【議事録詳報】家庭科の次期学習指導要領、デジタル基盤と金融・消費者教育の体系化焦点に

文部科学省は2026年4月17日、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会の家庭ワーキンググループ第6回会合を、対面とWEB会議を組み合わせた形式で開催した。議事録を6月29日に公開した。次期学習指導要領の改訂に向けた論点整理が大詰めを迎えるなか、本会合では「デジタル学習基盤を活用した学習の充実」「評価の在り方」「系統性・体系性の整理」の三点が議題に据えられ、現場実践の報告と制度設計の議論が並行して進んだ。主査は横浜国立大学の杉山久仁子教授が務めた。

端末を「学習基盤」に位置付け、AI時代の実体験との調和を重視

冒頭の議題では、石川県能美市立寺井中学校長の亀田香利委員が、GIGAスクール構想の開始から5年あまりを経た現場の実態を報告した。亀田委員によれば、能美市では小学校1年生の夏から秋にかけてローマ字入力に取り組む児童が現れており、家庭科でも住居領域における家具配置の検討にスライドとアンケートフォームを組み合わせ、震災動画の視聴を通じて安全とはどのような状態かなど考える授業展開が定着しつつある。エプロン製作では教師が作成した手順動画をクラウド上に置き、児童生徒が必要なときに繰り返し再生して確認する学びの個別最適化が進んでいるという。

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そのうえで亀田委員は、生成AIの精度向上を踏まえ、本立てのアイデア出しや整理整頓のシミュレーション、幼児との関わりを想定したロールプレイなど、家庭科ならではのAI活用の方向性を提示した。一方で、ミシン製作の事例でも教卓には実物のサンプルを残し、布を裏返して確かめる学習を併用していると説明し、AI時代だからこそ実践的・体験的な活動とデジタルの調和が際立つと強調した。

学校教育課の嶋田学校教育官は、論点整理を踏まえて1人1台端末を問題解決的な学習の基盤として位置付け、学習指導要領の見直しを行う方向性を示した。具体例として、調理や製作の様子を動画撮影して分析する活動、画像を用いた実践前後の比較、3Dによる住居の間取り計画などを挙げた。AI活用については、最終的に生徒が自ら考え判断し、成果物を自らの言葉で説明し、自らの責任を持つという原則を貫く考えを述べた。

議論では、デジタル教材の質をどう担保するかが共通の関心となった。滋賀大学教育学部教授の田中宏子委員は、中学校住生活領域でVR映像を作成した経験から、学習の狙いに合致した教材作成には技術者と教員の連携体制が不可欠だと指摘した。また、日本女子大学家政学部被服学科准教授の西𠩤直枝委員は、布を裏返したり触ったりする実感を伴う理解の重要性に言及した。

埼玉大学教育学部長、埼玉大学大学院教育学研究科長の吉川はる奈委員は保育・発達の専門的立場から、子どもと手をつないで温度や皮膚感覚を確かめる経験はデジタルでは代替できないと述べた。大分大学教育学部准教授の都甲由紀子委員は、製作の授業で既存の動画教材を視聴して終わるのではなく、児童生徒が下級生向けに動画教材を作成するといった主体的な活用に踏み込むべきだと提案した。

「学びに向かう力」評価、教科ごとに「見取る姿」を提示

第二の議題では、評価の在り方が取り上げられた。2025年9月の論点整理を受け、「学びに向かう力・人間性等」については教育課程全体を通じた個人内評価を基本としつつ、思考・判断・表現の観点別評価のなかで具体的に見取れる要素が顕著に表出した場合に「〇」を付記する方向で検討が進められている。

教育課程企画室長の栗山氏は、評価の段階をABCから〇の有無に変えるだけでは形式的な評価材料集めから脱却できないとの問題意識を示したうえで、各教科ごとに「見取る姿」を示すことで妥当性と信頼性を確保する考え方を説明した。家庭科については、初発の思考や行動・好奇心、学びの主体的な調整、対話や協働という三要素に沿った見取る姿のイメージが事務局から提示された。詳細は学習指導要領改訂後に詰めることになるが、目標の文言を精査する段階で評価のイメージを先行して議論する必要があるとの判断から、現時点の試案として共有された。

委員からは、より積極的・探究的なニュアンスを表現に盛り込むよう求める田中委員の意見、技術科で重視されてきた「試行錯誤」の語を家庭科にも加味してはどうかという亀田委員の提案、評定への影響が現場に伝わる表現を求める村上委員の声などが寄せられた。

金融経済教育と消費者教育を家庭科の柱に据える方向

第三の議題、系統性・体系性の整理では、金融経済教育推進機構(J-FLEC)理事の大友佳子委員と、公益財団法人消費者教育支援センター専務理事の鈴木基代委員が相次いで発表した。J-FLECは「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」に基づき2024年4月に設立された金融庁所管の認可法人で、同年8月から講師派遣などの事業を本格化させている。消費者教育支援センターは1990年に設立され、2012年に公益財団法人へ移行した、消費者教育の専門機関である。

大友委員は、成年年齢の引き下げ、インフレ局面への転換、転職や副業を含むキャリアの多様化を背景に、金融リテラシーの必要性が一段と高まっていると指摘した。J-FLECが18歳から79歳の3万人を対象に実施した金融リテラシー調査では、これまでに金融経済教育を受けた認識のある人の割合は8.7%にとどまる一方、学校で金融経済教育を行うべきとの回答は約7割に達した。金融広報中央委員会が高校1年生3千人を対象に実施したいわゆる「15歳調査」でも、学校の授業でお金のことを教えてほしいとする回答が約8割を占めるという。大友委員は、金融庁の金融経済教育研究会が2013年に示した4分野15項目の「最低限身に付けるべき金融リテラシー」と、それを年齢層別に体系化した金融リテラシー・マップを学習指導要領と整合させる必要性を強調し、小学校でのニーズとウォンツの導入、中学校での貯蓄や資産形成、高等学校でのNISAやiDeCoを含む制度理解へと段階的に深める案を提示した。

鈴木委員は、消費者教育の推進に関する法律(2012年8月公布・同年12月施行)第2条で消費者教育が「消費者の自立を支援するための教育及び啓発」と位置付けられていることを踏まえ、合理的判断による被害回避と、社会の一員として市場や社会づくりに関わる態度の双方を育てる必要があると述べた。生命保険文化センターと消費者教育支援センターが共同で実施した高校生の消費生活と生活設計に関するアンケート調査では、何をするにもお金は大切と答えた生徒が9割に上る一方、お金の管理をしていない生徒が約45%、自分が行動しても社会は変わらないと考える生徒も40%を超えるという結果が示された。鈴木委員は、消費者教育の体系イメージマップを家庭科の領域整理に重ね合わせ、生活の管理と契約を小中高で段階的に深める構造とすること、家庭生活と環境の項目を消費者市民社会の構築に位置付け直すことを提案した。

事務局は、これらの議論を踏まえた内容等の在り方として、少子高齢化社会を踏まえた家族・家庭、生涯を見通した生活設計、デジタル化時代の消費者教育、社会変化と生活文化継承を踏まえた衣食住、全体の精選という五つの観点を提示した。領域名についても、Aを「家族・家庭と生涯発達(仮称)」、Bを「生活の経営と消費生活(仮称)」、Fを「総合生活実践(仮称)」へと改める案が示された。

委員からは、B領域が家族から衣食住の生活デザインへつなぐ要に位置するという茨城大学教職大学院教育学研究科教授、茨城大学教育学野教授の石島恵美子委員の整理、衣生活で小学校を「生活に役立つ」、中学校を「生活を豊かにする」と書き分ける案について児童生徒に違いが伝わる表現を求める西東京市立田無第三中学校校長、全日本中学校技術・家庭科研究会副会長の大久保順子委員、文京区立青柳小学校校長、全国小学校家庭科教育研究会副会長の村上律子委員、都甲委員、西𠩤委員らの意見、高齢者との関わりだけでなく幼い子どもとの関わりも明記すべきとする吉川委員の指摘、F領域の名称変更により探究との混同が解消されたとする東京学芸大学教育学部教授の渡瀬典子委員の評価などが出された。A領域とE領域の間にある「家庭」「住まい」「地域」「住環境」といった概念の重なりをどう整理するかという田中委員の問題提起も、次回以降に持ち越された。

今後の焦点

杉山主査は、F領域の具体的な学習例や、ガイダンスを担う領域の順序整理は次回までに示す方針を述べ、衣生活の文言調整を含め委員からの追加意見を求めた。次期学習指導要領における家庭科は、デジタル基盤を前提とした学習設計と、金融教育・消費者教育を含む生活経営の体系化という二つの軸が交差する地点にある。実践と評価、社会変化への応答と生活文化の継承をどう両立させるか、改訂作業の正念場が続く。