒューマンスキルも必要となる。LinkedInはAIと人間ならではのスキルが交差する領域を重視、AIによる自動化が標準となる働き方の中で、人がリーダーシップを発揮し、コラボレーションを深め、成長するためのヒューマンスキルとして、コミュニケーション、クリティカルシンキング、クリエイティビティ、心の知能指数、適応性、意思決定と主に6つのスキルを挙げている。
「AIに関するスキルは日進月歩で日々変わっていますが、活用するコアスキルは変わりません。ある金融機関のAI事業も、この6つを備えた人材を採用したり、伸びる余地のある、グロースマインドセットがある人材をリーダーとして育成しています。ヒューマンスキルをもった人を伸ばしてく、企業は、そういう考え方にシフトしているのです」
また、採用難が続くサイバーセキュリティ人材は社内での人材育成が注目されている。LinkedInでは7つの領域に分けた「サイバーセキュリティ・アップスキル・フレームワーク」も策定している。LinkedInではLinkedIn Learningを通じて、こうしたAIやヒューマンスキル、サイバーセキュリティに必要な学びを抜け漏れがない形で提供。日々、アップデートも行っている。
「現在は集合研修のみで学ぶのではなく、必要な時に必要なスキルを身に付ける時代です。AIの浸透で、特に若い世代にとっては、そういう学び方が望まれる時代になっています」
採用・育成だけでなく
ブランディングなどにも活用
企業によるLinkedInの活用は採用や人材育成にとどまらない。最近は「エンプロイヤー・ブランディング」(「働く場」の魅力を高め、人材獲得と社員の定着を目指してブランドイメージを構築する戦略的な取組み)の観点からも注目されている。
「日本企業のCEOがLinkedInを使い、自らの言葉で積極的に情報を発信し始めています」
例えば、LinkedIn上で積極的に発信している日本企業のリーダーには、丸紅CEOの大本昌之氏、日立グループCEOの徳永俊昭氏、株式会社アシックス代表取締役社長COOの富永満之氏などが挙げられる。トップ自らが生の声で投稿しているからこそ、リアリティがあり、企業のミッション・パーパス・ビジョンや実際に働く様子がよく伝わってくる。
「リーダーがどんな人と出会い、どんな価値観を持って働いているのかも見えてくる。そうした姿が見えると『ここで働きたい』という気持ちも生まれます。つまり、こうした発信によって、企業のファンが増えていくのです」
また、株式市場に向けて企業価値をアピールするプラットフォームとして活用するケースも増えている。
「投資家は事業に投資しますが、人を見て投資します。その人がどういうスキルとバックランドを持ち、どんな興味や価値観を持っているかが株価に影響するのです。欧米ではプレスリリースがなくなりつつあると言われています。それはトップが自ら情報を発信しているからです。CEO自らの言葉で『SDGsではこんな取り組みをしています』など投稿することで企業価値が向上しています。また、ダイバーシティのメッセージをした企業のCEOからは女性の中途採用が増えたという声も聞きました」
日経225企業の81%がLinkedInの会社ページを開設している。日本のメンバー数は、2025年12月に500万人を突破、近年はZ世代の利用が急速に増加しているという。
人材データベースとオンライン学習だけでなく、企業のブランディングや社員のエンゲージメントの向上にも活用されているLinkedIn。
個人や企業に限らず、各国政府でも活用が進んできており、今後もその最大級のプラットフォームを軸にした更なる展開が期待される。
リンクトイン・ジャパン東京オフィスの様子。社内は無料ランチや社内外のイベントを通じて多様な国籍、バックグラウンドの社員が常に和気あいあいと働く環境だ。こうした情報をトップ自ら発信することで「エンプロイヤー・ブランディング」にも繋がる。

