上司と若手の対立構造ではなく お互いの強みを活かすタッグへ
時代背景によって培われた常識を覆すことは世代に関係なく簡単なことではない。そのなかで上司と若手がジェネレーションギャップによる対立構造にならず、良い関係性をつくりだすためには何が必要なのか。リクルートマネジメントソリューションズ主任研究員の桑原正義氏に話を聞いた。
若手の変化は時代の鏡
時代に対応することが求められる
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ サービス統括部主任研究員の桑原正義氏
リクルートマネジメントソリューションズで2005年から10年間にわたり、コンサルタントとして若手育成を担ってきた桑原氏は、「個をあるがままに生かす」をテーマに掲げ、個と組織の両立を探究し続けてきた。2015年以降は、人材育成の研究開発部門に異動し、現在もトレーニングプログラムの開発などに従事している。
同社は毎年、新入社員を対象とした「新入社員意識調査」を実施している。質問内容は、働いていくうえで大切にしたいこと、仕事・職場生活をするうえでの不安など多岐にわたり、その結果やデータとともに、分析や考察をレポートで公表している。
調査の背景について桑原氏は「企業が若手人材の意識の変化を知ることには大きなメリットがある」と話す。
「若手の変化は時代の鏡です。変化に対応していくことは企業が新しい時代を生き抜くために不可欠で、時代に合わせた組織のアップデートが求められています。特に私が研究開発部署に異動した2015年頃はZ世代が世に出始めた時期で、大きな変化を目の当たりにし、従来と同じ方法では人材育成に限界があると実感しました」
最新の調査結果からは、新入社員の意識の変化が浮き彫りになっている。10年前の調査と比較すると、「お互いに助け合う職場」「個性を尊重する職場」「一人一人に対して丁寧に指導する上司」などを求める割合が大幅に増加した。一方で、「活気がある職場」「お互いに鍛えあう職場」「厳しく指導する上司」などは大きく数値を下げている。
ただ、この変化に迎合して組織を変えることが正解ではないと桑原氏は強調する。
「上位目的は時代の変化に対応し組織を進化させていくことですが、若者の変化に対症療法的に対応しても進化は生まれません。変化の裏に何があるのか、そこに興味を持って掘り下げ、既存の視点や考えにはない進化のための芽を捉え、取り入れていくことが重要です」
上司と若手の間に生まれる
「ギャップ構造」の解決へ
若手の意識変化は、組織マネジメントの変化に直結していることは過去を見れば明らかだ。1990年代前半までは日本経済が成長を続け、集団行動・平等性やトップダウン・競争などによる「管理・統制型」のマネジメントが主流だったが、90年代後半生まれのZ世代が若手である現在は「学習・共創型」へと変化していると桑原氏。
「学習・共創型は、個性・多様性やフラット・共創などを重視します。その実例として大手企業はリバースメンタリングを導入しています。先輩や上司が仕事などを教えるメンターになるのとは逆で、経営幹部や役員クラスが若手から学ぶ制度を取り入れています」
劇的な転換の背景には、企業の成長の鈍化がある。グローバルの市場ではミレニアル世代やZ世代などの若手がマーケットの大半を占めているため、その層の意見をベースに企業の制度や製品・サービスをつくったほうが業績は上がるからだ。時代に合ったマネジメントを整えることにより、若手からは魅力的に映り、採用や定着にも効果が出やすいという。
だが、従来のスタイルを変えることは簡単ではない。変化に取り組む現場のアンケート調査からも問題が起きているケースは多いと桑原氏はいう。
「ギャップ構造があることがわかります。上司は管理・統制型、若手は学習・共創型と、双方にとって常識が異なり、ジェネレーションや価値観にギャップがあるため、世代間の分断が起こっているのです。それゆえにコミュニケーションがうまくいかないことがよくあります。その結果として、対立構造が生まれ、若手のメンタル不調や早期離職などが起こり、組織の停滞へつながるリスクがあるのです」
ギャップ構造により組織の変革が進まないときに考えるべきポイントについて、桑原氏は「多様性(DEI)の生かし方」にあるという。
「多様性のなかで最も注目したいのはエクイティ(公平)です。今の時代は人に同じことを求めるのは限界があるため、個々の特徴を踏まえ、その人にとって効果的な方法を探ること。つまり、選択肢を増やすことですね。従来の方法や考え方も選択肢の1つなので捨てる必要はありません。ただ、それを押し付けないことが大切です」
社会的背景から伝え
双方をつなぐ仲人を立てる
多様性を組織にインストールするためには、ハウ(手法)から入らずに、現在の状況が生まれている背景を伝えることが効果的と桑原氏は話す。
「若手が変化していると考えがちですが、それは違います。実際は社会の変化です。社会が変化したから若手が変わっていることがギャップ構造の本質です。じつは若手も上司と同様に悩んでいて、決して分断は望んでおらず、関係性を良くしたい、成長したいと思っているわけです」
背景から紐解いていくと、対立構造ではなく、同じ目的へと進む「タッグ」「仲間」という視点が芽生える。
「上司と若手はその時代背景から、お互いにもっていないものをもっています。それは共創という観点からすれば、お互いの強みを組み合わせれば、より強固なチームになれるということ。協力すれば今までにない商品やサービスをつくりだすこともできます」
ただ、実際の現場では対話やコミュニケーションが生まれていないからこそ、この問題が起きている。そのときは「仲人」が間に立つことで双方をつなぐ橋がかかるという。
「私が社内で実際に行なったのはギャップを埋めるためのセッションイベントです。シニア世代、ミレニアル世代、Z世代が集まり、それぞれが自分たちのトリセツ(取扱説明書)を書いて、お互いに自分たちの特徴を伝え合います。自分のことを知ってもらうためには相手のことも受け止めること。それによって相互理解が深まっていくのです」
相互理解を深めることが、桑原氏が探究する「個と組織の両立」へつながり、若手人材が個性を失うことなく、のびのびと働く職場を実現するヒントになるという。
「個と組織の両立のために外してはいけないポイントは、リスペクトの気持ちです。それがベースにあることが大切で、相手の違いに興味を持ってちゃんと聞いてみること。そうするとリスペクトできるものがきっと見つかります。リスペクトがあると、エクイティも自然に生まれやすくなります」
