行政や地域事業者と連携し、新たな挑戦に踏み出す人を支える
フィノーカルは岐阜県垂井町において、「創業支援アカデミー」や「共創ビジネス拠点」の運営など様々なプロジェクトに携わり、起業する人を後押ししている。行政や地域の事業者と一体となって、新たなチャレンジを促進する環境を築き、地域の未来を拓くことを目指している。
「創業支援アカデミー」を運営し、
起業家の輩出に貢献

内山 大志
フィノーカル株式会社 代表取締役
1993 年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部在学時より、社会的事業に関心を持ちフェアトレード事業に関わる。在学中に起業を行う一方で、大学を休学し岐阜県垂井町とインドネシア農村にて半年間ずつフィールドワークを経験。大学を卒業後、インパクト投資ベンチャーキャピタルに勤務。その後、2020 年にフィノーカル株式会社を設立し、代表取締役に就任。地域自治体における創業支援事業やビジネス拠点の運営事業を実施。一般社団法人日本フェアトレード・フォーラム代表理事も務める。
フィノーカルは、「誰もが人生の主人公になれる世の中に」をビジョンに、2020年11月、代表取締役の内山大志氏が設立した。社名の由来は、financial for local (=地域のためのインパクト投資)。内山氏は前職でインパクト投資事業に従事し、地域産業の活性化のためには直接金融の仕組みこそが重要であると感じ、フィノーカルを立ち上げた。
フィノーカルは東京・渋谷に本社を置いているが、人口約2万6000人の岐阜県垂井町(たるいちょう)において、様々なプロジェクトを展開している。内山氏の垂井町との関わりは大学時代に半年間、垂井町でフィールドワークを経験したのがきっかけだ。大学卒業後も定期的に通い、いろいろな活動に取り組んできた。
フィノーカルの設立後、2022年に自治体が開催する「垂井町創業支援アカデミー」の運営に携わり、新規事業のつくり方や、経営方法・資金繰り等における講義の提供、受講者の事業立案までをサポートした。創業支援アカデミーには20代から70代の24名が参加し、そのうち約3分の1が実際に起業したという。
「それまで垂井町には、起業に関心を持つ人たちが、横のつながりを持てる場が不足していました。創業支援アカデミーを通してコミュニティを育み、受講者の方々が最初の一歩を踏み出せるように、丁寧に伴走支援したことが起業家の輩出につながったと感じています」

「創業支援アカデミー」では、経験豊富なゲスト講師によるセミナーやグループワーク等を通して、受講者たちが自身の事業プランを具体化。
フィノーカルは創業支援アカデミーの成果を今後につなげていくために、垂井町出身の経営者や各分野の専門家を事業者支援アドバイザーとして募集し、リストを作成。新規事業や起業に挑戦する人たちが継続的に支援を受けられるように「垂井町創業支援コミュニティリスト」として運用している。
また、事業を拡大するためには、新しい販路の開拓が重要だ。フィノーカルは2023年12月、垂井町の魅力ある商品やサービスを紹介するポータルサイト「垂井町オンラインコレクション」をオープンし、垂井町内の事業者の成長を後押ししている。

サテライトオフィスやコワーキングスペースの機能を備えた共創ビジネス拠点「コネクトベース垂井」。
垂井町では行政も創業支援に力を入れており、2024年12月に共創ビジネス拠点「コネクトベース垂井」をオープンし、フィノーカルがコミュニティマネージャー事業を受託した。コネクトベース垂井は、以前は保育園だった建物をリノベーションした施設であり、JR垂井駅から徒歩約3分に立地し、サテライトオフィスやコワーキングスペースの機能を備え、これから起業したい人や事業を営んでいる人がビジネスを成長させる拠点になっている。
地域が一体となって、
チャレンジを支える環境を築く
2025年度、垂井町で実証実験プロジェクト「タルイノ」がスタートした。それは垂井町の資源を活用した新事業の創出に向けて、実証実験を支援するプロジェクトだ。地域外からも事業者を呼び込み、産業の活性化につなげることを目指している。
直近では、垂井町において民間と行政をつなぐ役割を果たす担い手が生まれている。内山氏自身もまちづくり組織である「一般社団法人みんなのざいしょ」の立ち上げに携わり、理事に就任した。
「垂井町には新しいことにチャレンジする方が多くいて、利便性も良く、創業へのポテンシャルが高いと感じています。また、行政も非常に前向きで、民間の知見を活用して地域の未来を拓こうとしています。行政や商工会を含めて、地域が一体となって支援する体制が築かれていますので、いろんな人や企業に垂井町での挑戦に踏み出してほしいと考えています」
フィノーカルも新たな挑戦を始めており、隣接する岐阜県関ケ原町でゲストハウス事業をオープンするとともに、垂井町でも宿泊事業を計画している。
「現状では、垂井町や関ケ原町に訪れた観光客のうち、宿泊するのはわずか数%にすぎません。観光客が泊まれる施設をつくることで、地域内で新たな消費を喚起できるのではないかと考えています」
内山氏は、地域の外から来た者の視点で見ると、垂井町には魅力的な地域資源がたくさんあると語る。
「垂井町には、自然豊かな風土や魅力ある伝統・歴史があります。外から訪れた人がそうした魅力に気づき、認知されれば、町の人にとって誇りとなり、自分ごととしてまちづくりに取り組む人も増えるはずです」
内山氏は現在、フィノーカルの経営を牽引しながら、新たなチャレンジに踏み出している。大学院大学至善館の修士課程に在籍して研究に取り組むほか、2026年の開学に向け申請を進めているビジネススクール、環境経営大学院大学(岐阜県大垣市)で講師を務める予定だ。内山氏はアカデミズムで培った知見も活かしながら、今後も地域産業の振興に力を入れていく考えだ。