定時制・通信教育振興法、1953年制定以来の改正
参議院は2026年7月15日の本会議で、高等学校の定時制教育及び通信教育振興法の一部を改正する法律案を可決し、同法は成立した。1953年(昭和28年法律第238号)の制定以来、内容に踏み込んだ改正はこれが初めてとなる。改正の柱は、通信制課程を置く学校の設置者に管理運営の責務を条文として新設した点と、文部科学大臣が管理運営の基本指針を定める仕組みを設けた点の二つに集約される。
背景に急増する通信制高校と管理運営のばらつき
文部科学省が2025年8月に公表した学校基本調査の速報値によると、通信制高校の生徒数は前年度比5%増の30万5221人となり、過去5年間で1.5倍に増えた。全国の高校生に占める割合は9.6%に達し、ほぼ10人に1人が通信制課程で学ぶ計算になる。学校数も2025年度には332校となり、20年前からほぼ倍増した。00年代に構造改革特区の枠組みで株式会社による学校開設が認められたことを背景に、私立の通信制高校が急増した経緯がある。
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生徒数・学校数が増える一方で、管理運営面の課題も指摘されてきた。文科省の調査では、配置すべき教員数を満たしていない事例や、体育の実技を行うための施設を備えていない事例が複数校で確認されている。時事通信の報道によれば、学習指導要領で定められた面接指導の回数が不足していたり、必要な免許を持たない教員が指導を行っていたりする事例も問題となっていた。
同法はもともと、働きながら学ぶ青年に教育の機会均等を保障することを目的として1953年に制定されたもので、法律の性格上、教育の質を確保するための規定は置かれていなかった。通信制高校の急増とそれに伴う運営上の課題を受け、今回の改正では、従来の「振興」という目的に加えて「適正な実施及び運営の確保」を法律の目的そのものに位置づけ直すこととなった。
国会での審議過程
この改正案は、内閣が提出する法案(閣法)ではなく、超党派による議員立法として、衆議院文部科学委員長の斎藤洋明(自由民主党)を提出者とする委員長提案の形で衆議院文部科学委員会から本会議に提出された(衆法第23号)。衆議院本会議では2026年6月25日に可決され、参議院に送付された後、参議院文教科学委員会が同年7月13日に審査を付託し、7月15日の参議院本会議で可決・成立した。
新旧対比 目的規定と責務規定の再構成
法律の名称自体も改められる。現行法の名称「高等学校の定時制教育及び通信教育振興法」は、改正後「高等学校の定時制教育及び通信教育の振興等に関する法律」となる。「等」の一字が加わったところに、振興だけでなく適正な実施・運営の確保までを法律の射程に含めるという今回の改正の狙いが表れている。
目的規定(第1条)も書き換えられた。現行法は「勤労青年教育の重要性にかんがみ」「働きながら学ぶ青年に対し」教育の機会均等を保障し、「国民の教育水準と生産能力の向上に寄与する」ことを目的として掲げている。勤労青年を前提とした昭和28年当時の制度設計が、そのままの形で残っていたことになる。新法はこれを「勤労青年その他の多様な生徒の特性に配慮しつつ」という表現に置き換え、対象を働く青年に限定しない書き方へ改めた。目的の末尾も、生産能力の向上という表現から、生徒が「社会において自立的に生きるために必要な素養を培い、その個性に応じて将来の進路を決定し、もつて豊かな人生を送ることに資する」という、生徒本人の自立と人生を軸にした表現へと変わっている。
責務規定の構成も大きく変わった。現行法第3条は、国と地方公共団体の任務を一つの条文にまとめ、地方公共団体には総合計画の樹立や施設整備などを努力義務として課すにとどまっていた。新法では、国の責務(第3条)と地方公共団体の責務(第4条)を別の条文に分け、地方公共団体には国及び他の地方公共団体との連携を図りつつ、地域の特性に応じた施策を策定・実施する責務を明記した。
新設された学校設置者の責務
今回の改正で最も比重が大きいのは、現行法には存在しなかった「定時制の課程又は通信制の課程を置く高等学校の設置者の責務」という条文(新法第5条)が新設された点だ。ここでは、施設・設備及び管理運営体制の整備・充実、情報通信技術の活用等による内容・方法の改善、生徒の特性を考慮した教員研修の計画策定・実施、国及び地方公共団体が講じる施策への協力、そして通信教育連携協力施設(いわゆるサポート校等)における適正な教育の確保という五つの責務が、学校設置者自身に課されている。従来、学校の管理運営に関する法的な責任の所在は条文上必ずしも明確ではなかったが、今回の改正によって初めて根拠が与えられたことになる。
もう一つの新設条文が、文部科学大臣による「基本指針」の策定を定めた第9条だ。基本指針には、通信制課程を置く高等学校の適正な管理運営に関する事項、通信教育の適正な実施及び運営の確保に必要な監督や指導・助言・勧告の実施に関する事項に加え、広域通信制課程における関係地方公共団体相互間の連携協力に関する事項が定められる。具体的には、広域通信制課程を置く高等学校とこれに係る通信教育連携協力施設に関する情報の共有及び意見の交換、管理運営の状況を把握するための調査の実施が挙げられており、自治体間の連携を法律上の指針事項として位置づけた点は、今回の改正の実務上の要となる部分と言える。
このほか、国及び地方公共団体が学校教育法や私立学校法などの規定による権限を適切に行使すべきことを定めた第10条、国による調査研究の推進とその成果の普及・活用を定めた第11条も新設された。現行法にあった補助金関連の条文(公立・私立高校の設備費補助、教科書に関する特別措置など)は、条番号を後ろにずらしたうえでそのまま維持されている。
施行と今後
改正法は、公布の日から6か月を経過した日に施行される。ただし、基本指針の策定に関する規定は公布の日から施行され、施行日前であっても文部科学大臣が基本指針を定め、これを公表できるとする準備行為の規定が置かれている。基本指針の内容が固まり次第、通信制高校を含む定時制・通信制教育の現場には、具体的な管理運営の基準として反映されていく見通しだ。
今回の改正の特色は、勤労青年向けの教育機会確保という昭和28年当時の制度目的を不登校経験者を含む多様な生徒の受け皿としての実態に合わせて再定義したうえで、学校設置者の責務を条文として初めて明記したことにある。通信制高校の急増とそれに伴う管理運営の質のばらつきという課題に対し、これまで存在しなかった法的な枠組みを与えるものと位置づけられる。