アンソロピック共同創業者兼CEO ダリオ・アモデイ氏、AIの急速な進化に対応する政策提言公開
アンソロピックの共同創業者兼最高経営責任者(CEO)ダリオ・アモデイ氏は、新たなエッセイ「AIの指数関数的進化と政策」を2026年6月10日に自身のウェブサイトで公開した。急速に進化する人工知能を前に、政策立案のあり方をどう変えるべきかについて、アモデイ氏自身の考えを体系的に示した内容だ。
エッセイの中核にある主張は、「人工知能の進化速度は、通常の政策立案プロセスが追いつける速度をはるかに超えている」というものだ。アモデイ氏はこの状況を、J・R・R・トールキンの「ロード・オブ・ザ・リング」に登場する巨木の存在ツリービアードと、稲妻のように素早く動くホビットたちの対比で説明している。立法に数年単位の時間がかかるあいだに、人工知能は「面白いおもちゃ」から「データセンターの天才の国」へと様変わりしかねない。そうした切迫感がエッセイ全体に流れている。
Photo by Shuo/ Adobe Stock
アモデイ氏が見直しを求める政策領域は五つある。
一つ目は規制と公共の安全だ。情報開示の義務付けは重要な第一歩だったが、サイバーセキュリティをはじめとするリスクが現実のものとなった今、拘束力のあるルールの整備が急務だとアモデイ氏は訴える。航空機の安全審査を担う米国連邦航空局をモデルに、最先端の人工知能モデルにも第三者による技術的検証と監査を義務付け、高い安全基準を満たさないモデルのリリースを差し止める権限を政府が持つべきだと主張している。
二つ目はマクロ経済と税制だ。人工知能は急速な経済成長をもたらす一方で、人間の認知能力を広く代替しうる性質ゆえに、従来の技術革新をはるかに上回る規模で労働市場を揺るがしかねないとアモデイ氏は指摘する。成長の恩恵を一部にとどめず社会全体に届けるため、賃金保険制度や雇用維持のための税制インセンティブ、さらには将来的なユニバーサルベーシックインカムの検討を提言している。
三つ目は人工知能がもたらす恩恵の加速だ。医療・ライフサイエンスなど人工知能が大きく貢献できる分野では、リスクの構造が逆転すると論じる。人工知能の急速な進化を想定していない既存の規制がそのまま残れば、本来であれば早期に届けられるはずの恩恵が遅れてしまう。そうした観点から、米国食品医薬品局や欧州医薬品庁といった規制機関が人工知能時代に即した承認プロセスへ早めに備えるよう求めている。
四つ目は国家権力と個人の自由だ。強力な人工知能が「究極の独裁ツール」になりかねないと警告しつつ、完全自律型兵器への説明責任の仕組みの導入、国内での完全自律型兵器の使用禁止、民間データの一括収集に関する法的抜け穴の閉鎖、そして政府の不利益処分を受けた市民が政府と同等以上の能力を持つ人工知能を利用できる権利の保障といった具体策を示している。
五つ目は民主主義国家によるリーダーシップの確立だ。人工知能は軍事的・経済的な優位性を左右する最大の要因になるとし、民主主義国家が共通の価値観のもとで連携し、関連するサプライチェーンの管理、リスク対応の国際協調、恩恵の共有、相互防衛に一体となって取り組む国際的な連合体の形成を呼びかけている。
アモデイ氏はエッセイの公開と同日に、最先端モデルのテストに関する立法提案と雇用喪失への対応に関する政策枠組みも発表した。アンソロピックはこれらへの財政的な裏付けとして、雇用・経済への影響を研究する「経済未来研究基金」への2億ドルの拠出と、早期キャリア人材を対象とした1億5000万ドル規模のフェローシップ・プログラムの設立を別途公表している。
アンソロピックはこれに先立ち、カリフォルニア州の「フロンティア人工知能透明性法(SB 53)」、ニューヨーク州の「責任ある人工知能安全教育法(RAISE法)」、2026年5月に州議会を通過したイリノイ州の「人工知能安全措置法(SB 315)」の成立を支持・支援してきた。エッセイでは主に米国の政策を論じているが、アモデイ氏は「大半の提言は米国以外にも当てはまる」と明記している。