【文科省議事録詳報・後編】基盤研究に新区分案 500万円と2,000万円の間を埋める

文部科学省が2026年8月10日に公開した科学技術・学術審議会 学術分科会 第13期研究費部会(第5回)の議事録では、6月3日の会合で交わされた基盤研究の在り方と人材育成機能をめぐる議論も明らかになった。上編で伝えた学術審査へのAI活用に続き、科研費の種目区分をどう組み替えるかが2つ目の焦点となった。

基盤研究に新区分の案

基盤研究は、(C)が500万円以下、(B)が500万円以上2,000万円以下で、研究期間はいずれも3〜5年。大竹尚登部会長(東京科学大学理事長)は補足資料をもとに、採択率は(B)が28%、(C)が27.5%、充足率はどちらも71%だと紹介した。物価や人件費が上がっても応募上限額は据え置かれ、応募が最も多い(C)から(B)へ進む壁が高いという課題がある。

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事務局が示したのは2つの案だ。ケース1は(B)と(C)の統合、ケース2は(B)に1,000万円以下の区分を設ける案で、事務局はケース2のほうが現実的との見方を示した。

議論では、上限額の近くに応募が集中しやすいという経験から、ケース2を評価する声が相次いだ。中野貴志委員(大阪大学核物理研究センター長)は、審査を工夫できるなら(C)の上限を1,000万円、(B+)の上限を3,000万円に引き上げて2区分とする「ケース3」も検討できるのではないかと提案。永田晴紀委員(北海道大学大学院工学研究院教授)は、(B)と新区分の重複申請を認めれば、審査の手間をあまり増やさずに敷居を下げられると述べた。

人文・社会科学の立場からは、速水洋子委員(独立行政法人日本学術振興会監事)が、(C)は多様な個別研究を育てる受け皿だとして、金額を上げたうえで研究期間も長く申請できる形を望んだ。宇南山卓委員(京都大学経済研究所教授)は、新区分の採択率が(C)を上回れば中堅以上の研究者が流れ込み、若手のステップアップをかえって妨げかねないと懸念を示している。反対にケース1を推す華山力成委員(金沢大学ナノ生命科学研究所教授)は、区分が1つなら審査が簡素で、研究室を運営する研究代表者が救われる利点があると主張した。事務局はケース3も整理したうえで、改めて議論に諮る考えを示した。

同じ「問い」共有する研究者つなぐ是非

研究の出発点である「学術的問い」を共有する研究者どうしをつなぐ仕組みも論点に挙がった。KAKENデータベースを使った研究者の探索機能や、将来的にAIを活用して同じ問いを持つ研究者を紹介する案が示されたものの、中野委員と仲真紀子委員(国立研究開発法人理化学研究所理事長特別補佐、人間環境大学教授、立命館大学OIC総合研究機構特別招聘研究教授、北海道大学名誉教授)は、つながること自体が申請書の目的になりかねないと慎重な姿勢を示した。

産業界の立場からは、岸本浩通委員(住友ゴム工業株式会社フェロー 兼 研究開発本部先進技術・イノベーション研究センター長)が、企業にとって基礎研究の情報は学会で初めて知る場合が多いとしたうえで、秘密を保ったまま企業のニーズと大学のシーズを引き合わせる仕組みがあれば、早い段階からの研究投資につながると述べた。事務局は、人的なつながりを審査の観点に盛り込む考えはなく、環境を整えるところまでにとどめると明言している。

人材育成は科研費の役割か

3つ目の議題は人材育成機能の強化である。事務局は、第7期科学技術・イノベーション基本計画で研究資金の使途を「モノからヒト」へ変えることが求められている点を挙げ、大型種目における人材育成の見える化、若手研究と研究活動スタート支援の拡充、物品費から人件費への支出の促進という3つの方向性を示した。研究代表者本人の人件費を科研費でどう扱うかも、今後の検討課題とした。

背景にあるのは若手の減少だ。39歳以下の科研費応募資格者数は、20歳から39歳の人口が減る幅を上回るペースで落ち込んでおり、大竹部会長は2019年(令和元年)の0.89倍まで下がった点に留意すべきだと述べた。

もっとも、委員からは慎重な意見が目立った。宇南山委員は、科研費は研究テーマに対して配分される資金であり、人材育成の機能を持たせるなら制度の根本を変える必要があると指摘。永田委員は、若手が減った主因は大学のポストが減ったことにあるとして、若手研究者を大学が雇用する枠組みを広げるほうが効果的だと述べた。塩見春彦委員(千葉大学次世代in vivo研究探索センター特任教授、慶應義塾大学名誉教授)も、大型種目での若手登用を評価の基準にするのは筋が違うとし、ポスドクの人件費は科研費の外側で手当てすべきだと訴えている。

仲委員は女性研究者への支援とライフイベントへの配慮、文理融合の強化を求め、華山委員は博士後期課程の学生への支援拡充を要望した。鷹野景子部会長代理(東京家政学院大学長、お茶の水女子大学名誉教授)は、若手支援の対象が年齢だけでなく学位取得後の年数でも定まっているため、比較的高い年齢層まで成果が上がっている点を評価した。中野委員は、大学の基盤的経費と競争的資金を組み合わせるデュアルサポートが崩れかけていることこそ根本の問題だと述べた。

経団連は科研費倍増を提言

参考資料としては、一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)が2026年5月19日に公表した提言「科学技術立国戦略」が紹介された。同提言は、2040年に官民の研究開発投資を対GDP比5%、年間投資額50兆円へ引き上げる目標を掲げ、自由探索型の基礎研究への支援として科研費の早期倍増と、大学改革を前提とする運営費交付金の拡充を求めている。科学技術と産業・社会に加え、「思想・哲学」を三角形の一角に据えた構成が特徴だ。

事務局はこのほか、令和7年度補正予算で措置された事業の状況も報告した。「AI for Scienceによる科学研究革新プログラム」のうち、フラグシップ事業の「AI for Science革新的研究推進事業(ARiSE)」は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)から公募が始まり、萌芽的な挑戦を広く支える「AI for Science萌芽的挑戦研究創出事業(SPReAD)」は6月2日に第2回公募を開始した。会合の時点で審査中と説明された「先端研究基盤刷新事業(EPOCH)」は、その後2026年7月31日に選定結果が公表され、19件が採択されている。

同部会は、基盤研究の区分見直しと人材育成機能の位置づけについて、引き続き検討を進める。


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