社会のグランドデザインを構築し、実装できる人材を育てる社会構想研究科

社会構想大の3つ目となる新研究科、社会構想研究科。現状を学術的に把握した上で、社会のあるべき姿を描き、政策やソーシャルビジネスを通じてそれを実現できる人材を育成する。だがそもそも社会構想とは何なのか?社会構想研究科ではそれをどう教えるのか?所属教員が全12回のリレー形式で解説する。

社会構想の専門家養成が
必要な内的・外的理由

吉國 浩二

吉國 浩二

社会構想大学院大学 学長・社会構想研究科長・教授
専門分野:マスメディア・経済学
担当科目:社会構想概論・グランドデザイン構想論
1975年、東京大学経済学部卒業、日本放送協会入局。横浜放送局長、経営委員会事務局長、理事、専務理事を歴任。役員としてコンプライアンス、人事、総務、関連事業、コンテンツの二次展開・海外展開、広報等を担当し、2016年退任。2019年より社会構想大学院大学学長。

2017年に開学した社会人向け専門職大学院、社会構想大学院大学は、独立系としては国内で唯一、複数の研究科を有する「総合専門職大学院大学」として、グローバル化やデジタル化の急激な進行に伴い不確実性が増している現状に、それぞれの持ち場で的確に対応できる高い専門性をもった人材の育成に取り組んできた。

開学と同時に設置された「コミュニケーションデザイン研究科」では、持続可能な社会の実現に向けて組織と社会の理念の共有を目指すコミュニケーション活動の在り方について、また2021年度に設置された「実務教育研究科」では、既存の学問体系と教育を実践知を基軸に再構築する方策について、教育・研究を行ってきた。

こうした目的を実現するために両研究科が共通して重視してきたのが、変化の先にある社会の理想の姿を見定め、それを踏まえて自らの持ち場でのグランドデザインを描き、社会実装を図る能力であった。2024年4月に新たに設置する「社会構想研究科」は、本学が開学以来蓄積してきたこうした取り組みの集大成に他ならない。

未来のグランドデザインを構想し実現するための知見を、自らの持ち場のみならず社会そのものの変革に用いる高度な能力をもったプロフェッショナルを養成すること。それが社会構想研究科の目的である。

誰が「グランドデザイン」を
構築するか

これまで国内社会において「グランドデザイン」構築の担い手とされてきたのは、例えば経営者や政治家、官僚・自治体職員であった。しかし、経営者や政治家は日常的な意思決定や選挙対応のための関係構築に、また官僚・自治体職員は毎年度の予算の作成と執行に多くのリソースを割かれるため、公共領域で働くすべての主体が「グランドデザイン」構築のための専門性を高める機会を得てきたとは言いがたい。さらに大学院レベルにおける政策研究も、「理想的な社会像の追求」よりも個別具体的な経営管理・政策構築の知識や技能を修得することに重きを置いてきた感がある。

しかし、VUCAと形容される現代社会においては、専門的能力を修得するだけではなく、そうした能力が依って立つ社会はそもそもどうあるべきか、あるいはそうした社会を実現するために組織や制度はどうあるべきかといった事柄について立ち止まって考えることが求められる。

また、社会全体の持続可能性が危ぶまれ、一般企業やNPO・NGO、さらには市民もまた公共的・公益的な活動の担い手となることが求められている現在、社会起業を通じて経済活動と社会貢献の好循環を実現し、持続可能な形で社会課題の解決に取り組むことのできる人材の養成が大きな課題となりつつある。

社会構想研究科の目的は、社会の諸側面を分析するための深淵な学識を身に付け、社会課題の解決を図るための卓越した能力を培うことで、長期的な視野から社会善を追求し、その実現のために社会や組織のグランドデザインを描くことのできる人材や、新たな社会的価値を創出できる人材を養成することにある。具体的には、以下のような人材である。

(1)社会や組織のグランドデザインを描くために必要な知識を体系的に修得するとともに、それを実現するための具体的な方法論を実践的に身につけた政治家、経営者等

(2)理論的視座から社会動向と社会課題の本質を見定めたうえで、経済活動を通じてそうした課題の解決を図るための思想と技術を修得した社会起業家、ソーシャルイノベーター等

学びの中心となる
「社会構想探究科目」

社会構想研究科において学生は、社会学領域の広範な理論や方法論を修得しつつ、それらを応用して社会や組織のグランドデザインの構想や社会起業の実装を行うために必要な知見を学ぶことになる。なかでも学びの中心に位置づけられるのは、グループワークと継続的な調査およびディスカッションにより、具体的な組織の抱える課題について解決策の提言を行う「社会構想探究科目」である。

こうした、いわゆるPBL(プロジェクト/プロブレム・ベースド・ラーニング)を通じて修得される「社会調査に基づき課題を構造化する能力」や「理論やデータに基づき解決策を提言する能力」は、経験や感覚に頼らない「グランドデザイン」の構想や、経済活動と社会貢献の好循環の実現を図る上での基盤となることが期待される。

本連載では、このたび開設初年度を迎える社会構想研究科の教育・研究実践について、所属教員による寄稿を通じて解説していく。「不確実性を超えて理想の社会実現の先頭に立つプロフェッショナルの養成」という企てに挑戦していく教育現場からの報告に、ぜひご期待いただきたい。