【議事録詳報・前編】科学技術・学術審議会・大学研究力強化部会第8回 大学が自ら生む「隠れた財布」の実態
文部科学省は2026年8月14日、同年5月22日に開催された科学技術・学術審議会・大学研究力強化部会第8回会合の議事録を公式サイトで公開した。議題は「大学研究力強化に向けた調査業務について」と「大学研究力強化に向けた取組について」の2件である。前編では、有限責任監査法人トーマツ パートナーの栗井浩史氏が報告した2025年度の委託調査の結果と、それをめぐる質疑を詳報する。後編では、事務局による議論の整理と委員の意見、そして会合後に動き出した経済産業省との合同ワーキンググループを取り上げる。
第7回までの議論
前回の第7回会合では、経済産業省イノベーション・環境局大学連携推進室長の川上悟史氏が「世界で競い成長する大学経営のあり方に関する研究会」の中間とりまとめを報告した。文部科学省と経済産業省が共同で設置した研究会で、座長は大野英男部会長代理(国立研究開発法人情報通信研究機構理事長、東北大学総長特別顧問)が、経済産業省特別顧問(科学技術担当)として務めた。
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第8回はその続きにあたる。制度の枠組みが外から示された第7回に対し、第8回は日本の大学が現にどう資金をやりくりしているかを大学内部から実態を検証してゆく回となった。
大学の裁量経費実態
調査の柱は、大学の執行部が使い道を決められる予算、いわゆる戦略的裁量経費の実態把握である。授業料や運営費交付金、受託研究収入には使途や期間の制約があり、長期の勝負をかけたい局面で動かせる資金は限られる。そこで各大学は、外部資金に上乗せされる間接経費などから独自に財源を抜き出し、経営判断で配れる枠を用意していた。
調査は、国際卓越研究大学や地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)への申請を視野に入れる大学から対象を選んでいる。間接経費を主な原資とする点はおおむね共通する一方、学納金や寄附金、積立金の扱いには差があった。栗井氏が特徴的な例として紹介した国立大学は、間接経費の45%を本部の戦略的経費に充て、運営費交付金についても制度上抽出できる区分から広く財源を集めていた。
使い道は挑戦と横断に集中
使い道は大きく4つに分かれる。成果が出るかは不確実でも将来性を見込める萌芽的・挑戦的な研究、いったん部局へ配分すると組み替えにくい部局横断型の研究、補助金の期間が終わってから自走に移るまでのつなぎ費用、そして複数年度にまたがる独自施策である。研究に関連する経費が年間数百億円規模に達するある大学は、重点投資先として明示していない領域にも11億円規模を投じており、その中身は若手研究者や分野横断のチームへの支援だった。国の重点分野は競争的資金でおおむね手当てされている半面、研究者の自由な発想に基づく研究には投資が届きにくい、という認識が背景にある。
もっとも栗井氏は、確保できている額そのものがまだ少ないとも述べている。私立大学でも工面は難しく、国立大学ではその傾向がより強いという。
成果の測り方の困難
質疑では、投じた資金の成果をどう測るかに関心が集まった。那須保友委員(岡山大学長)が評価手法をたずねると、栗井氏は、トップマネジメントが自ら起案する体制を持つ大学は大学戦略やKPIと結び付けやすい一方、従来型の予算プロセスで積み上げた場合は戦略的経費そのものの効果を切り分けにくいと答えた。
野口義文委員(学校法人立命館理事、立命館大学副学長)は国公立大学の繰越制限が長期戦略の妨げになる点を挙げ、寄附金や基金で長期の戦略を果たそうとする大学がほとんどだという回答を得た。西村訓弘委員(三重大学大学院地域イノベーション学研究科教授)は、大学経営を企業と比べれば費用対効果の検証が要るとして、新しい取り組みを積み上げるだけでなく既存事業の整理も必要ではないかと問うた。栗井氏は、補助金終了後のプロジェクトを続けるかどうか本部が客観的に査定している大学があり、使い方によって戦略的経費は効果を発揮すると応じた。
山崎光悦委員(福島国際研究教育機構理事長)は、大学の戦略的経費は教育にも使われているはずだとして、教育経費や国際化、留学生の受入れと送り出しといった切り口のまとめ方もあってよいのではないかと指摘した。関谷毅委員(大阪大学産業科学研究所教授)は、若手が海外で研鑽を積んで戻り、国内で新たな研究や共創を生む循環をどう施策に結びつけているかを問い、栗井氏は、国際頭脳循環まで予算配分が届いておらず個々の研究者の力に依存しているのが課題だと答えた。
梶原ゆみ子委員(総合科学技術・イノベーション会議議員)が戦略的経費は増えているのかとたずねると、本部の間接費を事業推進費として要求できるよう制度が変わってきており、増えた大学と変わらない大学の両方があるという説明があった。木部暢子委員(人間文化研究機構長)は、一つの大学で研究が完結する時代ではないとして横の連携の動きを問い、部局横断や組織対組織への投資に戦略的経費が使われていると確認した。
大野部会長代理は、大学の収入が増えても構成員が豊かさを実感できていない現実を示し、収入増と学内環境の改善をどう連動させるかを課題に据えた。栗井氏は、目の前の仕事は忙しくとも、長期の取組が将来につながるというマインドセットの変化を職員から感じていると答えた。
名古屋大学と九州大学の事例
産学連携収入が多く、出資事業の対象外である大学として、名古屋大学と九州大学へのヒアリングも行われた。名古屋大学では、2014年のノーベル物理学賞につながった窒化ガリウム(GaN)の研究について、40年以上前から研究を支える組織風土と資金が存在した点、受賞後1年以内に3つの共創の場を立ち上げた意思決定の速さが挙げられた。
モビリティの分野でも、COIの採択と同時に大型プロジェクトを立ち上げ、指定共同研究制度を次々に整えている。研究成果を社会実装につなげる仕組みづくりも進み、名古屋大学と岐阜大学を運営する国立大学法人東海国立大学機構は2024年11月1日、出資子会社である株式会社Tokai Innovation Instituteの傘下に、ベンチャーキャピタル事業を担う株式会社Central Japan Innovation Capitalを設立した。
九州大学は、エネルギーや機械、素材の産業が集まる地域特性を踏まえ、法人化の前後から水素研究に投資してきた。2006年には水素材料先端科学研究センター(HYDROGENIUS)が設立され、2013年3月までは産業技術総合研究所と共同で運営された。2010年には大学院工学府の機械系専攻を改組して水素エネルギーシステム専攻を設け、教育研究の基盤を固めている。
研究拠点への投資と並行して地域とも歩調を合わせ、福岡県や福岡市との共同研究を始めて県による拠点形成につなげ、産業技術総合研究所の誘致にも成功した。2017年12月26日に再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議が水素基本戦略を決定すると国の政策とも連動し、国内外の産業界から投資を呼び込んだ。2024年4月1日には100%出資子会社の九大OIP株式会社を設立して社会実装を担う体制を外部法人化している。
栗井氏は、両大学に共通するのは共創の場を立ち上げる速さと、基礎研究から社会実装まで長期にわたり環境整備へ投資し続けた姿勢だと総括した。そのうえで、研究大学の側にも、自らが投資の対象となり得る存在意義を説明する責任があると述べた。
後編では、事務局が示した4項目の整理と委員の意見、そして経済産業省との合同ワーキンググループへ移った制度設計の行方を詳報する。