アンソロピック、最上位「ミュトスクラス」AIモデル「クロード・フェイブル5」を一般公開

米アンソロピックは2026年6月9日(現地時間)、同社が最上位性能と位置づける「ミュトスクラス」のAIモデル「クロード・フェイブル5」を一般公開した。同時に、一部の安全機能を意図的に外した上位構成モデル「クロード・ミュトス5」を、審査を通過した信頼できるパートナー企業・機関に限定して提供開始した。

アンソロピックは2026年4月、サイバー攻撃から重要なシステムを守る専門企業や重要インフラの事業者を対象とした限定プログラム「プロジェクト・グラスウィング」を通じて、「クロード・ミュトス・プレビュー」を先行リリースしていた。今回の発表は、そのプレビュー版と同等の基盤を持つモデルを、悪用を防ぐ安全機能(セーフガード)を搭載した形で初めて一般ユーザーへ広く開放するものだ。

Code with Claude Tokyo 2026で説明する技術スタッフのシャーメイン・リー氏(写真中央)

教育・知識労働での飛躍的な性能向上

フェイブル5はソフトウェア開発、知識を扱う業務、画像の認識・理解、科学研究など幅広い分野で、これまでのモデルを大きく上回る性能を示している。コーディング(プログラム作成)の評価指標「コグニションのフロンティアコード」では、実際の業務でも使えるレベルの高品質なプログラムを書きながら難易度の高い課題もクリアし、最前線クラスのモデルの中で最も高い得点を記録した。

知識業務の分野でも、金融サービス企業ヘッビアが実施した上級推論の評価「ファイナンス・ベンチマーク」において全モデル中トップの得点を獲得した。文書を読んで推論する力、グラフや表を読み解く力、問題を解決する力のいずれでも大幅な向上が確認されている。金融取引の分析を手がけるIMCも、事実の調査・概念の整理・原因の特定・期待値の分析など取引分析のほぼ全場面でフェイブル5が高い評価を得たと報告した。

長時間・複雑な作業への対応力も注目点のひとつで、タスクが長く複雑になるほど他モデルとの差が広がる傾向があるとアンソロピックは説明している。カードゲームのAIプレイ実験(ゲームタイトル「スレイ・ザ・スパイア」)では、過去の対局記録を記憶・参照できる環境を与えたところ、前世代モデルのクロード・オーパス4.8と比べて3倍の性能向上が確認された。

生命科学・創薬研究への応用も加速

ミュトス5を使った社内検証では、新薬の候補となるタンパク質を設計するプロセスの一部において、従来と比べて約10倍のスピードで作業を進められることが確認された。14種類の標的タンパク質のうち9種類で有力な創薬候補が得られ、免疫の働きを調整する仕組み(免疫チェックポイント)や神経の変性疾患、筋肉の病気に関わる標的が含まれている。なお、評価に用いた未公開の候補タンパク質はバイオ企業のダイノ・セラピューティクスが開発したものだ。

科学的な仮説を自ら生み出す能力にも進展が見られた。前世代のオーパスクラスモデルと専門家が比較した実験では、ミュトス5が提示した分子生物学の仮説を80%以上の割合で専門家が支持した。ゲノム(遺伝情報)の研究分野でも、138種の動物から得た数百万個の細胞のデータを1週間以上にわたってほぼ自律的に収集・解析し、国際的な科学誌「サイエンス」に掲載されたモデルをデータ量100分の1のサイズで上回る機械学習モデルを開発した。

悪用を防ぐ安全設計と教育現場での留意点

性能が高い分、サイバー攻撃や危険な生物・化学物質の製造への悪用リスクも従来モデルより大きくなる。フェイブル5にはそうしたリスクの高いリクエストを自動的に検知する「分類器」が搭載されており、該当するリクエストに対しては前世代モデルのクロード・オーパス4.8が代わりに応答する仕組みになっている。アンソロピックの発表では、この切り替えが実際に起きるのは全利用セッションの5%未満にとどまる見込みとされている。

外部パートナーによる検証では、1,000時間を超える試行においても安全機能を完全に突破する「万能的な脱獄(ジェイルブレイク)」は発見されなかった。英国人工知能安全研究所(UK AISI)が限られたテスト期間内に部分的な突破口を探った事例が報告されており、アンソロピックは引き続き強化を続けるとしている。

なお、生命科学の研究者向けに予定している信頼できるアクセスプログラムでは、生物・化学に関する安全制限を外した形でフェイブル5へのアクセスが提供される。ただし、サイバー攻撃に関わる安全制限は解除されず、そのまま維持される。

価格と今後の提供予定

フェイブル5とミュトス5はともに、100万トークン(AIが処理する文字・データの単位)あたりの利用料金として、入力が約1,600円、出力が約8,000円で提供される(2026年6月10日時点の為替レート、1ドル=160円換算)。これはクロード・ミュトス・プレビューの半額以下にあたる。開発者向けのクロードAPIではモデル文字列「claude-fable-5」で呼び出せる。

一般向けのサブスクリプションプランのうち、プロ・マックス・チーム・シートベース・エンタープライズの各プランでは2026年6月22日まで追加料金なしで利用できる。6月23日以降は別途クレジットの購入が必要になる予定だが、アンソロピックは処理能力が十分に確保でき次第、サブスクリプションの標準機能として再び組み込む意向を示している。

クロード・ミュトス5は現在、プロジェクト・グラスウィングの承認済みパートナーのみが利用できる。近く開始予定の信頼できるアクセスプログラムを通じて、一部の生命科学研究者へのアクセス拡大が予定されている。

高度なAIの性能を安全に広く活用するための新たな枠組みとして注目を集める今回の発表が、教育・研究の現場にどのような変化をもたらすか、今後の動向が注目される。