【議事録詳報】文科省、産学連携の人材育成事業に270億円 「AI for Science」人材育成の加速も議論
文部科学省は6月9日、科学技術・学術審議会人材委員会(第113回)の議事録を公開した。同委員会は2026年2月4日、文部科学省東館および Zoomウェビナーを活用したハイブリッド形式で開催された。令和7年度補正予算および令和8年度予算案の内容とあわせ、3年間で270億円の基金を措置した「産業・科学革新人材事業」の制度設計の方向性について審議した。
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科研費は令和8年度予算案で2,479億円を計上し、前年度比100億円増となる。令和7年度補正予算でも科研費と創発的研究支援事業をあわせて433億円を計上した。国際共同研究を支援する先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)には新たに500億円を積み増すほか、全国の研究大学等を対象に先端的な研究設備・機器の整備・共用・高度化を推進する先端研究基盤刷新事業(EPOCH)にも補正予算で530億円を計上する。博士学生支援については日本学術振興会の特別研究員(DC)の支給単価を引き上げる措置を講じた。
産業・科学革新人材事業は、先端分野における国際競争力の低下、労働人口の減少、大学と企業間の人材流動性の低さ、産学共同研究1件あたりの規模が300万円未満にとどまる状況を背景に設計した事業だ。産学共同での研究開発と人材育成を一体的に推進するため、約20大学を対象に6年間の支援を行う。物理科学・工学、資源・エネルギー、機械・電子、生命科学・化学など5つ程度の領域を設定し、各大学が1つ以上の領域を選択する仕組みとする。
申請要件として、産学間での研究者の双方向雇用と人件費の相互支払い、当該分野における研究者・技術者の量的拡大と教育プログラムの開発、研究開発マネジメント人材や技術職員などの高度専門人材に関する体制整備、共創研究所や寄附講座などを通じた民間投資拡大のための機能整備の4点を、参加大学に対して一体的に実施することを求める。令和8年春をめどに公募を開始し、同年中に支援を開始する見通しだ。
審議では企業出身の委員から批判的な意見が相次いだ。シャープ株式会社社外取締役で内閣府総合科学技術・イノベーション会議非常勤議員の梶原ゆみ子委員は「中央研究所を廃止したことを主な動機として掲げる説明には共感できない。今の企業には科学と社会・技術を横断的につなぐ人材が必要だ」と指摘し、KPIと企業側の負担の考え方を明確にすべきだとした。株式会社日立製作所研究開発グループ技師長の武田志津委員は「産学共同研究のテーマ設定が大学のシーズ起点に偏る傾向がある。企業のニーズを起点に大学側から提案を募る逆方向の設計も必要だ」と述べた。
文部科学省科学技術・学術政策局の奥人材政策課長は「企業から大学への人的資本投資の拡大をKPIの方向性として求めたい。人件費を含む共同研究費の単価引き上げを目指し、インセンティブ設計の具体的な内容を経済産業省との連携も含めて詰めていく」と応じた。
AI人材育成については、名古屋大学総長の杉山直委員が「AIを開発するよりも、各分野のイノベーションを起こすためにAIをどう活用するかが重要だ。令和7年度補正予算で370億円を計上した『AI for Scienceによる科学研究革新プログラム』についても、人材育成の観点から急いで考えていかなければならない」と訴えた。AIに使いこなされる側ではなく使いこなす側の人材をいかに育てるかという問いは、複数の委員に共有された。
委員からは、科学技術政策に人文社会系の視点が欠如しているとの指摘も相次いだ。AI時代において科学技術と社会・哲学をつなぐ教育を初等中等教育段階から組み込む必要性や、ELSI(倫理的・法的・社会的課題)の視点を事業の研究開発計画策定の要件とすべきとの意見が複数の委員から出た。文部科学省科学技術・学術政策局の西條科学技術・学術政策局長は「科学とビジネスの近接が進む一方、社会と科学の距離は広がっている。人文・社会の視点はベースとなるものとして避けては通れない」と述べ、最終まとめに向けて具体的な記述を検討するとした。
今後の科学技術人材政策の方向性については、2025年7月に取りまとめた中間まとめを踏まえ、2026年夏をめどに最終まとめを策定する予定だ。