【文科省議事録詳報】デジタル教科書指針検討会議第4回 紙とデジタルの二択超え 発達段階と脳科学から探る設計図

文部科学省は8月3日、「デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議」の第4回会合を、文部科学省15F特別会議室で対面とWEB会議の併用により開催した。座長を務める堀田龍也・東京学芸大学副学長、教職大学院教授の進行のもと、児童生徒の発達段階、健康への影響、学力等への効果・影響と諸外国の動向、学習活動における手書きの重要性という4つの議題が扱われた。

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紙だけでなくデジタルを取り入れた教科書づくりを可能にする法改正は今年6月に成立している。新しい教科書の使用が始まるのは小学校で2030年度からで、文部科学省は発行者や教育委員会が判断する際の拠りどころとなる大臣指針を今秋を目途に示す方針を掲げる。8月3日の会合は、その材料を集める場となった。

発達段階で変わる紙の強み

議題1では、野澤祥子委員(東京大学大学院教育学研究科特任教授)と渡辺弥生・法政大学文学部教授が発表した。

野澤委員は、読解の得点が画面より紙で高いという結果が数多く報告され、「スクリーン劣位効果」と呼ばれてきたことを説明した。理由としては、頻繁な操作によって読みが表層的になるという仮説と、スクロールや端末操作に脳の資源が割かれるという認知負荷の仮説が挙げられる。ただし近年のメタ分析では、物語理解や読解では紙が有利な一方、語彙の獲得ではデジタルのほうがよいとする研究も多く、一律には言えない。小学1年生の調査では、事実を問う設問ではタブレットの成績がよかったが、単語を読む力がまだ十分でない子どもに限ると印刷媒体が上回った。読みのスキルを形成する時期はそれ自体の負担が大きく、デジタルを重ねると深い処理が妨げられる可能性があるという指摘である。教室という場の特性にも触れ、2022年のPISA調査でOECD平均の30%の生徒が授業中に自分の機器へ注意をそらされると回答した点を紹介した。

渡辺教授は、理解や定着に加え、「面白そう」「やってみたい」という気持ちを引き出せるかを学習目標に含めるべきだと提起した。紙は文字や語彙の初期習得、精読、ノートへの要約による記憶の定着に向き、デジタルは反復練習や即時のフィードバック、音声や映像を伴う資料、読字困難のある子どもへの支援機能に向く。年齢が低いほど周辺の刺激を選り分ける力や自分の理解度を客観視する力が未発達なため、楽しい教材が必ずしも分かりやすい教材とは限らない。低学年は刺激の少ない紙の利点が求められ、中学年以降はメタ認知の獲得に伴い図形の変形やグラフの変化などでデジタルが生き、高学年から中高生では英語の発音理解や理科の実技動画、探究活動で効果が高まるという整理を示した。

特別支援教育の立場から発言した市川裕二委員(全国特別支援学校長会顧問、東京都立立川学園統括校長)は、認知処理の特性は障害の有無にかかわらず多様であり、その多様性を全員が使う共通の教科書にどこまで反映させるかが最大の課題になると述べた。野澤委員は、教室が共同で学ぶ場である前提を踏まえ、低学年は紙を基盤としつつ個別の支援は個別の機器で担うバランスが重要だと応じ、渡辺教授は活用の仕方次第で授業の展開可能性はむしろ広がると答えた。

脳科学は「影響は小さい」

議題2では、細田千尋・東北大学大学院情報科学研究科准教授、東北大学加齢医学研究所准教授、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授が研究状況を整理した。

細田教授はまず、脳が生涯にわたって変化し続ける器官であること、感情の調整やメタ認知を担う前頭葉が二十歳前後まで成熟を続けることを前提として挙げた。学齢期と前頭葉の発達期が重なるために懸念が生まれやすいという構図である。

米国の国立衛生研究所(NIH)が9歳から12歳を対象に約1万人規模で進めるABCD Studyでは、スクリーンメディアの利用と脳機能の関連は極めて小さく、認知機能や行動との有意な関係もほとんど見られない。多くは相関を示すにとどまり、因果関係は確認されていない。今年公表された2年間の縦断研究では、スクリーンタイムが長いほどADHDの傾向が高まり右被殻の体積が減少するとされたが、効果量は0.1に満たない水準だった。3歳から5歳の幼児47名の研究では言語処理の未発達との関連が示されたものの、人数の少なさに留意が必要だという。

細田教授は、これらのデータがすべて娯楽目的の利用を対象としており、学習での使用は含まれていない点を繰り返し強調した。ゲーム利用については脳の発達を促すという報告も多く、見解は一致していない。加えて、紙と同じ文字数をデジタルで用意して比べる設計では、デジタルならではの良さを生かした比較になっていない可能性も指摘した。

高等学校の立場から参加した内田隆志委員(全国高等学校長協会顧問、東京都立青山高等学校統括校長)の質問に対し、細田教授は学習利用による悪影響を示す根拠は現時点でないと答えた。柴田博仁委員(群馬大学大学院情報学研究科教授)が、少人数の研究で見られた僅かな差も重要ではないかと提起したのに対しては、その対象者において確認された結果は一つの事実として扱う必要があると述べた。

髙瀬智子委員(全国連合小学校長会調査研究部長、福生市立福生第一小学校校長)も、効果量が小さくとも影響は存在するとして、スクリーンタイムが長くなりすぎないという認識を共有すべきだと指摘した。岡本章宏委員(一般社団法人教科書協会デジタル化専門委員会委員長)は、紙とデジタルで脳の活性化する部位に違いがあるのかを尋ね、細田教授は違い自体は示されているが解釈は分かれると応じた。

活用頻度が高いほど授業理解

議題3と議題4は一括して扱われ、後藤教科書課長が実証研究の結果と諸外国の状況を説明した。現行のデジタル教科書は紙の教科書の内容をそのまま端末に表示する教科書代替教材にあたるが、9,037人の教師を対象とした調査では約67.6%が4回に1回程度以上の授業で使用しており、使用歴が長い教師ほど頻度が高い。昨年度に小学校の児童15,927人、中学校の生徒26,439人から回答を得た調査では、活用頻度が高い児童生徒ほど授業内容の理解、主体的な学び、協働的な学びに肯定的で、その教科を好きになったと答える割合も高かった。

個別の実証研究では、2023年度に東北大学とつくば市などが行った共同研究で、家庭学習において学習上意味のある操作をしていたと推測される生徒の音読課題や定期テストの成績が高かった。つくば市の中学1年生112人を対象とした研究では、授業と自宅学習の双方で音声コンテンツを適度に使ったグループが英検IBAの2回目のテストで有意に高い正答率を示している。

韓国教育省が2014年から2016年に小学3年生から5年生へ試行配布したデータを用いた研究では、低学力層ほど効果が大きいことが統計的に確認された。一方、紙と電子媒体の記憶や理解度の比較は結論が割れており、小学校国語で深く読む設問を比べた2024年の調査では、統計的な有意差はないものの学年が上がるにつれてデジタルが紙を逆転する傾向が見られた。

諸外国はバランス重視へ

日本のような教科書の定義や使用義務、検定制度を持つ国は主要国にほとんど見られず、単純な比較は難しいという前提が示された。報道で取り上げられるスウェーデンについては、デジタル化推進後もTIMSSでは過去3回とも成績が向上し、PISAでも2015年と2018年に向上して2022年でのみ低下したことが説明された。教科書の質保証の仕組みがない中で広告のような内容を含む教材が問題となったため、2023年の法改正で印刷出版物としての教科書が定義され、国費による購入補助が導入された経緯がある。2024年にデジタル端末を使う義務が撤廃されたのは日本の幼稚園に相当するプレスクールで、義務教育や高校段階では撤廃されていない。

フィンランドは教材の選択が自治体に委ねられ、対応は市ごとに異なる。アンデルス・アドゥレルクロイツ教育大臣は、アナログ回帰はデジタルを捨てることではなく双方の良さを生かす仕組みを整えることが目的だと述べている。

ノルウェーは2020年のカリキュラム改定期にデジタル教材を推進した結果、学校向けに開発されていない広告収入型の教材が使われる事例も指摘され、近年は市場として成立しにくい専門分野や特別な支援を要する生徒向けの教材に補助を移している。シンガポールは2021年に全中学生へ1人1台端末の配布を終えた一方、小学校では試行の検証を経て、当面配布しないことを2023年に決定した。市川委員は、個に応じた支援はデジタル教材で担い、共通の教科書は全員同じものとする役割分担が参考になると述べた。

手書きは引き続き重要

手書きについては、昨年9月の中央教育審議会デジタル教科書推進ワーキンググループの審議まとめでも、手を動かして書くことが記憶や理解の定着に資すると指摘されている。国会審議でも文部科学大臣が、デジタル一辺倒を目指すものではなく、学んだことを紙のノートにまとめる活動は今後とも重要であり、指針にもその趣旨を示したいと答弁した。実践事例としては、中学校社会科で調べ学習や意見発表にデジタルを使い、整理の段階ではノートにまとめる例、中学2年の国語と小学5年の社会科で議論を経た考えを手書きで整理する例が紹介された。

学校教材の発行者の立場から発言した森達也委員(一般社団法人日本図書教材協会副会長)は、デジタルを含む教科書は紙の置き換えではなく、音や映像という紙にはない学びを提供できるとしたうえで、思考を深める場面は教科書だけで完結しないため、教材やノートを含めた学習活動全体で設計する視点が必要だと述べた。松下妙子委員(一般社団法人全国高等学校PTA連合会前副会長)は音声トラブルにより発言できず、チャットで、家庭における団らんや自然体験など実体験の大切さと、保護者が多様な視点を持つ必要性を寄せた。

中川一史座長代理(放送大学教授)は、紙とデジタルを大枠で固定的に切り分けることには慎重であるべきだとし、画面上の本文や図表の横に書き込む実践も広がっているとして、手書きとキーボードの二項対立に陥らない想定が必要だと指摘した。

堀田座長は、学習場面で能動的にICTを使うことと学力調査のスコアは正の相関を示す一方、家庭でSNSなどに触れる時間が長いほど負の相関が見られると述べ、能動的な利用と消費的な利用の違いに触れた。そのうえで、現段階で完成した指針ができるわけではなく、現状の実態を踏まえた考え方を示し、現場での利用が進んだ段階で作り変えていく前提で取りまとめに向かう方針を示した。会議はその後、8月18日に第5回会合を開き、指針の取りまとめに向けた議論を続けている。詳細は文科省公式HPへ。


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