特集紹介 ChatGPTの登場で働き方や人材育成はどう変わるのか?

昨年末にオープンAIが公開したChatGPTは、その飛躍的な性能の向上が大きな注目を集めた。既に、生成AIの様々な活用が企業などで進んでいる。生成AIの登場で、働き方や人材育成はどう変化するのか。本特集では、有識者や企業の取材を通じて追った。(編集部)

ホワイトカラーやITエンジニア
生成AIのインパクトとは?

2022年末にオープンAIが公開したChatGPTは、その飛躍的な性能の向上が大きな反響を呼んでいる。

既に、文章作成・要約や外国語の翻訳、プログラミング、Chatbot、アイディア出しなど、多くの企業や自治体、教育機関などで、生成AIの様々な活用が進んでおり、企業・産業において生成AIを活用して、様々な業務変革や事業変革も実現可能といった声も聞かれる。

三菱総合研究所デジタル・トランスフォーメーション部門研究理事の比屋根一雄氏は、生成AIのインパクトについて「マイクロソフトのOfficeソフトにも生成AIが搭載され、多くのビジネスパーソンがWordやExcelなど日常業務の中で生成AIを使うようになります。生成AIは、ブルーカラーよりもホワイトカラーの業務により大きな影響を与えていくでしょう」と話す(➡こちらの記事)。

そして、比屋根氏はビジネスパーソンの働き方の変化を指摘する。生成AIにより雑務が大幅に効率化されれば、創造的な仕事に注力しやすくなり、雑務が軽減されることで、組織がスリム化し、中間管理職は不要になっていく。個人の裁量が増えて複数の役割を担えるようになり、いわば「一人チーム」が増えていくと予測する。ChatGPTのサポートを借りれば、ある程度は一人でできるようになる。今後、「一人チーム」や「一人事業」がたくさん存在する企業は、競争力を高められる可能性があると話す。

続いて、ホワイトカラーの他に大きな影響をもたらすと予測されるのがITエンジニアだ。生成AIによるコードの自動生成が現実となっている状況に、ITエンジニアの市場価値や働き化はどう変化するのか。

テクノロジー人材育成プラットフォーム「Track Training」を展開するギブリー取締役の新田章太氏は、ソフトウェア開発においては、AIをパートナーとしてコードを書きソフトウェアを開発する「Code with AI」の時代が到来すると予測する(➡こちらの記事)。“Code with AI”のソフトウェア開発では、自然言語による会話を通じて、AIの精度を上げ、成果物を出力するプロンプトエンジニアリングが主流となっていき、エンジニアが自力で全てコードを書き、プログラムを組む機会は減っていくことが予想されている。

しかしながら、実際のビジネスにおけるシステム開発はそう簡単ではないと新田氏は言う。当然、AIの回答が全て正確というわけではない、システムが複雑になればなるほど正確な回答を得るのは難しくなる。

そのため、ITエンジニアには、AIを活用しながら、「今何がうまくいっていないのか」という課題を構造化したり、言語化する力がより求められると新田氏は指摘する。

生成AIの登場で必要となる学び
生成AIを活用した新たな学び

生成AIが登場したことで人材育成はどう変わるのか。ChatGPTをはじめとした大規模言語モデルの能力を最大限に引き出し、ビジネスで活用するには、自然言語(日本語、英語など)によるプロンプト(指示)の書き方を工夫する必要がある。こうした技術は「プロンプトエンジニアリング」と呼ばれる。

2018年に創業し、企業のAI導入・活用を成功させるサービスの提供をするスキルアップAI。同社が、2023年9月開講予定の「ビジネスパーソンのための対話型生成AI講座」では、業務に役立つプロンプトを書けるようになる、対話型生成AI 全般で使えるプロンプトの技術を学べる、プロンプトエンジニアリングの要点を学べる点が特長だ(➡こちらの記事)。また、10月開講予定の「大規模言語モデル(LLM)利活用講座」では、対話型生成AIの仕組みや使い方から学び、豊富なハンズオンを通じて、大規模言語モデルを組み込んだアプリの開発方法といった実践力まで身につけることを狙い準備を進めている。

続いて、グローバル化が加速する中、ビジネスにおいてグローバル言語である英語を流暢に話すことは、ますます重要なスキルとなっている。一方、「上手く話せない恥ずかしさ」があったり、周囲に話せる人がいないため実践できないなど、スピーキングを学ぶことに敷居が高いと感じる人も多いだろう。

Speakeasy社の開発する「スピーク」は、AIを活用したスピーキングに特化した英語学習アプリ。2018年に韓国からサービスを開始し、日本でも23年2月から本格的にサービスを開始。3月には「App Store」の教育カテゴリで1位となっている(➡こちらの記事)。「OpenAI」とのパートナーシップで、最先端のAI技術とSpeakeasy社が独自に開発した自動音声認識技術を組み合わせ、英語ネイティブと話しているかのような英会話体験をスマホで可能にしている。

また、ビジネスシーンで想定される各種シチュエーションに応じてAIと会話できる「AI講師」は、AI講師がユーザーの発言内容に応じて個別に返答を行うため、実践的なスピーキング練習ができる。

生成AIの登場で、働き方や人材育成の在り方も大きく変わっていくのだろうか。(画像はイメージ)

photo by metamorworks/ Adobe Stock

人事領域ではDXを推進
採用や転職サービスの活用も

ChatGPTが人材育成や働き方に様々な影響を及ぼす一方、人材育成を所掌する人事の仕事はどんな影響をもたらすのか。株式会社ビズリーチが運営する「HRMOS WorkTech研究所」の所長として、AIの研究等に基づいた情報発信も行っている友部博教氏は、誰もが活用できる生成AIは、人事領域のDXを推し進めていく可能性があると話す(➡こちらの記事)。人事領域ではどんな活用があり得るのか。友部氏は、その一例として、ChatGPTは人事部門が有している大量の文章から構造的なデータを取り出すツールになると話す。

例えばChatGPTを使って、文章で書かれた経歴を年表にすることができる。経歴や面談記録など人事にはいろいろ文章が溜まっており、そうしたテキストをChatGPTは構造的なデータへ変換してくれる。また今年7月、ChatGPTに「Code Interpreter」という機能が追加されたことで、この機能を使うと、データアナリティクスや統計学に詳しくなくても、人事データを使った分析が容易に行えると友部氏は話す。

また、採用活動への影響もある。HR事業を展開するグラムは、採用に特化したChatGPTで採用プロセスを10倍効率化できる「採用GAI」や、採用のミスマッチを防ぐ「Jobgram適性検査」などのサービスを提供。人工知能(AI)を活用したサービスで、企業の採用活動をサポートしている(➡こちらの記事)。

今年3月に創業したスタートアップ企業、フォワードはAIを活用した数々の転職サービスを開発・提供。今年7月にリリースした「キャリアフォワード」は生成AIを活用し、LINE上で簡単に適職診断・仕事探しができるチャットボットだ。「そもそも自分にあった仕事や転職先がわからない」といった悩みを抱える転職予備軍へ向けて、AIとのやりとりの中でお薦めの業界や職種を推奨・提案してくれる(➡こちらの記事)。

本特集では、「生成AIが変えた人材育成の実際」をテーマに、生成AIのサービスを提供する企業や有識者などの取材を通じて、今後の働き方の変化や求められる能力、人材育成の変化などを追った。今後の取組みの一助となれば幸いだ。