地域活動を記録し次世代に繋げる 「八千代の記録屋」が紡ぐ未来

地域の和太鼓サークルに長年参加し、市民活動の必要性や課題を肌で感じてきた上出麻子氏。2021年から「八千代の記録屋」として地域活動の記録と保存に取り組んでいる。「地域プロジェクトマネージャー養成課程」を受講したきっかけや学びを活かした今後の活動など聞いた。

少子高齢化が進む中
地域活動ニーズの高まりを実感

上出 麻子

上出 麻子

弁護士事務所 秘書・パラリーガル
小学生から千葉市の和太鼓サークル(千葉神楽太鼓)に参加し、市民活動を通じ地域に貢献することの重要さ、市民活動の効果や弱点を実体験する。和太鼓の活動は継続中で、活動履歴は約30年。1998年に中国北京へ留学。現地採用での就職を経て2005年帰国。その後、弁護士事務所(中国専門)の秘書兼パラリーガルとして現職。2021年から、現在の住まいである千葉県八千代市で「八千代の記録屋」として現在の活動を開始。社会構想大学院大学「地域プロジェクトマネージャー養成課程」第2期修了生。

「地域プロジェクトマネージャー養成課程」(以下「本課程」)では、地域活性へ向けた産官学連携プロジェクトを計画・運営する際に、様々な利害関係者の「架け橋」となり、プロジェクト全体をマネジメントする「ブリッジ人材」を育成する。

本課程は、地方自治体の現役職員や経験者、地域活性化や産官学連携を実践する専門家が、通常学習する機会の少ない「行政視点」を多く取り入れながら、地方自治体の考え方、地域活性化や産官学連携の手法・事例などについて、リアルかつ現在進行形の知識・スキルを提供。また、地方自治体に政策提言を行う機会も設けている。

法律事務所の秘書兼パラリーガルとして長年勤めてきた上出麻子氏。情報の取り扱いや情報整理のプロとして業務をこなす一方、子どもの頃から和太鼓サークルを通して、約30年間地域活動に参加してきた。

急速に少子高齢化が進むなか、イベントや慰問での演奏の依頼は増え、地域活動を行う団体へのニーズが高まっていることを実感。住民主体の地域活性をきちんとした形で学びたいと考えるようになったとき、総務省が推進する地域プロジェクトマネージャーを知り、「どんな存在なのか、何ができるのか学びたく、受講しました」と当時を振り返る。

本課程の意義は「行政側の動きがわかること」だと上出氏は話す。

「地域活動に必要な許可取り、協力要請を自治体に行うと、結果をもらうまでに長い時間を要する。受講前はその理由が理解できませんでしたが、行政側の立場も知ることで、必要なプロセスのための時間だとも思えるようになりました」

自治体への政策提言で上出氏は和歌山県橋本市に万博を絡めたイベント「はしっこ万博」を提案。産業知識を次の時代を担う世代に橋渡しすることを目的に、若者には産業史の学びの場、成人層にはリカレント教育を提供し、産業構造を学ぶことで就業や起業の知識を習得できるようにしようと構想した。

「橋本市を政策提言先に選んだのは、八千代市と橋本市の構造が似ているためでした。どちらも大都市通勤圏で新興住宅地と農地が混在する。一方で橋本市は人口減少が進んでおり、八千代市の未来の姿を感じるものがあったのです」

また、上出氏は「実際に現地を訪問し、自治体に直接政策提言できたのは得難い体験でした」と振り返る。また「行政の方とコミュニケーションの機会を得られたことに大きな意義を感じました」と話す。

「橋本市訪問の際には、市役所の方が、関連資料や多数の部署の方と話ができるように準備してくださったり、市内で伝統工芸に携わっている方をご紹介くださったりしました。職員の方の熱意には感謝しており、機会があれば再訪したいと思っています」

公共性のある記録は
地域活動の基盤になる

上出氏は2021年頃から、主に八千代市内でボランティア活動を行っている市民団体を対象に、活動の様子を写真・映像で記録する活動「八千代の記録屋」に取り組んでいる。本課程の経験が「背中を押してくれた」と微笑む。

写真は上出氏が「八千代の記録屋」として撮影したもの。
左:新川千本桜(ドローン空撮)、右:八千代ハワイアン協会。

活動のきっかけは、和太鼓サークル創設者の突然の他界。団体運営を創設者に任せきりにしていたこともあり、記録も散逸していた。記録を拾い集めて活動を再構築するのに10年はかかった。そんな苦い経験から、市民活動の記録の重要性に気づいたという。

「市民団体の多くは、活動を記録したくとも時間も人も足りないのが現状です。元々カメラが趣味だったこともあり、だったら私が記録をやろうと決めました。また、記録があれば、団体がSNS等を効果的に活用し、広く活動を知らせることも可能になると考えました」

はじめてみると想像以上にニーズがあった。これまで新川千本桜の会、八千代市観光協会、八千代ハワイアン協会などに活動記録を提供してきた。写真の著作権など活動に必要なコンプライアンスは本業の経験・知識が活かされている。撮影はドローンによる空撮も行う。また、SNSの広報も一部担当している。

「市民団体の記録は、いつか必ず地域住民の役に立つ資料になるはずです。今後は、収集した記録を『やちよ明日アルバム』としてまとめ、行政とも連携し、次世代の八千代市民へ贈る方法を模索したいと考えています」