AI for Science時代の研究データ基盤刷新へ 文科省WG審議まとめ公表

科学技術・学術審議会情報委員会の「AI for Scienceを支える研究データの管理・利活用と流通の在り方ワーキンググループ」(主査・尾上孝雄大阪大学理事・副学長)は2026年7月24日、AI技術を科学研究全体に組み込む「AI for Science」の本格化を見据えた審議まとめを公表した。全国の大学や研究機関をつなぐ通信基盤「SINET」と、国立情報学研究所(NII)が運用する研究データ基盤「NII RDC」を核に、計算資源や認証基盤までも一体で連携させる次世代の情報基盤へ刷新する方向性を打ち出した内容だ。

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AI for Scienceとは、観測や実験、シミュレーションで得られる研究データをAIで解析し、仮説の立案や実験計画の最適化に役立てる取り組みを指す。これまで研究データは研究室や研究者個人の単位で保存されることが多く、分野や機関によって形式や管理方法がまちまちだった。審議まとめは、この状態のままではAIによる分野横断的なデータ活用が進まず、研究の可能性を狭めてしまうと指摘している。

膨張するデータに対応急務

大型実験装置から生まれるデータは、1回の実験だけで数ペタバイトに達する例も出てきた。従来の管理体制では、こうした大容量データの流通や保存に追いつけなくなりつつある。加えて、医療データのように個人情報保護の観点から公開が難しいデータをどう安全に活用するかも、大きな論点として挙がった。

日本の学術研究を支える基盤としては、全国の大学・研究機関を結ぶ超高速ネットワーク「SINET」と、国立情報学研究所(NII)が運用する研究データ基盤「NII RDC(NII Research Data Cloud)」の二つが中核を担ってきた。SINETは全国1000以上の組織、300万人以上の利用者に高速・大容量通信を安定的に提供している。NII RDCは研究データの管理基盤「GakuNin RDM」、公開基盤「JAIRO Cloud」、検索基盤「CiNii Research」の三つで構成され、2021年度から本格運用が始まった。文部科学省のワーキンググループでは、次期SINETについて2028年度からの運用開始を目指す方針も示されている。審議まとめは両基盤の実績を評価する一方、AI時代に求められる機能拡張が急務との認識を示した。

欧米も国家規模でデータ基盤に投資

海外に目を向けると、欧州では国境を越えて研究データを共有できる基盤「EOSC(European Open Science Cloud)」の整備が進む。米国でもエネルギー省(DOE)や国立科学財団(NSF)が主導し、「AmSC(American Science Cloud)」や「NSF ACCESS」といった基盤への投資が進行している。審議まとめは、こうした海外の取り組みに共通する点として、研究データ基盤が単なる保管場所ではなく、流通と利活用を前提に設計・運用されている点を挙げた。

米国はDOEが主導する国家プロジェクト「ジェネシス・ミッション」を通じ、AI for Scienceを国家規模で実装する構想を掲げている。2026年6月4日、文部科学省と経済産業省、米国エネルギー省(DOE)の3者は、ワシントンで意向表明書(Statement of Intent)に署名した。日本はこれにより、同ミッション初の国際パートナーとなった。署名したのは、文部科学省の柿田恭良文部科学審議官、経済産業省の松尾剛彦経済産業審議官、そしてジェネシス・ミッションの実務責任者を務める米国エネルギー省のダリオ・ギル科学担当次官である。3者は、量子情報科学や核融合技術、バイオテクノロジー、重要材料、素粒子物理学、自動実験ラボなど幅広い先端分野での協力拡大を確認した。あわせて、日米それぞれが今後5年間で5億ドル、合計10億ドル規模の戦略的投資を計画することも明らかにした。審議まとめでも、経済安全保障に留意しながら国内の情報基盤を海外のネットワークやデータ基盤と接続できる形に整備する重要性が示されている。

次世代基盤、三本柱で刷新へ

国内外のこうした動きを踏まえ、審議まとめは次世代情報基盤の整備を三つの柱で進めるよう提言した。

一つ目はネットワークの高度化だ。次期SINETでは大容量化・低遅延化・低消費電力化・高信頼化を進め、AI時代の爆発的な通信量増加にも耐えられる構成へ刷新する方針を示した。あわせて、これまで国立大学が中心だったサイバーセキュリティ監視体制「大学間連携に基づく情報セキュリティ体制の基盤構築(NII-SOCS)」を公私立大学にも展開し、学術分野全体の防御力を底上げする考えも盛り込んでいる。

二つ目は研究データ基盤そのものの再構築である。分野ごとに散在するデータベースとの連携を強め、メタデータの整備を進めることで、分野を横断したデータ活用を可能にする狙いがある。さらに、これまで見過ごされてきた失敗データや未整理のデータ、いわゆるダークデータやネガティブデータを新たな学習資源として掘り起こし、AI基盤モデルの構築に生かす方向性も示した。データ同士の関係性を構造化した「知識グラフ」と信頼性の高いAIモデルを組み合わせ、分野の枠を超えた知見の発見を後押しする知識基盤の構築も掲げている。

三つ目は計算資源との接続と認証基盤の強化を指す。研究者や研究機関、研究設備、データ、計算資源を単一IDで安全に結びつける共通認証基盤を整備し、研究者が意識せずシームレスに各資源を利用できる環境を目指す。この認証基盤の高度化は、EOSCなど海外プラットフォームとの連携拡大にもつながるとしている。

文部科学省は2026年3月31日に策定した「AI for Scienceの推進に向けた基本的な戦略方針」において、2026年度から2030年度までの5年間を集中改革期間と位置づけている。審議まとめはこの方針と歩調を合わせ、情報流通基盤、研究データ基盤、計算資源、共通認証基盤をそれぞれ個別にではなく一体的に機能させることで、日本の研究力と国際競争力を高める狙いを明確にした。今後は関係組織が連携しながら、技術動向や研究現場のニーズを踏まえた基盤整備を着実に進めていくことになる。


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