【議事録詳報】文部科学省、技術職員の人事制度ガイドラインを確定へ 科学技術・学術審議会人材委員会(第114回)
文部科学省は令和8年3月24日、科学技術・学術審議会人材委員会(第114回)を開催した。対面とZoomウェビナーを組み合わせたハイブリッド形式で、150名以上が傍聴した。技術職員の人事制度に関するガイドラインの最終確定、研究活動におけるダイバーシティの確保、産業・科学革新人材事業、科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業の事後評価の4議題を審議した。議事録は2026 年6月9日に文部科学省公式ホームページで公開された。
技術職員ガイドライン、今月中に公表へ
最も時間が割かれたのが、科学技術人材多様化ワーキング・グループが策定を進めてきた「技術職員の人事制度等に関するガイドライン」の確定審議だ。全5章構成で、研究大学等が技術職員を研究室や研究プロジェクトにおける補助的存在ではなく、研究者や研究開発マネジメント人材、事務職員とともに研究開発を推進する高度専門人材と位置づけることを基本方針とする。
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第1章が経営層のリーダーシップとコミットメント、第2章が技術職員の組織的・戦略的マネジメント、第3章が人事制度の構築、第4章が高度専門人材としての育成、第5章が財源確保という構成だ。
人事制度面では、給与設定について、国立大学法人のいわゆる「承継職員」であることが独自の処遇設計を妨げるものではないと明確化し、承継ポストを使わない年俸制による無期雇用も選択肢として示した。キャリアパスは、管理職へ進むマネジメント系統と専門性を深めるスペシャリスト系統の複線化を提示し、民間企業やアカデミアからの中途採用者が上位職に直接採用される道筋も描いた。
財源確保では、競争的研究費の直接経費として期間の定めのない雇用の技術職員の人件費を計上できること、および目的積立金を中期目標期間をまたいで使用できることをガイドラインに明記した。
先行事例として、北海道大学・東京科学大学・信州大学・山口大学の取り組みを収録。北海道大学では副学長を本部長とする全学技術職員組織ITeCHが人事の実質的な一元化を実現し、東京科学大学はリサーチインフラ・マネジメント機構への全学一元化と設備マスタープラン策定への技術職員参画体制を構築している。
委員から職位名称の標準化を求める声相次ぐ
審議では各委員からガイドラインを評価する発言が相次いだ一方、職位名称の統一について複数の委員が問題提起した。
産業技術総合研究所理事・執行役員の宮崎歴委員は、各機関が独自名称をつけることで職位の横断的な通用性が失われる懸念を示し、研究者と同様に流動性を担保できる統一名称の整備を求めた。京都大学大学院情報学研究科教授の湊真一委員は、旧電電公社(NTT)在籍時代に存在した「主任技師」「主幹技師」「技師長」という職階が社会的に尊重されていた経験を挙げ、文部科学省による統一的な職称のブランディングが流動性向上に直結すると提言した。東京科学大学戦略本部教授・理事特別補佐(総合戦略担当)の江端新吾委員は、大学と国立研究開発法人を超えて日本全体の技術者ネットワークで共通して用いられる名称の整備を次の論点として提起した。
株式会社日立製作所研究開発グループ技師長・日立神戸ラボ長の武田志津委員は、AIが論文の読解や執筆まで担えるようになりつつある時代だからこそ、言語化されていないノウハウや暗黙知を持つ技術者の希少性と価値はむしろ高まると指摘し、処遇改善の必要性を強調した。株式会社メタジェン取締役CFOの水口佳紀委員は、技術職員が研究代表者とともに大学発スタートアップの立ち上げメンバーとして参画するキャリアパスの可能性に言及し、事業経験を経て学内に戻る循環型エコシステムの構築を提唱した。
名古屋大学総長の杉山直委員は、直接経費計上のルールと承継職員制度との整合性について文部科学省に確認を求め、ガイドライン中の「二人三脚」という表現が複数の関係者を並列した文脈で使われている点に日本語表現上の不整合があると指摘した。
議論を受け、主査を務める岡山大学副理事・副学長・学術研究院ヘルスシステム統合科学学域教授の狩野光伸委員が修正内容について主査一任の承認を得た。文部科学省は同月中の公表を予定している。
女性研究者の活躍促進、上位職登用が課題
次いで審議されたのが、研究活動におけるダイバーシティの確保(女性研究者の活躍促進)だ。女性研究者の割合は年々増加しているものの国際比較では低水準が続いており、特に助教・講師から准教授・教授への登用段階で割合が低下する傾向が確認されている。令和8年3月13日に閣議決定された第六次男女共同参画基本計画には、助教以上における分野別の女性割合目標が盛り込まれている。
HILO株式会社代表取締役の天野麻穂委員は、ライフイベント期の支援が当事者の女性本人に集中しがちで、バックアップする同僚教員や男性教員へのインセンティブ付与が不足していると指摘した。産業技術総合研究所理事・執行役員の宮崎歴委員は、所内のエンゲージメント調査で40歳前後の女性グループリーダー層のエンゲージメントが全職層中最も低い傾向にあることを明かし、マネジメント業務が増加する時期への組織的支援の設計が急務だと述べた。
名古屋大学総長の杉山直委員は、データ上の上位職における女性割合の低下が採用後の排除を示すものではなく、下位職階での採用増加が上位職に反映されるまでのタイムラグである可能性を指摘し、精査を求めた。東京大学生産技術研究所准教授の川越至桜委員は、「東大のSTELLA」と呼ばれる高校生向けSTEAM教育プログラムでは受講生の半数以上が女子生徒であることに触れ、社会課題の解決を入口として理系に関心を持つ女子生徒の傾向を踏まえた進路指導と、身近なロールモデルの提示の重要性を訴えた。
産業・科学革新人材事業、令和8年4月以降に公募開始
産業・科学革新人材事業は、先端技術分野における産学の人的交流・人材流動の促進を主眼とする新規事業だ。支援対象は20大学程度、1大学当たり年間3億〜5億円を6年間支援する想定で、文部科学省に設置するガバニングボードが先端技術分野を決定したうえで公募を開始する。採択大学は研究開発マネジメント人材や技術職員の新規登用・処遇改善・キャリアパス整備、民間企業との連携強化に資する組織体制の整備などに取り組む。技術職員のガイドラインを含む各種ガイドラインを計画策定に際して参照することが求められる。
大学フェローシップ事業の事後評価、有効性・効率性とも「あり」
令和2年度補正予算から令和6年度まで実施された科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業の事後評価も審議された。支援大学47機関、最大支援学生数は年間約3,000名規模で展開された同事業の成果として、生活費が「足りている」または「おおむね足りている」と回答した学生が6割以上、研究時間が「増えた」または「やや増えた」と回答した学生が8割以上に上った。支援終了後の就職率は81.7%で博士後期課程全体の70%程度を上回り、約48%が国内外の企業や官公庁など多様なキャリアパスへ進んだ。必要性・有効性・効率性の3観点いずれも「あり」と評価され、知見は後継事業のSPRINGに引き継がれている。
閉会にあたり、文部科学省大臣官房審議官(科学技術・学術政策局担当)の福井俊英氏は、ガイドラインの完成後の活用促進と、職称標準化という残課題への継続的な取り組みを表明した。金沢大学長で主査代理を務める和田隆志委員は、技術職員と研究開発マネジメント人材に関する2つの人事制度ガイドラインと研究設備・機器の共用推進ガイドラインの3文書を一体活用することで大学の研究力強化につながると総括した。今後、職位名称の統一に向けた検討が大学・国立研究開発法人を横断する形で具体化されるかが注目される。