【10月30日関芳弘文科大臣会見要旨】デジタル教科書のサイバー攻撃対策、標準仕様でセキュリティ実装求める
関芳弘文部科学大臣は2026年10月30日、記者会見を開いた。冒頭の発言はなく、記者との質疑応答のみが行われた。質疑応答では、社会人が大学院で学んで教員免許を取得できる新たな教職課程、東京大学の総長選考を巡る文部科学省の検証依頼、超深海探査母船の建造、PHPの脆弱性によるデジタル教科書への影響と対策、日独首脳会談の成果文書に盛り込まれた科学技術協力について答えている。
社会人の新たな教職課程、資質能力の確保が不可欠
記者は、大学で教職課程を履修しなかった社会人などが、大学院で学ぶことで教員免許を取得できる新たな課程について質問した。課程の概要は中央教育審議会の教員養成部会で示された。SNSなどでは、短期間で免許を取得できるようになることを懸念する声も見られるという。記者は、教師として必要な資質や能力をどう確保し、従来のルートと比べてどのような仕組みにするのかを尋ねた。
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関大臣は、中央教育審議会で、多様な専門性を持った人材が教師となるための方策が議論されていると説明した。議論のなかで、社会人としての経験を踏まえ、大学院での1年程度の学習を通じて教員免許を取得できる新たな教職課程を創設する方向で提案を受けているという。この課程は、現場での実践的な学習を中心としたものだ。
一方で関大臣は、教師として働くには、児童生徒に対応できる資質能力を身につけることが不可欠だと述べた。資質能力を身につけられる設計とすることも重要だとの意見も寄せられているという。文部科学省は、中央教育審議会での議論や国民の声も踏まえ、多様な人材が教師としての資質能力を持って働ける環境を整えるため、必要な改革を進めていく考えだ。
東大総長選考の検証依頼、3要素そろうのは唯一
記者は、東京大学の総長選考について、文部科学省が検証を依頼したことを取り上げた。国立大学全体の学長選考に関して萎縮を招くとの声も上がっているとして、文部科学省の考えを尋ねた。あわせて、要望書を提出していた東京大学の教職員有志が10月27日に再質問書を提出したことについて、関大臣の受け止めを聞いた。
関大臣は、検証依頼の経緯を説明した。総長選考を巡っては学内外で多くの疑問の声が上がり、学内の教職員有志からも説明を求める要望書が提出された。関大臣自身も、法人として説明責任を果たすことが重要だと繰り返し述べてきたという。しかし、選考過程や選考理由について明確な説明がまだなされていないとの声が上がっている。このため、法人の自律的なプロセスを促し、東京大学自らに説明責任を果たしてもらうために依頼したと述べた。
関大臣は客観的な事実も示した。2004年の国立大学法人化から2026年10月20日までに行われた学長選考は568件ある。このうち、意向投票の結果と異なる選考が行われたのは、文部科学省が把握している限り41件だ。さらに、意向投票が2回行われたこと、2回のいずれでも第1位の候補が選ばれた候補の2倍以上の票を得たこと、2回目の意向投票で第1位の候補が過半数を獲得したことの3つの要素をすべて持つのは、今回の東京大学の選考のみだと説明した。このため東京大学には、より高い説明責任が求められていると考えているという。
関大臣は、2026年6月に行われた京都大学の総長選考にも触れた。京都大学は選考結果の公表に際し、候補者の経歴と、その経歴を踏まえた国際卓越研究大学構想の達成のための実行力という最終的な判断材料を具体的に明示したうえで、総長選考・監察会議の委員の全会一致で決定したことを示している。関大臣によると、客観的な事実としても意向投票の実施は1回のみで、結果の得票差も東京大学ほど大きくなかった。文部科学省として、京都大学の総長選考について検証を依頼することは考えていないとした。
関大臣はまた、国立大学法人のガバナンスの基本原則である「国立大学法人ガバナンス・コード」を踏まえれば、本来は東京大学が自ら主体的に説明責任を果たすべきだと指摘した。残念ながらそうした対応がなされていないため、検証を依頼したという。依頼の趣旨は、10月21日に開かれた国立大学協会の理事が集まる会議でも、文部科学省から丁寧に説明している。関大臣は、各大学が萎縮するようなことは生じないと考えていると述べた。
10月27日には、学内の教職員有志から東京大学の総長選考・監察会議と監事に宛てて、選考理由の説明を求めて再び質問する文書が提出された。関大臣は、この再質問の文書は重要な指摘を含むものだと評価した。総長選考・監察会議には、真摯に受け止めて説明責任を果たしてほしいとの考えを示した。
超深海探査母船の建造費を概算要求に計上
記者は、有人潜水調査船「しんかい6500」を支える深海潜水調査船支援母船「よこすか」の老朽化を受け、新たな深海探査プラットフォームとして超深海探査母船の新造に向けた検討が進んでいることを取り上げた。深海や超深海の調査は、科学的な発見や地球科学の理解だけでなく、国家の経済安全保障の上でも重要な鍵になるとして、関大臣の意気込みを尋ねた。
関大臣によると、文部科学省は2027年度予算の概算要求で、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が保有する「よこすか」の老朽化を踏まえ、深海探査の新たなプラットフォームとなる超深海探査母船の建造費用を計上した。日本の排他的経済水域(EEZ)は、面積の約半分が水深4000mの深海だ。関大臣は、深海の探査能力を維持・強化することは日本にとって不可欠だとの考えを示した。
関大臣は、海底の地震・火山の発生メカニズムの解明や、鉱物・生物資源の調査など、深海探査の意義は極めて高いと語った。世界各国でも探査能力を強化し、精力的な取り組みが行われているという。文部科学省は超深海探査母船の活用を通じ、科学的成果の創出にとどまらず、海底鉱物資源などの経済安全保障にも貢献する深海探査を積極的に推進する方針だ。
学習を止めない印刷・ダウンロード機能
記者は、先日PHPに重大な脆弱性が見つかった問題で、学校現場でも授業で使っているデジタル教科書が一時的に使えなくなるなどの影響が出たことを取り上げた。デジタルを活用する教育現場のリスクを再認識させる事案だったと指摘したうえで、文部科学省がデジタルな形態を含む教科書の検定や採択に向けた対応を進めるなか、デジタル教科書がセキュリティなどの問題で使えなくなる可能性にどう対応するのかを尋ねた。
関大臣によると、PHPの脆弱性を踏まえた対応として、現行のデジタル教科書を閲覧するためのビューアを提供する企業7社のうち、PHPを利用する1社で緊急メンテナンスが行われた。これにより、児童生徒などが閲覧できない時間帯が発生した。あくまで攻撃に備えた予防的な措置であり、不正アクセスや情報漏えいは確認されていないという。
関大臣は、2030年度から使われる新たな教科書についても、子供たちの学習が止まらないようにすることが重要だとの認識を示した。文部科学省は現在、標準仕様の策定に向けた検討を進めている。必要なセキュリティ対策については、標準での実装を求める予定としている。そのうえで、デジタル部分が一時的に使用できない場合でも学校現場で学習を継続できるよう、デジタル部分をあらかじめ印刷・ダウンロードできる機能が必要だと考えており、この機能も標準仕様で実装を求める考えだ。
決着点を問われ、改めて丁寧な説明を要請
記者は、東京大学の総長選考を巡る問題の決着点がどこにあると考えているのかを改めて尋ねた。東京大学が要望書に回答した時点なのか、何をもって東京大学が説明責任を果たしたといえるのか、判断の基準についても聞いた。
関大臣はまず、今回改めて行われた再質問の内容に触れた。総長選考・監察会議が設定した評価項目に基づき何を評価して選考したのか、候補者に対するどのような事実に基づいて評価が行われたのか、会議において委員の協議や投票がどのように行われたのかなど、選考の過程について改めて説明を求める要望がなされたという。
これらの点について関大臣は、どのような客観的な事実に基づいて候補者を比較検討し、今回の判断に至ったのか、判断の合理性について十分な説明責任を果たしてほしいと、これまでも求めてきたと説明した。内部からも外部からもまだいろいろと質問が出ている状況であることから、もう一度丁寧に説明してほしいと述べた。続く質問に対しては、今後の状況を文部科学省としてもしっかり見ていきたいと答え、現在は途中の状況だとの認識を示した。
SPring-8停止中はドイツ施設と連携強化
日独首脳会談は10月28日、総理大臣官邸で行われた。記者は、会談の成果として発表された先端技術協力に関する共同宣言に、SPring-8とドイツのPETRA IIIによる放射光科学分野での協力が盛り込まれたことを取り上げ、連携の意義や狙いを尋ねた。成果文書には文部科学省が所管する技術分野の協力もほかに記載されており、特に重要だと考える分野と期待についても質問した。
関大臣は、日独首脳会談の成果文書の一つとして「先端技術協力に関する日独首脳共同宣言」が発出されたと説明した。放射光科学分野では、大型放射光施設SPring-8とドイツの放射光施設PETRA IIIの連携強化などが確認された。SPring-8では、高度化に向けた整備のため、来年度(2027年度)後半から約1年間の運転停止期間を予定している。関大臣は、停止期間中は代替となる国内外の施設を最大限活用することが極めて重要だと強調した。今回の成果文書も踏まえ、運転停止期間中の利用機会の確保や施設の高度化に向けて、日独間の連携を強化していく考えだ。
成果文書には、宇宙、フュージョンエネルギー、研究協力・交流などに関する記載もある。関大臣は、これらの分野でも両国間の連携がさらに強化されることに期待を示した。特にフュージョンエネルギーについては、文部科学省とドイツ連邦研究・技術・宇宙省との間で、日独共同意向表明書を11月に締結することになった。日本とドイツがそれぞれ強みを持つ特定分野での協力や、人材育成、人材交流などを通じ、日独協力によってフュージョン発電実証プラントの建設に向けた技術開発を推進していく。
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