4つのパターンから考える 新任管理職に必要な支援策

新任管理職が直面するつまずきは、個人の問題ではない。プレイヤーからマネジャーへの移行に悩む人をどう支えるか。実務経験と大学院での研究を通じて見えてきた新任管理職の必要な支援策と新たなマネジャー像について、ソフトバンク人材開発部部長の岩月優氏に話を聞いた。

管理職としての“つまずき”を機に
大学院で新任管理職の支援を研究

岩月 優

岩月 優

ソフトバンク株式会社 コーポレート統括 人事総務本部 採用・人材開発統括部 人材開発部 部長
1980年愛知県生まれ。2002年ソフトバンク入社。2019年より現役職。2023年法政大学大学院修士課程キャリアデザイン学研究科修了。人材開発領域で15年の経験があり、企業内大学ソフトバンクユニバーシティおよびSB版キャリア・ドックの設立を推進。学術的な理論を実務に活かし、幅広い人事分野で活躍。主な著書に『グロースマネジャー:新任管理職のキャリア開発』(千倉書房、共著)。

── 今年6月、『グロースマネジャー:新任管理職のキャリア開発』を上梓されました。書籍執筆の背景をお聞かせください。

2019年に人材開発部の部長に就任した際、意思決定に深く関わる立場になったことで、自身の知見をアップデートする必要性を痛感し、法政大学大学院キャリアデザイン学研究科に進学しました。研究テーマは、自身の挫折体験に端を発しています。プレイヤー時代は成果を出していたものの、新任管理職としてはつまずいた経験が多々ありました。また、現場のマネジャーたちから「管理職になってから成果が出せなくなった」という相談を多く受け、「名選手、名監督にあらず」の現実にも直面したのです。加えて、ダイバーシティやジェンダーの視点がマネジメントにも求められるようになり、「俺の背中を見ろ」的な旧来型スタイルが通用しなくなってきました。こうした環境下で、いかに新任管理職を支援できるかを探るため、インタビュー調査を通じて実態を掘り下げました。

その成果は修士論文にまとめ、2023年3月に修了しました。田中研之輔教授から「研究成果を現場に届けるべきだ」とお声かけいただき、共著として出版に至りました。

重要な支援は「メンタリング」
斜め上・横からのフィードバックを

── 研究を通じて具体的にどの様なことが明らかになったのですか。

管理職の経験を時系列で可視化するTEM(複線径路・等至性モデル)という質的調査手法を用い、変化のプロセスや転換点などを分析しました。その結果、新任管理職が就任する前後の自身の業務の連続性と現場メンバーの多様性の影響が大きく、この違いで「何がターニングポイントになるのか」、「どのような支援が有効なのか」が見えてきたのです。

そこで新任管理職をこの2軸で整理して「①高負荷型」「②低負荷型」「③業務キャッチアップ型」「④メンバー配慮型」の4象限に分類し、各々の特性を整理しました(図)。

図 新任管理職の置かれている状況

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「高負荷型」は、業務が大きく変わり、かつ多様な部下をマネジメントするため、従来のやり方が通用せず、トランジションが早期に起きやすい。一方で、負荷が高いため、孤立を防ぐための支援が必須です。

「低負荷型」は、業務も部下も変わらず、環境の揺さぶりが少ないため、プレイングマネージャーの延長線に留まりがちです。こうした場合には、外部からの気づきを意図的に設計する必要があります。

「業務キャッチアップ型」は、業務習得のハードルは高いものの、若手中心の同質的な組織を率いるパターンです。現場への問題意識が芽生えたときに、「変えていいよ」という上司の承認が新任管理職の成長の加速に寄与します。

「メンバー配慮型」は、多様な年齢や属性の部下に対して心理的な配慮が求められ、抱え込みすぎて疲弊することも。ここでは360度評価のような他者視点からのフィードバックが、過剰な配慮から脱却するきっかけになります。

4象限による整理から見えてきたのは、どの経路・環境で管理職になるかによって、必要な支援や介入の設計が異なることです。共通して効果が大きかったのが「メンタリング」です。直属ではない「斜め上」や「横」の立場からのフィードバックが、孤立しがちな管理職に冷静な視点を与えます。当社では、女性活躍推進の一環で女性リーダーや管理職向けにメンター制度を導入しており、一定の成果が見られています。また、サーベイや研修といった既存施策も、あわせてトランジション支援として有効であることが確認できています。

新任管理職がおかれている状況も様々です。「今、この人はどんな環境にあるのか」を見極めたうえで、柔軟かつ持続的な支援を届けていく必要があります。その際に有効な手がかりとなるのが、今回の4象限モデルです。コロナ禍以降は、社内の関係性が希薄になりがちな分、メンタリングやフィードバックといった“支援のインフラ”を人事主導で設計していくことが、マネジメント変革の要になると実感しています。

成果を出すだけでなく
成長を支えるマネジメントへ

── 著書では「管理(Management)」から「育てる(Growth)」への転換を提唱されています。

従来のマネジメントは、部下を統制して効率的に成果を上げる「管理型」の色合いが強く、会社寄りのスタンスでした。しかし現在は働く人の価値観が多様化し、キャリア支援の視点が欠かせません。そうした変化に対応できる新たなマネジャー像として提唱しているのが「グロースマネジャー」です。これは、自らも学び続けながら、部下の成長に伴走するマネジャーのことです。単に成果を出すことではなく、成長のプロセスを支援することに重きを置き、個人→チーム→組織へと「成長のサイクル」を波及させていく。その好循環をつくることが、これからの管理職に求められる役割だと考えています。

そのために欠かせないのが「マインドセットの変革」です。グロースマインドセットは、「人は努力と工夫で成長できる」と信じ、結果ではなくプロセスに目を向ける姿勢です。これにより、部下の可能性を信じ、伸ばすマネジメントが実現できます。

── 最後にメッセージを。

管理職を目指す若手が減っているのは事実です。「割に合わない」「大変そう」という印象の背景には、支援の少なさや働き方への不安があります。ただ、管理職には大きな成長とやりがいもあります。私自身も新任時代に苦労しましたが、適切な支援があり、「成長しつづける管理職」が身近にいることで、「やってみたい」と思える人が増えるはずです。

今回の研究を通じて改めて分かったのは、「人材開発部が提供している研修や支援が、実際に現場で役立っている」という事実です。現在の施策を続けることが成果につながるのだという確信を持って、これからもマネジャーの支援を継続していただきたいと思います。

※岩月優「新任管理職のトランジションに関する考察―多様な部下を持つ新任管理職に対する支援に着目して―」