【議事録詳報・後編】科学技術・学術審議会・大学研究力強化部会第8回 制度設計は経産省との合同WGへ

文部科学省は2026年8月14日、同年5月22日に開催された科学技術・学術審議会・大学研究力強化部会第8回会合の議事録を公式サイトで公開した。前編では有限責任監査法人トーマツ パートナーの栗井浩史氏による戦略的裁量経費の調査結果を詳報した。後編では、事務局による議論の整理と委員の意見、そして会合後に動き出した経済産業省との合同ワーキンググループを取り上げる。

後半、神部大学研究力強化室長は、2月からの3回のヒアリングを大学マネジメント、研究マネジメント、産学連携、人材育成の4項目に整理した案を説明した。強みの分野を見極めて重点配分し、その成果を外部資金や優秀な研究者の獲得につなげ、さらに経済圏への貢献と人材育成へ広げてエコシステムを形づくる、という流れが骨格である。産学連携では組織対組織の大型化に向けたトップのコミットメントと意思決定の迅速化、人材育成では大学と企業の双方向の人材交流が柱に置かれた。

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千葉一裕部会長(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構理事長)は、議論をさらに踏み込ませたいと述べ、最後までやり抜く覚悟を持つ人材がどう生まれるかが問われると自らの考えを示した。

産学をつなぐプロデューサー人材は育つか

前回の第7回会合で大野英男部会長代理(国立研究開発法人情報通信研究機構理事長、東北大学総長特別顧問)が投げかけた、産学をつなぐプロデューサー人材をどこから育てるかという問いは、この回で一段具体化した。

片田江舞子委員(Red Capital株式会社代表取締役)は、研究をマネジメント・プロデュースできる人材の確保と、株式やストックオプションの管理体制の整備は粒度が異なるとして書き分けを求めた。そうした人材は大企業でも常に不足しており、報酬体系の見直しだけでなく、デジタル化やチーム組成を認める運用がなければ大学には来てくれないという指摘である。

飯田香緒里委員(東京科学大学副学長)も、給与体系だけでなくガバナンスやデジタル環境を含む職場環境を抜本的に変えなければ、有望な人材は大学を選ばないと訴えた。荒金久美委員(株式会社クボタ社外取締役)は「経営層」という表現の粒度を細かくし、実際に推進できる層を具体的に描くべきだと述べた。人材が足りないという共通認識から、来てもらうために大学側が何を変えるかという条件の議論へ、論点は移っている。

千葉部会長は、大学が誰か来てくれればうまくいくと考えても物事は進まないとして、受け入れる側に素地があるかどうかが問われると応じた。

博士課程から育成では遅すぎる

河原林健一委員(国立情報学研究所情報学プリンシプル研究系教授)は、情報分野で世界を牽引する企業の主役は25歳から30歳の層であり、博士課程からの育成では遅いと述べた。経営改革は日本の大学が遅れている領域であり必要だとしつつ、時間がかかる取組でもあるため、トップダウンの改革とボトムアップの人材育成を並走させるべきだという主張である。

片田江委員は、そもそも博士課程への進学者が減っている以上、修了後にアカデミアだけでなく大企業やスタートアップ、投資家といった多様な進路があると示して進学率を上げなければ、人材育成策が空回りしかねないと指摘した。那須保友委員(岡山大学長)は、少子化で人材の絶対数が減るなかで外国人研究者をどう迎え、定着させるかを議論に加えてほしいと求め、大学だけでなく地域を巻き込んだ国際化が不可欠だと述べた。

交付金依存が自主性阻む

一方で、第7回に西村訓弘委員(三重大学大学院地域イノベーション学研究科教授)が投げかけた、日本が目指す研究力の定義は欧米とずれていないかという問いは、この回でも決着していない。西村委員は論点を大学の構造そのものに移し、運営費交付金への依存が国立大学の自主自立を鈍らせていないかと問題を提起した。私立大学の自主自立の考え方を国立大学にも落とし込む必要があり、地域の自治体から資金を得てそれに見合うミッションを果たすという形もあり得るという見方である。

大野部会長代理は、施策の設計にあたって留意すべき点として3つを挙げた。研究時間など大学の環境向上に資すること、人材育成のように金額に換算できない非財務情報も含めて成果を測ること、そして分野への手当てである。造船や冶金のように学生の人気は低くとも国として重要な分野、サイバーセキュリティのように日本の研究大学にほとんど存在しない分野をどう振興するかという問いかけだった。

新福洋子委員(広島大学大学院医系科学研究科国際保健看護学教授)は、若手から中堅の研究者の立場からは、重点分野に直接関わらない分野が生き残れるか不安があるとして、多様な分野と多様な人材が育つ場であってほしいと述べた。

地方大学が求める横の枠組み

木部暢子委員(人間文化研究機構長)と浅井清文委員(公立大学協会会長)は、地方大学が単独では担いきれない研究支援やバックオフィスの機能を、大学間や自治体・企業との連合体で支える枠組みを早く動かすよう要望した。一つの大学が強くなる縦の線と、大学同士がつながる横の線の両方が必要であり、連携は試行錯誤を経て成功例が出るものだから早期に始めるべきだという趣旨である。

吉田和弘委員(東海国立大学機構大学総括理事、岐阜大学長)は、地域ごとのクラスターを意識するなら大学連合や法人という形での支援も必要だとし、社会課題の解決過程から新分野を開拓できる実力を持つ大学群の形成を求めた。

山崎光悦委員(福島国際研究教育機構理事長)は、特定のテーマを軸に大学群と国立研究開発法人、企業までを長期に支援する仕組みがあってよいと述べ、学長の在任期間やURAの育成についても諸外国の例を参考にすべきだと指摘した。梶原ゆみ子委員(総合科学技術・イノベーション会議議員)は、産学が互いのビジョンに共感できる対話の場を増やす必要性を挙げ、海外に出たいと考える人材が減っているという産学共通の課題も示した。

舞台は経産省との合同WGへ

議論の受け皿は、会合後に形を得た。2026年4月22日の第4回日本成長戦略会議で、高市総理は松本洋平文部科学大臣と赤澤亮正経済産業大臣に対し、産業競争力強化に貢献する新たな大学群の形成に向け、17の戦略分野を中心に、特定分野で特に高い研究力を持つ大学を中長期的に支援する制度の創設を検討するよう求めた。これを踏まえ、文部科学省と経済産業省はそれぞれの審議会の下に産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(WG)を新設し、合同で開催する体制を組んでいる。

第1回は6月22日、第2回は7月30日に開かれた。第1回の事務局資料は、支援期間について、自走化に十分な期間として他制度を参考にすれば10年から15年程度が必要ではないかとの案を示し、認定後は3年ごとを目途に継続の可否を判断する中間評価を行う案も併記した。

第2回では、一般社団法人日本経済団体連合会の小川尚子常務理事と、三井不動産株式会社イノベーション推進本部産学連携推進部の湯川俊一部長が有識者として説明している。産業界との対話を増やすべきだという部会の要請は、会議体の運営にも反映されている。

部会の締めくくりで俵科学技術・学術総括官は、研究振興局と科学技術・学術政策局が連携し、経済産業省とともに取り組む方針を示した。大学連携の枠組みには、大学だけでなく国立研究開発法人や大学共同利用機関、経済界を含める形もあり得るとして、今後具体化していく考えを述べた。あわせて、経団連から今後の科学技術の方向性について提言を受けたことにも触れ、経済界とも対話しながら進めたいと語った。この提言は「科学技術立国戦略」で、経団連が5月19日に公表しており、大学改革を前提とした運営費交付金の拡充と科学研究費助成事業の予算の早期倍増を求めている。

第7回で枠組みが示され、第8回で国内の実態と論点が出そろった。制度の中身を決める作業はワーキンググループへ移り、10月に骨子、11月に素案を経て12月の取りまとめを目指す。大学が自ら財源を工面して長期の勝負に備えてきた動きを、新しい制度がどこまで後押しできるかが次の焦点となる。