【文科省議事録詳報】法科大学院 埋まらぬ格差、進まぬ多様化
文部科学省は8月5日、中央教育審議会大学分科会法科大学院等特別委員会(座長・松下淳一学習院大学法学部教授)の第124回会合(7月10日、ウェブ会議形式で開催)の議事録を公式サイトに掲載した。法科大学院には、法学部などで法律を学ばずに入学する「法学未修者コース」と、すでに法律の基礎を身につけた人向けの「法学既修者コース」がある。制度創設時、未修者コースは他学部出身者や社会人経験者など、多様な人材を法曹に迎え入れる窓口として期待されてきた。しかし議事録によると、既修者との司法試験合格率の差は依然として大きく、多様な人材を確保するという当初の理念は十分に実現していない。
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日本弁護士連合会や福岡大学、東京大学からの報告を踏まえ、委員からは司法試験合格率の格差是正や、新たな評価制度に未修者教育をどう位置づけるかを求める意見が相次いだ。
未修者比率、低下に歯止めかからず
文部科学省高等教育局専門教育課の三木係長の説明によると、法学未修者コースに占める非法学部出身者の割合は、制度発足当初の49%から2026年時点で30%台まで落ち込んでいる。2011年度以降は未修者数を既修者数が上回る状態が続き、多様な人材を法曹に迎え入れるという制度創設時の理念とは逆の流れが定着しつつある。
未修者の修了5年目までの累積司法試験合格率も、2019年度修了者では56.6%だったのに対し、2020年度修了者では48.7%へ低下し、文部科学省が掲げる2024年度目標を下回った。一方、2023年度に導入された、法科大学院に在籍したまま司法試験を受けられる「在学中受験」制度の合格率は、他の受験区分より高い水準で推移しており、在学期間の短縮がそのまま合格率を押し上げる構図が浮かび上がっている。
日弁連、多彩な未修者の実例紹介
日本弁護士連合会の岡伸浩副会長と二川裕之副会長は、多様な経歴を持つ弁護士の活躍例を報告した。医師免許を生かして病院内弁護士として医療安全対策に取り組む例、一級建築士としての経験を基に国土交通省の審議会委員を務める例、宇宙工学を専攻した後に宇宙分野の知的財産政策に関わる例など、入学前の専門性を法曹実務に結び付けた事例が紹介された。
両副会長は、既修者コースの合格率が安定して高い水準にある一方、未修者の合格率向上は引き続き課題だと指摘した。その上で、実務家教員による早期からの指導や、未修者教育に力を入れる法科大学院が評価上不利にならない制度設計、多様性を重視した入試、社会人が学びやすい環境整備の必要性を訴えた。
未修者9割超の福岡大学は独自路線
2004年4月に開設された福岡大学法科大学院(福岡市城南区)は、入学定員1学年20人という小規模校ながら、在籍学生の96.1%が法学未修者という全国でも際立った構成を持つ。開設以来の修了者237人のうち92.4%を未修者が占めるという。同学院長の藤村賢訓教授は、1年次に法律基本科目を全て配置せず一部を2年次に回すカリキュラムや、教員1人当たり4~5人という担任制による個別指導が合格実績を支えていると説明した。2025年の司法試験では、同学院の合格者7人全員が未修者だったという。
一方、社会人入学者の割合は2024年度の23.1%から2025年度は13.3%、2026年度は11.8%へと3年連続で下がっている。藤村教授は、他の法科大学院の未修者コースを修了して司法試験に届かなかった受験者が再挑戦するケースが増え、定員20人という枠の中で新規の社会人合格者が押し出されている面があると分析した。
東京大学は個別添削で未修者支援
東京大学法科大学院では、入学者約200人のうち未修者は例年55人前後で全体の4分の1を占める。2025年4月に東京大学大学院法学政治学研究科教授へ就任した前田健教授は、司法試験合格率に依然として大きな開きがあり、直近では既修者74.6%に対し未修者は26.3%にとどまると報告した。
同学院は修了者や実務家を「未修者指導講師」として委嘱し、答案の個別添削を行う仕組みを設けている。2025年度は1年生62人、2年生27人がこの指導を受けたという。前田教授は自らも未修者として同学院に入学した経験を踏まえ、法律文書の起案技法という一見形式的な技能の習得に苦労する学生が多いことや、既修者と同じ授業内容に1年で追いつく難しさを私見として述べた。その上で、進路変更や夜間コースなど、それまでのキャリアを保ちながら法曹に挑戦できる環境整備の重要性を指摘した。
評価制度改革、未修者教育の扱いが焦点に
事務局からは、大学分科会が検討する新たな評価制度の概要も示された。学部・大学院を問わず、法令適合性を確認する「質保証」と、教育成果を測る「質向上」の2軸で評価する枠組みが軸となる。これまで法科大学院向けの予算配分に活用してきた加算プログラムは、2026年度の評価結果を2027年度予算に反映させるのを最後に廃止する方向で調整が進んでおり、事務局は未修者教育の取組を後押しする新たなインセンティブの検討が必要だとした。
委員からは、未修者教育に関する経費割合や教員配置数を定量指標に加える案(田村智幸委員、弁護士)、評価制度に未修者教育の取組を明確に組み込むべきだとの意見(佐久間淳一委員、名古屋大学副総長・教授)、既修者と未修者を評価上明確に区分し、未修者については合格率よりも学修の伸び幅を重視すべきだとの提案(中川丈久委員、神戸大学大学院法学研究科教授)が示された。大学全体の評価が「要是正」となった場合に法科大学院の評価まで一律に止まる仕組みへの懸念(田村智幸委員)も出された。
会議後には宍戸常寿委員(東京大学大学院法学政治学研究科教授)から、合格率という相対的な指標だけでなく、法科大学院を経て法曹として社会に送り出された人数という絶対的な成果も評価に加えるべきだとの意見が事務局に寄せられた。同委員会は今後、未修者教育の充実策と新たな評価制度の詳細について検討を続ける。
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