【9月17日松本洋平文部科学大臣退任会見要旨】高校無償化、デジタル教科書導入… 「現場主義の徹底」総括

松本洋平文部科学大臣(当時)は2026年9月17日、閣議で総理に辞表を提出し、同日の退任会見で在任期間を振り返った。2025年10月21日の就任から、この日で332日目だった。松本氏は、文部科学省の職員とともに現場の声を聞き、その声に基づいて政策を実行する「現場主義の徹底」を掲げてきたと説明した。

Photo by hamazou/ Adobe Stock

特別国会で重要法案成立に尽力

在任中の成果として松本氏がまず挙げたのは、先の特別国会で成立した改正法だ。いわゆる高校無償化、中学校35人学級、デジタルな形態を含む教科書の導入、アーティストなどに関わる「レコード演奏・伝達権」の創設という4つの政策を実現する内容である。このうち高校無償化と中学校35人学級に関わる2本の予算関連法案は年度内に成立し、4月1日から制度が始まったという。松本氏は「大臣としての役目を一定程度果たせたのではないか」と語った。

法整備と並ぶ成果として強調したのが、日本成長戦略会議人材育成分科会で取りまとめた「高校から大学・大学院等を通した人材育成システム改革ビジョン」である。戦略17分野の課題や、AX時代に求められる人材の変化を踏まえてまとめたものだ。産業界と協働しながら、イノベーションを起こす人材や現場を支える人材を、高校から大学・大学院まで戦略的に育てる羅針盤を示せたという。

このほか、高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)の策定、学校給食費の抜本的な負担軽減、第7期科学技術・イノベーション基本計画の策定も成果に数えた。自身への評価については、国民が判断するものだとして明言を避けた。

教師の働き方改革と「余白」創出

教員の長時間労働については、同年3月に公表した調査の結果に触れた。国が上限の原則とする「月45時間」以下の教師の割合は、前年度より改善した。一方で、どの学校種にも上限を超えて働く教師が一定数いる。このため、学校の働き方改革は引き続き進める必要があるとの認識を示した。

国の取組として挙げたのは、次の3点である。1点目は、改正給特法等(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律)を踏まえ、「学校と教師の業務の3分類」を大臣が定める指針に位置付けたことだ。2点目として、義務標準法(公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律)を改正し、中学校の学級編制の標準を約40年ぶりに引き下げた。3点目には、次期学習指導要領に向けて「調整授業時数制度」の創設を具体化し、教師と子供に余白を生み出す方策を進めてきたことを挙げた。

教員のなり手不足について、松本氏は、教職と学校の魅力を一層高めることが重要だと述べた。会見時点で、中央教育審議会では、教師を生涯にわたって学び続けられる魅力ある仕事にするための方策が議論されていた。その中では、教師になった人の学部段階の奨学金返還を支援する仕組みづくりについても意見が寄せられているという。

2027年度概算要求には、教職の魅力向上に向けた意欲的な目標とその実行計画を定めた自治体を支援する新規事業を盛り込んだ。あわせて、教師になった人の奨学金などの経済的負担をさらに軽くするため、法改正も視野に入れた事項要求も行った。松本氏は、社会のあらゆる活動の土台は人であり、その人を育てるのが教育だと強調した。教職員の魅力を高めることは、社会全体、国全体に恩恵をもたらすとの考えを示した。

平和学習の調査結果は集計後に公表

平和学習についても質問が出た。文部科学省は松本氏の在任中、平和学習をめぐって、教育基本法に違反し、政治的中立性を欠くとの見解を公表している。記者はこの見解を「戦後初の判断」と位置付けたうえで、その後の是正の状況を尋ねた。

松本氏はまず、辺野古の件で亡くなった方に哀悼の意を表し、けがをした人たちにお見舞いを述べた。2026年3月に同志社国際高等学校の校外学習中、生徒に死傷者が出た事故については、極めて遺憾であり、二度と繰り返さないことが重要だと強調した。文部科学省が進めるフォローアップ調査は会見時点で集計中で、作業が終わり次第速やかに公表するとした。全国の学校に対しては、教育基本法などに基づき、「特定の見方・考え方に偏った取り扱い」とならない形で平和学習を行うよう求めた。

デジタル化の本質見失うべきでない

デジタル教科書では、「全てがデジタルな教科書」の扱いに関する過去の答弁が話題になった。松本氏は、この答弁は中央教育審議会や有識者会議での議論などを踏まえ、その時点の考えとして述べたものだと説明した。新たな教科書の在り方は、後任の大臣のもとで秋頃に策定される指針で示される予定で、会見時点では有識者会議で議論が進められていた。

生成AIなどのデジタル技術については、利点と注意点の両方を挙げた。子供一人一人のニーズや特性に合った学びを支える一方で、使い方によっては必要な学習過程が省かれるおそれもあるという。適切に使うには、メディアリテラシーや情報モラルを含む情報活用能力を育て、安全かつ主体的にAIを使える学習環境を整える必要があるとした。

後任の大臣には、「デジタルの力でリアルな学びを支える」という基本認識に立った丁寧な検討を求めた。デジタル化そのものが目的ではない、というのが松本氏の立場である。子供の学びの質を高め、自ら探究する主体的な心を育むための道具だと改めて示した。

「科学の再興」へ研究力強化継続

退任後の科学技術政策への関わりを問われると、松本氏は2025年のノーベル賞受賞者との対話に触れた。ノーベル生理学・医学賞を受賞した坂口志文大阪大学特別栄誉教授と、ノーベル化学賞を受賞した北川進京都大学特別教授から、話を聞いたという。内容は、基礎研究への支援拡充と、若手研究者が自由な発想で研究できる環境の必要性についてである。

第7期科学技術・イノベーション基本計画は、柱の一つに「科学の再興」を掲げる。その実現に向け、2025年度補正予算と2026年度当初予算では、国立大学法人運営費交付金や科学研究費助成事業(科研費)の大幅な増額をはじめ、研究力の抜本的な強化に必要な予算を確保した。松本氏はこの成果を「反転攻勢」につながる一歩と位置付け、2027年度概算要求でもさらなる大幅増額を求めていると説明した。

松本氏は、基本計画に基づく取組はまだ始まったばかりだとしたうえで、文部科学省を離れた後もどのような立場であれ、取組が形になるよう全力で応援すると述べ、会見を締めくくった。