特集1 「骨太の方針2024」で重要課題に 経営力を磨くリスキリング
「骨太の方針2024」では「リ・スキリングの対象に経営者を追加し、2029年までに、約5000人の経営者等の能力構築に取り組む」ことが明記された。経営力を磨くためのリスキリングにおいて、どういった課題があり、どんな教育プログラムなどがあるのか。その現状を追った。(編集部)
2029年までに約5000人
リスキリングに経営者を追加
2022年、政府がリスキリング支援に「5年間で1兆円」を掲げたことでリスキリングへの注目が急速に高まった。日本は、社外学習・自己啓発を行っていない人の割合が約半数に達するが(図1)、リスキリングが「時代のニーズに即して職業上新に求められる能力・スキルを身に付けること」という意味であれば、ビジネスパーソンに限らず、経営者にとっても他人事ではないはずだ。
今年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2024」では、「地域の産学官のプラットフォームを活用したリ・スキリングの対象に経営者を追加し、2029年までに、約5000人の経営者等の能力構築に取り組む。大学と業界が連携して、最先端の知識や戦略的思考を身に付けるリ・スキリングプログラムを創設し、2025年度中に、約3000人が参加することを目指す」ことが明記された。
文部科学省が今年8月に公表した令和7年度概算要求には「リカレント教育エコシステム構築支援事業」(予算額:約25.7億円)が盛り込まれた。こうしたリカレント教育の施策について、文部科学省 総合教育政策局 生涯学習推進課 リカレント教育・民間教育振興室長の西明夫氏に話を伺った(➡こちらの記事)。
また、文科省の令和5年度「地域ニーズに応える産学官連携を通じたリカレント教育プラットフォーム構築支援事業」に採択された信州大学では、同事業の支援を受け、企業内リカレント教育を促進するためのプラットフォーム「円陣」を立ち上げ、「経営者向けリカレントプログラム」を9月から開講した(➡こちらの記事)。
経営者向けリカレントプログラムは「経営者自身がリカレント学習の重要性を認識すること」「経営課題からリカレント学習の必要性を理解すること」「従業員のリカレント学習の推進方法を計画すること」といった3つの要素で構成。2024年度は24年9月から翌年2月まで実施。参加者は比較的若い経営層が多く、女性経営者も参加している。
ベンチャー創出の鍵を握る経営者
技術系経営人材と大学院教育
新規事業によるイノベーションにより企業の持続的な成長が求められる中で、イノベーションの担い手として期待されるのが、社内ベンチャーの創出だ。ベンチャーを含めた数々の企業で経験を積んだ後、大学教員として「コーポレート・アントレプレナーシップ」について研究している中央大学大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール)教授の新藤晴臣氏は「社内ベンチャーの創出において、重要な鍵を握るのがイントラプレナー(社内企業家、経営人材)です」と話す(➡こちらの記事)。そして、「社内ベンチャー創出を活発化するためには、イントラプレナーの選抜・育成が不可欠」だと指摘する。新藤氏には、イントラプレナーに求められる知識・スキルや経営経験など話を伺った。
続いて、技術的なイノベーションを戦略的にマネジメントできるリーダーは、企業においてどのような経験を経ているのかに着目し、「技術系出身」の経営者に焦点を当てた研究を行ってきた西南学院大学教授の工藤秀雄氏は、研究の結果、技術系出身の経営者の経験蓄積の経路として、「キャリアの最初期から顧客や競合企業を意識した製品戦略に取り組んでいたこと」等の傾向が見られたと話す。この他、技術者を経営人材に育成するうえで、大学院教育の可能性などについて話を伺った(➡こちらの記事)。
女性後継者の学びのコミュニティ
経営者に必要なリーダーシップ
「女性」経営者に焦点を当てると、2023年6月、政府は「女性版骨太の方針2023」※において、「2030年までにプライム市場上場企業の女性役員比率を30%以上とすることを目指す」等の数値目標を掲げた。内閣府によれば同市場上場企業の女性役員比率は2023年で13.4%となっている。帝国データバンクが2023年11月に公表した「全国「女性社長」分析調査(2023年)」によると、国内企業の女性社長比率は同年10月時点で過去最高を更新したものの8.3%と低い水準に留まる(図2)。
女性活躍が叫ばれるなか、少しずつではあるが、上場企業の女性役員や、国内企業の女性経営者が増えてきている。一方、男性中心社会の風潮が残る日本企業で、女性後継者が抱える悩みや課題は多い。日本跡取り娘共育協会では、女性後継者を支援する「跡取り娘.com」を運営。様々な課題や壁に悩む女性後継者が悩みを共有する場をつくるとともに、経営者として成長するための教育やメンタル支援を行っている(➡こちらの記事)。
また、日本の中小企業の経営者は、自身もプレイヤーであることが多く、後継者を早くから育成する時間も余裕もないのが実情だ。気づけば事業承継の時期といったケースは多く、“教育されていない後継者が会社を継ぐ”といった大きな問題が目の前にある。こうした中、2024年8月、UnitedVision合同会社は事業承継を包括的にサポートする「BATONEER」をリリースした。オンライン教育と伴走型コンサルティングで包括的に後継者に伴走している(➡こちらの記事)。
そして経営者にとってリーダーシップは必要不可欠な資質・能力だ。「持論」に注目した研究をもとに著書『対話型ダブル・ループ学習―リーダーシップを磨くためのプロセスの探究』を今年3月に上梓した大阪経済大学准教授の戸田信聡氏に「リーダーシップ論の最新の研究成果が示す次世代経営人材が行うべきこと」について寄稿いただいた(➡こちらの記事)。
また、多様なバックグラウンドを持つ社員が増え、ライフスタイルや働き方などの多様化も進む中で、インクルージョンを高める上司行動、「インクルーシブ・リーダーシップ」に注目が集まりつつある。そこで、企業が成果を上げるために、社員に「居場所感」を与えるインクルーシブな組織を作り上げ、「全員戦力化」を図るために経営者がすべきことについて、大手前大学教授・学部長の北村雅昭氏に寄稿いただいた(➡こちらの記事)。
本特集は「経営力を磨くリスキリング」をテーマに、現状の課題、教育プログラムやコミュニティ、最新の知見などを探った。経営者自身の学びや次世代経営者の育成において参考となれば幸いだ。