【文科省議事録詳報・前編】AIは科研費の審査を担えるか 「人間中心」で調査研究へ

文部科学省は2026年8月10日、科学技術・学術審議会 学術分科会 第13期研究費部会(第5回)の議事録を公式サイトで公開した。会合は6月3日に対面とオンラインの併用で開かれ、議題は「学術審査とAIについて」「『基盤研究』の役割・在り方について」「科研費における人材育成機能の強化について」の3点。冒頭では相澤彰子氏(大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立情報学研究所コンテンツ科学研究系教授、大規模言語モデル研究開発センター副センター長)が有識者として講演し、事務局は「人間中心」かつ「高信頼性」を前提とした審査支援AIエージェントの調査研究を2年かけて進める方針を示した。

AI査読は「支援」へ軸足

相澤教授は学術分野へのAI適用を研究テーマとしている。講演では、生成AIの普及後に論文数の増加ペースが上向いた一方で、実在しない参考文献や数式の誤りといった、AIがもっともらしい誤りを生むハルシネーションに由来するミスも増え続けていると報告した。

Photo by hamazou/ Adobe Stock

出版社や学会の方針は「生成AIを使った場合は明記する」「生成AIを著者にしない」の2点でほぼ一致しており、利用そのものの禁止は共通方針になっていない。ただし査読する側の利用には、査読の質、責任の所在、未公表の論文をAIに読み込ませることによる情報漏えいという3つの懸念から、より厳しい基準が求められる。それでも相澤教授が紹介した1,600人規模の研究者調査では、半数以上が査読結果を作成する際に何らかの形でAIツールを使った経験を持っていた。

近年の流れは、人間の査読者を置き換える発想から、人間を支える方向へと移りつつある。相澤教授が特に重視するのは、投稿前の著者に改善点を返す使い方だ。従来は数か月かかった改善の助言が10分で戻れば、論文を練り直す循環を速く回せる。査読専用に調整されたツールは人間の査読者に近い水準へ迫りつつあるが、ChatGPTやGemini、Claudeといった汎用の生成AIについては、どれを使っても似た答えが返るため評価の要である査読者の多様性を担保できず、信頼するに足る水準には届いていないとの分析も示された。

研究費審査は論文査読とは別物

そのうえで相澤教授は、論文査読用のAIをそのまま研究費審査に持ち込むことはできないと指摘した。論文が既に行った研究の報告であるのに対し、申請書はこれから取り組む構想を示すものであり、情報漏えいが起きたときの重みが違う。学習や検証に使える公開データもほとんどない。審査ではインパクトや波及効果、研究体制といった論文にはない観点が加わり、幅広い分野の間で釣り合いを取る必要もある。当面の使いどころとして挙がったのは、審査委員のマッチング、審査意見の統合や要約、そして申請者自身による申請書の点検である。

これを踏まえ事務局は、相澤教授を中心に審査支援AIエージェントの開発に向けた調査研究を2年間実施すると説明した。「人間中心」かつ「高信頼性」を前提に、AIエージェントの概念設計と部分的な検証を行う。応募情報という機微な情報を扱うため、セキュアな基盤の構築を重視するという。

専門外分野の申請書を読む際はAIが有効か

質疑では評価が分かれた。加藤美砂子委員(お茶の水女子大学理事・副学長)は、独創的・革新的な研究の評価はAIでは低く出やすいのではないかと問いかけ、相澤教授は正解をあらかじめ定めにくい領域にAIを過度に期待するのは危ういと応じた。

一方の華山力成委員(金沢大学ナノ生命科学研究所教授)は、自分の専門から遠い申請書を人が読む場面ではむしろAIのほうが妥当な評価を返す可能性があると述べた。これに対し相澤教授は、技術の問題ではなく研究者コミュニティの基準づくりの問題だと答えている。塩見春彦委員(千葉大学次世代in vivo研究探索センター特任教授、慶應義塾大学名誉教授)は、同じ生成AIを使うことで発表資料の図が似通ってきたと述べ、細かな誤りの点検は自動化して審査委員の負担を軽くすべきだと求めた。

後編に続く。後編では基盤研究の区分見直しと人材育成機能の議論を報じる。