飛騨古川に新たな大学「CoIU(仮称)」 街をキャンパスに未来を共創する
飛騨市古川町に2026年4月、コー・イノベーション大学(仮称・設置認可申請中)が開学予定だ。日本全国を学びのフィールドに、理論・対話・実践を往還し、共創(Co-Innovation)の精神と実行力を育む。副学長就任予定の髙木朗義氏に、開学に向けた思いを聞いた。
日本各地でボンディングシップ
長期実践型の学びを深める

髙木 朗義
コー・イノベーション大学(仮称)理事・副学長候補、現岐阜大学教授
1963年名古屋市生まれ。1982年愛知県立瑞陵高校卒。1987年岐阜大学卒業後、コンサルタントを経て、1999年岐阜大学講師、2006年教授、現在に至る。専門は土木計画学(防災・まちづくり)。『アプリ減災教室』や『減災教室トランプ』などの防災教育教材を開発・展開。『世界一受けたい授業』や『ニノさん』などメディアにも多数出演、現在平日毎朝FMラジオにも出演中。
──コー・イノベーション大学(以下CoIU)はどのような大学になるのか、概要を教えてください。
CoIUでは共創学部地域共創学科を設置し、地域課題を解決できる人材の育成を目指すことを基本理念としています。そのために、「理論」「対話」「実践」の3つのプロセスを往還しながら、単なるインプットにとどまらず、しっかりとアウトプットすることを重視した教育を展開します。
具体的には、データサイエンスを活用した現状分析の力をはじめ、経済・経営系の基礎的な分野をしっかりと押さえつつ、複数の専門領域にわたる学びを深めていきます。現代社会は複雑化しており、特定の専門分野だけでは地域課題の解決は難しくなっています。そこで、基幹学問としては経済学・経営学を据えつつ、環境、エネルギー、防災など、10の専門領域ごとに教員を配置し、地域課題に応じて複数の専門領域を組み合わせながら学んでいくカリキュラム設計としました。
──カリキュラムの特色について教えてください。
最大の特徴は、全国各地の地域を舞台にした実践的な学びです。2年次には「ボンディングシップ」と呼ばれる長期実践型インターンシップの授業が設けられています。学生は各地域に移住し、週に2日はオンラインで講義を受け、週に3日は企業や自治体とともにプロジェクトに取り組みます。3年次以降は、1~2年次の学びを活かし、自身のテーマでプロジェクトを進めるか、教員のプロジェクトに参加して実践を積むかを選択できる仕組みになっています。
この「ボンディングシップ」は、大学だけで実現できるものではありません。各地のNPOなどにコーディネーターとして、地域課題と学生をつなぐ役割を担っていただきます。地方の中小企業では、新しい挑戦をしたくても、現場のスタッフだけでは手が回らないことがよくあります。そこで、学生が地域企業の経営者とともに新規事業を立ち上げるといった試みが全国各地で展開されており、「ボンディングシップ」もそうした方々のご協力をいただき設計しました。
「インターンシップ」という言葉は、近年、就職活動の一環として捉えられることが多くなっています。しかし、私たちが目指す教育はそれとは異なります。そこで、「絆」を意味する「ボンド(bond)」に由来し、「ボンディングシップ」という独自の名称にしました。
街そのものをキャンパスに
地域の中で学び、生活する
──キャンパスが特徴的だと聞きました。
「地域の中で学び、生活する」というコンセプトのもと、CoIUでは街そのものをキャンパスと捉えています。飛騨市古川町の中心部に、講義室、ゼミ室、研究室、図書館などの施設を分散して配置しているため、地域と大学の垣根が非常に低く、街と一体となった環境で学ぶことができます。
大学を新設する場合、大規模な校舎を建設するのが一般的ですが、CoIUでは新たに校舎は建てません。メインの教室は、飛騨古川駅前にあるホテルを改装したキャンパスに設置します。かつて宴会場として使われていた広間をリノベーションし、120名が受講できる大教室となる予定です。さらに、旧料理旅館や古民家を改装し、図書館機能を備えた交流館やセミナールームなどを設置します。
飛騨古川は、端から端まで歩いて15分ほどとコンパクトな地域です。私が現在所属している岐阜大学と同じくらいの広さで、「街全体がキャンパス」という感覚を体感しやすい環境といえます。

ホテルや料理旅館・古民家を改装した施設を街中に複数設置。一般的な大学とはひと味違う、温かみのある学びの空間になる。
──CoIU開学について、地域の反応はいかがですか。
つい先日、高校生と保護者向けのオープンキャンパスを開催しました。プログラムの一環で、全国から訪れた高校生が街に出て、地域の方々にインタビューを行いました。その際、地元の方々からは「開学に大いに期待している」という声を多くいただきました。
CoIUは1学年120名、4学年がそろうと480名になります。ボンディングシップによって学生が各地に分散するとはいえ、これまで4年制大学がなかった飛騨地域にとっては、大きなインパクトになるはずです。街中で学生が活動することで、活気が生まれるだろうと思います。
探究学習で悔しい経験をした人こそ歓迎
自分の興味・関心を深めてほしい
──開学に向け、現在はどのような取り組みに注力していますか。
例えば、昨年の夏には高校生向けの体験プログラムとして、「共創サマチャレ(サマーチャレンジ)」を開催しました。2泊3日の行程で、理論・対話・実践を往還する新しい大学の学びを先取りしながら、地域を楽しみ、探究のタネを見つけることを目的としたプログラムです。
高校生にとって非常に刺激的な学びになったと思いますが、3日間ではアイデアを出すだけで終わってしまいます。そこで、さらに「探究テーマ」に挑戦したい高校生向けに、サマチャレ終了後の半年間にわたる探究プログラムも用意しました。実際に12人の高校生が参加し、3チームに分かれて、地元のせんべい屋のブランディングや、飛騨市のファンを増やすイベントの企画・運営などに取り組みました。つい先日、この伴走プログラムの報告会が行われましたが、どのチームも素晴らしい成果を発表してくれました。

高校生向けに開催された「共創サマチャレ」。全国から意欲のある高校生が集まった。
──どのような資質を備えた学生を集めたいと考えていますか。
高校でも「総合的な探究の時間」が導入され、学校の枠を超えて社会や地域に目を向ける機会が増えています。そうした環境の中で、自分の興味・関心を探究し、行動に移そうとしている高校生に関心を持ってもらえたら嬉しいですね。単に考えるだけでなく、自分の関心をもとに行動を起こすことを、高校時代から積極的に経験してほしいと思います。
もちろん、特定の興味・関心がまだ見つかっていない場合もあるでしょう。それでも問題ありません。高校時代に明確なテーマが見つからなかったとしても、「自分で何かを実現したい」という強いモチベーションがあれば、ぜひCoIUで学んでほしい。また、高校時代に挑戦したものの、思うような結果が出せずに悔しい思いをしたという人も大歓迎です。
さらに、生まれ育った地域は好きだけど、現状では自分のやりたい仕事がないと感じている高校生にも、ぜひお勧めします。「やりたいこと」を事業化する方法を学ぶことができます。大学在学中であれば、何度も失敗しながらチャレンジを積み重ねていくことができます。そうして、自分のやりたいことを見つけていくプロセスを大切にしてほしいと思っています。
語弊があるかもしれませんが、従来型の偏差値教育には多くの弊害があると考えています。少子化が進む今、過度な競争をしなくても、自分のやりたいことを実現する手段はいくらでもあります。それなのに、多くの高校生が入試のための受験勉強に時間を取られているのは、非常にもったいないことです。
高校時代からもっと自分の興味・関心があることに時間を割き、それをもとに人生の選択ができるようになってほしい。そうした思いから、CoIUでは偏差値に依存しない総合型選抜をメインとする入試制度を採用したいと考えています。
賛同企業と進めるリカレント教育
真の地域おこしを担える人材育成へ
──「Co-Innovation Valley」というプロジェクトも走り始めました。
CoIU開学に先駆け、昨年9月に「Co-Innovation Valley」を始動しました。これは、地域おこし人材を育成するCoIU、まちづくりを推進する共創拠点、そして自然資本を活用した再生可能エネルギー産業の3つの事業を軸とする、日本初の「真の地域おこし」プロジェクトです。
新たな共創拠点としては、「soranotani」と名付けた商業施設を2027年度にオープンする予定です。飛騨の山々に囲まれたこの施設では、薬草や木材など、地域資源を活かしたコンテンツを充実させ、産業や資源と街全体がつながる拠点となる計画です。「Co-Innovation Valley」には、すでに40社以上から賛同をいただいており、そのネットワークを活かしたリカレント教育にも力を入れていく考えです。
今後は、「Co-Innovation Valley」の各事業を有機的に循環させながら、これまでの観光産業にとどまらず、地域に根付いた持続可能な産業の発展を促し、日本が直面する社会課題に真剣に向き合う人材の育成を目指しています。その大きな柱の1つとして、2026年春のCoIU開学に向け、教職員のみなさんや地域の方々などとともに、一丸となって取り組んでいきます。

地域の共創拠点の開業に先立ち、2024年秋に体験型の「Hida Co-Innovation Festival」を開催。1カ月で約1万7,000人が来場した。