特集1 VUCA時代のリーダーシップ 組織成長を牽引するマネジャー育成

人手不足、多様化する働き方・キャリア観、生成AIの登場といった技術革新など、企業を取り巻く環境は大きく変化している。こうした中で、組織の成長を牽引する管理職・マネジャーをどう育成したら良いのか。本特集では、そのために必要な知見などを探った。(編集部)

「管理職になりたくない」が7割超
新任管理職をどう育成すべきか?

近年、企業を取り巻く環境は大きく変わってきたことで、管理職・マネジャーの業務負担が増したことを懸念する企業も少なくない。

リクルートマネジメントソリューションズ「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2023年」によると、人事担当者に会社の組織課題について尋ねたところ、1位は「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている(65.3%)」だった。このため、昨今「管理職・マネジャーになりたくない」社員も多いと聞かれる。日本能率協会マネジメントセンター「管理職の実態に関するアンケート調査」によれば、一般社員の約77.3%が「管理職になりたくない」と回答している。

会社を担う管理職・マネジャーをどう育成していけばよいのだろうか。「名選手、名監督にあらず」という言葉が表すように、業務スキルとマネジメントスキルは、別の能力が求められる。特にプレイヤーからマネジャーへ移行したばかりの新任管理職は、様々な壁にぶつかりやすい。そこで、実務経験と大学院での研究を通じて見えてきた新任管理職に必要な支援策と新たなマネジャー像について、ソフトバンク人材開発部部長の岩月優氏に話を聞いた(➡こちらの記事)。

また、産業能率大学教授の米井隆氏にはマネジャー育成において、重要な3つのポイント(「準備」「ネットワークづくり」「点検」)などについて話を聞いた(➡こちらの記事)。

重要なサーバント・リーダーシップ
経営学の技法や「感謝」の有用性も

管理職・マネジャーの育成にあたって、現職がどんな悩みを抱えているかを知ることも重要だ。ラーニングイノベーション総合研究所「管理職意識調査(悩み・課題編)」によると「部下の育成」(55.2%)が最も高く、「部下とのコミュニケーション」(30.4%)が続いた(図表1)。「部下の育成」で注目したいのがサーバント・リーダーシップの重要性だ。金沢大学講師の鈴木智気氏には、サーバント・リーダーシップを身につけるためには何が重要なのかなどについて話を聞いた(➡こちらの記事)。

「部下とのコミュニケーション」に関連して、東京女子大学准教授の正木郁太郎氏は、企業がマネジメントで見落としがちなのが「感謝」の有用性だと指摘する。正木氏には、組織における感謝の効果やどのように感謝を伝えるか、管理職の立場での実践法と注意点などについて寄稿いただいた(➡こちらの記事)。

図表1では、管理職の悩みとして「自身の判断力」(21.1%)が挙げられている。昨今、エビデンスやデータに基づいて意思決定することも求められる中、東京大学大学院講師の舟津昌平氏は「実際のところ、管理職に大量のデータやエビデンスを持ち込まれたところで、それらは何も語ってくれない」「だからこそ、管理職は自らの仕事を簡単にしてくれる技法(arts)を手に入れるべきである」と指摘する。舟津氏には管理職に求められる経営学の技法について寄稿いただいた(➡こちらの記事)。

図表1 管理職としての悩み

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日本企業の喫緊の課題
女性リーダーの育成を

「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023」(女性版骨太の方針2023)」において、政府はプライム市場上場企業において「2030年までに女性役員比率を30%以上とすることを目指す」等の目標を取引所の規則に設けることとし、東京証券取引所で所要の上場制度が整備された。

プライム市場上場企業における女性役員の割合は2022年の11.4%から2023年は13.4%に増加、過去10年間で年々上昇してきているが、諸外国の女性役員割合とのギャップは依然として大きい(図表2)。

図表2 女性役員比率の推移

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「女性版骨太の方針2024」では、2025年までに東証プライム市場上場における「企業役員に占める女性の割合を19%」、「女性役員ゼロ企業を0%」の目標達成に向けて、必要な施策を掲げている。一方で、内閣府男女共同参画局の調査によると、女性の登用拡大を進めていく上での課題について、企業の回答は「女性役員候補者(部長等)が少ない」が81.0%と最も多かった。他には、「女性役員や管理職を目指すことを希望する人材が少ない」(47.8%)、「女性役員や管理職のロールモデルがいない」(46.2%)といった課題が挙げられている。

メンター事業を通じて女性活躍推進に取り組むMentor For取締役COOの宮本桃子氏に女性リーダー育成に必要な経営層・管理職が果たすべき役割やロールモデルとなる社外メンターの意義などについて話を聞いた(➡こちらの記事)。また、成人教育や生涯学習の観点から、女性リーダー(管理職)育成を研究する東洋大学教授の堀本麻由子氏には、女性リーダーが育つためには、どのような取組みや学習過程が重要になるのかなどについて話を聞いた(➡こちらの記事)。

最後にランスタッド人事本部タレント部長の西野雄介氏には、同社の「タレントトレンドレポート2025」から管理職が知っておくべき人材戦略について話を聞いた(➡こちらの記事)。

本特集は、「組織成長を牽引するマネジャー育成」をテーマに、多様な角度から検証した。企業の持続的な成長を実現するために不可欠な管理職・マネジャー。その育成に向けた取組みの一助となれば幸いだ。

※内閣府男女共同参画局「令和5年度女性の登用拡大と企業における経済的メリット等に関する調査研究報告書」