【議事録詳報・後編】合格率11%台の壁どう破るか IPD始動と試験制度の抜本的見直し論
文部科学省の科学技術・学術審議会 技術士分科会の第53回会合(2026年5月26日開催)では、公益社団法人日本技術士会(以下、日本技術士会)によるIPD(初期専門能力開発)事業の進捗報告に続き、第二次試験の合格率低下をめぐる踏み込んだ議論が交わされた。前編では2025年度試験の結果と技術士資格の認知度調査の内容を報告した。
IPD事業始動 年内200名の登録目指す
日本技術士会 専務理事の眞先正人氏は、2026年3月25日に修習技術者を対象としたIPD(初期専門能力開発)事業のスモールスタートを実施したと報告した。IPDとは、高等教育機関を卒業した技術者が技術士として求められる資質・能力を習得するまでの初期的な専門能力開発の仕組みを指す。登録状況の詳細については同会 研修委員会委員長の松山正弘氏が説明し、2026年5月14日時点のアカウント登録申請者は93名で、内訳は準会員73名・非会員20名であり、14の技術部門から参加者が集まっていることを明らかにした。準会員の登録手数料は無料で、年内200名の登録を目標に掲げている。
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当初は若年層が中心になると想定されていたが、50代・60代・70代の登録者も一定数おり、想定よりも幅広い年代からの関心が寄せられている。秋口までに非会員向けの行事申込機能やeラーニング機能の整備を計画しており、利便性の向上を図る。関係省庁への説明や、2025年度第一次試験の全合格者5,754名へのチラシ配布など周知活動も進めており、眞先氏は今後のJABEE(一般社団法人日本技術者教育認定機構)の認定校との連携強化も視野に入れていると述べた。
継続研さん(CPD)活動実績の登録申請者については、正会員の申請者が3,208名と正会員総数の20%をわずかに超えた段階にある。農業部門での申請率が高い背景には、2023年度から土地改良事業のコンサルタント業務の技術提案書評価基準において、管理技術者の評価点に「技術士(CPD認定)」の認定者が加点評価の対象となったことがある。制度的なインセンティブが活用促進に直結することを示す事例として紹介された。
情報教員不足の解消へ 技術士資格が新たな入口に
2026年度から高等学校「情報」教員資格認定試験の受験資格に、平成31年度以降に実施された技術士第二次試験(情報工学部門または総合技術監理部門「情報工学」)の合格者が加わったことが共有された。日本技術士会からの提案が実現したもので、情報教員の人材不足という社会的ニーズと技術士資格の活用促進がかみ合った形で制度化が迅速に進んだと説明された。情報工学分野の技術士資格がこれまで他の資格と並んで受験資格に明示されてこなかった状況を踏まえ、門戸を広げることで技術士資格の認知度向上にもつながると期待されている。
また、令和8年度(2026年度)の第一次試験は試験地が従来の12都道府県から5か所増えて17都道府県となり、試験日は2026年11月22日が予定されている。受験手数料の改定に伴う利便性向上策の一環として、受験機会の地理的な拡充が図られた。
二次試験の合格率11%台続く 制度の根本議論へ
今回の分科会で最も議論が集中したのが、第二次試験の合格率低下をめぐる問題だった。近年、合格率は11%前後で推移しており、寺井和弘分科会長代理や一般財団法人 沿岸技術研究センター特別研究監の栗山善昭委員から、合格率の目標水準を部門別・年代別のデータ分析に基づいて設定したうえで試験の在り方を検討すべきとの指摘があった。部門ごとに受験者層や業界環境が大きく異なるため、全部門の平均値だけで議論を進めることへの懸念も示された。
手書きからワードプロセッサへの移行を軸とした試験のオンライン化についても意見が出た。現在の業務環境では報告書や設計資料をワードプロセッサで作成するのが一般的であり、手書きという試験形式がそれ自体でハードルになっているとの指摘は以前からある。首都高メンテナンス西東京株式会社常務執行役員の三村啓子委員から、オンライン化によって受験者が限られた試験時間内で内容の推敲に集中できるようになれば合格率の改善につながる可能性があるとの意見が出た。一方で、デジタル機器を通じたAIの回答代行という新たなリスクをどう防ぐかという問題も避けられず、その対策に労力を費やすことへの懸念も示された。
より根本的な視点からは、筆記試験と口頭試験だけでプロフェッショナル・コンピテンシー(技術士に求められる資質能力)の習熟度を見極めることができるのかという疑問も呈された。寺井分科会長代理は、将来的にはIPD支援者が修習技術者に伴走しながら到達度を直接評価する仕組みを構築する方向性も選択肢として挙げ、試験制度の根本的な在り方が問われる局面を迎えつつあるという認識を示した。
早稲田大学 グリーンコンピューティング・システム機構招聘研究員の松井知子委員からは、AI・情報工学分野では技術の変化サイクルが非常に速いため、技術士の専門性と社会的責任を継続的に整理・発信することが資格の認知度向上と活用促進の双方に欠かせないとの意見も出た。AI活用に伴うトラブルや責任の所在をめぐる問題が社会的に増える中で、技術士が弁護士など他の専門職と連携して価値を発揮できる領域が広がっているとの見方も示された。試験制度の設計、IPD・CPDの充実、資格活用の制度的後押しという三つの課題をどう同時に前進させるか、次回以降の分科会で引き続き議論が行われる見通しだ。