素養は採用で、スキルは育成で AIと変革できる人材を確保するには
AIを使いこなすことは、全社員が身につけられる。一方、本当に重要なのは、AIで事業や組織を変革する人材の確保だ。AIを事業ドメインとするエクサウィザーズの常務取締役COO・大植択真氏に、AI時代における「2種類の人材」と組織の在り方について聞いた。
「使いこなす人材」と「変革する人材」
大植 択真
株式会社エクサウィザーズ
常務取締役COO
株式会社Exa Enterprise AI
代表取締役
京都大学工学部卒業、同大学院工学研究科修了(都市計画、AI・データサイエンス)。2013年、ボストン コンサルティング グループに入社し、大手企業の事業変革・DX推進を支援。2018年にエクサウィザーズへ入社。2019年よりAI事業管掌執行役員として年間数百件のAI導入・DX実現を担当し、2023年常務取締役に就任。同年10月より子会社Exa Enterprise AIの代表取締役を務める。著書に『次世代AI戦略2025』(日経BP)、『エネルギー業界を変革するAX戦略』(電気書院)など。
エクサウィザーズは、AIを活用したサービスの開発と企業への導入支援を手がける。2021年に株式を上場し、現在は企業や自治体、大学など幅広い現場のAI活用と人材育成を支えている。大植氏はエクサウィザーズの常務取締役COOであり、グループ会社「Exa Enterprise AI」の代表取締役を務める。
その大植氏は、AI人材を2つに分けて定義する。「AIを使いこなす人材」と、「AIを用いて変革する人材」である。同社ではこの変革人材を、DX(デジタルトランスフォーメーション)の「デジタル」がAIに置き換わった概念として、「AX(AIトランスフォーメーション)人材」と呼ぶ。
まず、AIを使いこなす人材について、大植氏はこう説明する。
「会社で仕事をする人で、AIを使わずに働く人はおそらくいなくなる。使いこなして生産性を上げることは全員に必要で、ある種、会社全体がAI人材になる必要があるんです」
2030年頃までに、ほとんどの企業が業務の隅々にAIを組み込み、AI活用が当たり前になる「AIカンパニー」(下図)への転換が進む、と大植氏は見ている。営業は営業の、人事は人事の持ち場でAIを役立てればよく、各従業員がAIで自業務の生産性を高めること自体は、そう難しくないという。
一方、AIを用いて変革する人材の確保は一筋縄ではいかない。
「AIに限らず、技術やツールがいかに進化しても、会社がなぜ変わらないのか、現場はなぜ同じことをやり続けているのか、という変革の課題は普遍的です。そこには人を説得し、動かすリーダーシップが必要です」
AIの進化は日進月歩だが、学び直し続ければ追いつける。対して、人と組織を動かし変革を成し遂げる力は、簡単に身につくものではない。だからこそ同社は、この難題を担うAX人材の確保を中心に据えている。
現在地の可視化が、育成の出発点
大植氏は、人材育成の第一歩を、現状の可視化に置く。
「現状を可視化することが一番重要です。現在地が分かると、理想とのギャップを埋めようと、人は自ら勉強を始める。ギャップさえ特定できれば、埋め方はいくらでもあるのです」
同社はこの思想を、事業としても形にしてきた。約7年前に開始した「DIA (デジタルイノベーターアセスメント)」は、変革人材に必要なスキルとマインドセットを測定する人材アセスメントで、可視化から育成、実践までを一気通貫で支援するサービス「exaBaseアセスメント&ラーニング」の中核をなす。累計約2,500社・42万人が受検し、DX人材アセスメント市場の国内シェアNo.1※を誇る。人材を類型化し、組織全体の分布を定量的に把握できるため、育成投資の判断に直結する。
また、DIAに加え、近年はAX人材の測定にも対応を進めてきた。実務での活用レベルや、機密情報を個人契約のAIに入れてしまう「シャドーAI」を防ぐ守りの観点も測る「生成AI活用テスト」を用意し、全社員のどこを伸ばせばよいかを可視化した上で、研修プログラムやeラーニングを提供し、HRコンサルを含め総合的なAX人材支援を行う。
この仕組みを最も使い込んでいるのは同社自身だ。役員を含む全社員がDIAを定期的に受検し、組織の強みと弱みを常に把握する。自ら使い込んでいるからこそ、その手応えには確信がある。
「AIにできることが増えるからこそ、『いまいる人は何ができるのか』を測りたいという経営者のニーズは、これから確実に高まっていくと思います」と大植氏は見通す。
変革の担い手を、見極めるには
AX人材の発掘に、同社は素養とスキルの切り分けで向き合う。大植氏は、スキルは学びで後天的に伸ばせるが、素養は見出すことが重要だという。AIの使いこなしは学び直しで全社員が到達できるが、素養は後から育てることが難しい。
そこで同社では、新卒も中途も全員が採用時にアセスメントを受検する。指標は経営学の複数の理論や研究を土台に、「常識にとらわれない発想」など変革に効く素養で構成され、気になった項目は面接で丁寧に確かめる。選考プロセスにも自社プロダクトの「exaBase 採用アシスタント」を活用し、業務効率化を図る。
見極めた素養には、成長の機会を与えるとともに、抜擢で応える。実際、同社では新卒3年目のマネージャーも生まれている。
「2つ3つ上の階層の視点から健全に意見してくる、視野が広く視座の高い若手に、いかにチャレンジの機会を与えるかです」
スキルの土台は「書く力」に
一方、スキルの育成の土台に据えるのが、書く力だ。同社では全社員が日報を書き、日々の学びと気づきを言語化する。
「書くことは、考えることです」と大植氏はいう。AIへの指示は結局テキストであり、書く力はAI活用の基盤そのものだ。AIがそれらしい文章を書く現在は、自分で考えをまとめる力がかえって育ちにくい。
その日報を、大植氏自身はAIエージェントに要約させ、経営課題や異常値を抽出して深掘りする。自らAIを使い倒し、浮いた時間は営業や採用の現場、つまりはクライアントや人材と向き合う時間に充てる。
AIが業務を担うほど、組織には余力が生まれる。それを新しい価値づくりに振り向けられるかどうかは、人にかかっている。だからこそ全員をAIの入口に立たせ、変革の担い手を見極め、育てる。素養は採用で、スキルは育成で。この切り分けこそ、AI時代の人への投資の設計図だと大植氏は見ている。
※富士キメラ総研「業種別IT投資動向/DX市場の将来展望 2026年版 DX投資編」、 DX人材アセスメントサービス2024年度
