【文科省議事録詳報】AI研究データ基盤を刷新、計算資源10倍へ

文部科学省は2026年7月24日、科学技術・学術審議会情報委員会「AI for Scienceを支える研究データの管理・利活用と流通の在り方ワーキンググループ」第6回会合の議事録を公開した。同ワーキンググループは2025年10月に設置され、同年12月の初会合から半年余りをかけて審議を重ねてきており、6月16日に開いた今回の第6回会合が全6回の最終回となった。

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今回は、AIを活用した科学研究「AI for Science」を支える次世代の情報基盤について、報告書案「審議まとめ」を集中的に討議した。主査は尾上孝雄氏(大阪大学理事・副学長)が務める。取りまとめの内容は7月末に開催が予定されている情報委員会で報告され、2027年度予算の概算要求にも反映される見通しだ。

研究データ基盤を刷新へ

AIを使った研究を広げるには、データをためるだけでなく、AIが解析や再利用に使える形へ整える作業が欠かせない。文科省が示した報告書案は、この課題に対して三つの方向性を打ち出した。ネットワーク網の高度化、研究データを一元的に扱う新しい基盤の構築、スーパーコンピュータなどの計算資源と認証の仕組みの一体化である。

研究データ基盤の中核を担うのは、国立情報学研究所が運用する研究データ基盤システム「NII RDC」だ。オープンサイエンスや、研究データを公正に管理・共有すべきだとする国際的な原則「FAIR原則」の広がりを背景に、これまで研究者ごとにデータを個別に管理してきた運用を、組織的な管理へと段階的に移行させる。あわせて、分野ごとに積み上げられてきたデータベースをAIが扱いやすい形式に整え、分野を横断してデータを利用できる「研究データ空間」を確立する方針を掲げた。報告書案では、これまで公開されてこなかった実験の失敗データや否定的な結果(ダークデータ・ネガティブデータ)も、AIの学習に使える資源として活用していく必要性にも触れている。さらに、蓄積したデータを構造化し、信頼性の高い体系的な知識としてまとめる「知識グラフ」を構築し、透明性のあるAIモデルと組み合わせた知識基盤を整える方向性も示された。

分野ごとの課題も浮き彫りに

これまでの審議では、分野ごとに事情が異なることも浮き彫りになっている。ライフサイエンス分野では、データ登録に倫理審査やキュレーションといった人手を要する作業が欠かせず、現場の負担が大きいことが課題として挙がった。分散したデータベースを後から統合するのではなく、ナショナルセンターによる集約型のインフラへ移行する方向性が検討されている。マテリアル分野では、データが存在していても実際の活用には至っていない実態が指摘され、検索・閲覧型の提供から、AIの学習用データセットとして提供する形への転換が求められた。大型実験施設のSPring-8では、データが装置や施設、計算基盤に分散していて使い勝手が悪く、実験中にその場でデータを解析できる仕組みの整備が必要だとされた。地球環境分野のデータ統合・解析システム「DIAS」については、データの活用が検索や閲覧にとどまっており、データからレポート作成までを一体的に支援する生成AI基盤への期待が示されている。

海外勢の先行事例が刺激に

国立情報学研究所が調査した海外の状況も、審議の参考材料になった。欧州では、国や機関、分野ごとに分散した研究データを、分散させたまま統合的に利用できる仕組み(フェデレーション型)を構築している。米国では、大学のスーパーコンピュータと商用クラウドを組み合わせたハイブリッド型の基盤整備が進む。韓国は、実データそのものを一か所に集めるのではなく、データの所在や中身を示す「メタデータ」だけを連携させる軽量な仕組みを採っている。日本は、研究データ基盤NII RDCや学術情報ネットワークSINET、スーパーコンピュータ「富岳」など、世界的にも有数の情報基盤をすでに保有している一方、これらを組織や分野の垣根を越えて一体的に活用できていない点が課題として共有された。

計算資源10倍へ動き出す

研究データの基盤整備と並行して、スーパーコンピュータなどの計算資源の見直しも大きな論点となった。富岳を含む全国14拠点のスーパーコンピュータで構成される共用計算基盤「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)」については、文科省が2030年度までにAI for Science向けの共用計算資源を現在の10倍以上へ拡大する目標を掲げている。単にGPUの台数を増やすだけでなく、複雑な手続きなしにすぐ使える「アクセス性」、複数の計算機を一つの大きなプールのように使える「共用性」、待ち時間なく利用できる「迅速性」の三点を同時に高める考えだ。整備は2025年、2027年、2029年の三段階に分けて進め、共通のバウチャー制度や課金の仕組み、利用者に応じて計算資源を自動で割り当てる「リソースブローカー」なども順次導入していく方針である。

富岳の後継機として理化学研究所が開発を進める「富岳NEXT」は、合計ノード数3,400以上を計画しており、2030年頃の稼働を目指している。会合では、GPU中心の構成になることで従来型のノード数自体は減る可能性があり、AI向けの処理能力は飛躍的に高まる一方で、利用者から見た「順番待ち」が生じないよう、運用ルールの設計を慎重に進める必要があるとの指摘も出た。

認証と課金の仕組みも一新

これまで計算機ごとに個別のアカウントが必要だった認証の仕組みも見直しの対象になる。合田憲人氏(国立情報学研究所副所長・教授)らが中心となって検討を進めており、今後は学術認証フェデレーション「学認」のIDを起点に、必要な計算機やデータ、サービスへのアクセス権を自動的に付与する仕組みを目指す。利用料の支払い方法についても、あらかじめ利用枠を購入する前払い方式ではなく、複数の計算資源を柔軟に使った分だけ後から請求する後払い方式への転換を検討している。

具体的な利用形態を巡っては、九州大学情報基盤センターの事例が紹介された。同大学のスーパーコンピュータ「玄界」で常時稼働するオープンウェイト型のAIモデルと、ChatGPTやClaude、Geminiといった商用クラウドのAIモデルを、共通のインターフェースを介して使い分ける仕組みである。機密性の高いデータは学内で完結するオープンウェイトモデルで処理し、汎用的な処理には商用モデルを活用することで、利用料を一元的に管理しながら双方の利点を生かす狙いがある。

委員から相次いだ注文

審議では、報告書案に対して委員から具体的な注文が相次いだ。若目田光生氏(株式会社日本総合研究所創発戦略センターシニアスペシャリスト)は、報告書に描かれたイメージ図が実現する時期や、具体的にどの分野とどの分野が連携するのかを明示してほしいと求めた。主査代理を務める江村克己氏(福島国際研究教育機構理事)は、分野を超えた連携は仕組みを整えるだけでは生まれず、人材の育成や、そもそも何を研究すべきかという上位の議論を交わせる場が必要だと指摘した。

吉田亮氏(情報・システム研究機構統計数理研究所副所長)は、データを蓄積してもそれがAIの学習に本当に活用できるかどうかは分野によって差があると述べ、材料分野の経験を踏まえつつ、データ活用の方向性を示す司令塔的な存在の必要性を訴えた。矢守恭子氏(朝日大学情報教育研究センター長)は、データを入力する段階で研究者が迷わないよう、分野ごとのデータマネジメントプランやデータ形式のガイドラインを示してほしいと要望した。

石田栄美氏(九州大学データ駆動イノベーション推進本部教授)は、報告書のイメージ図が分野別のデータベースを中心に描かれているため、大学が果たす役割が見えにくくなっていると指摘し、関係者がゴールイメージを共有できる工夫を求めた。千葉滋氏(東京大学情報基盤センター長)は、ハードウエアへの投資に比べてソフトウエアへの投資が不足していると指摘し、大学は予算の制約からオープンソースのソフトウエアに頼らざるを得ない実態があると説明した。あわせて、「HPC」と「計算基盤」という用語が並立している現状を整理し、学術向けの計算基盤はすべてHPCと呼んだうえで規模を拡大すべきだとの考えも示した。

工藤郁子氏(大阪大学社会技術共創研究センター特任准教授)は、報告書本文が研究データだけでなく研究プロセスの変革にも踏み込んでいる点を評価する一方、概要版では人材育成やソフトウエア、運用体制に関する記述が薄いことを課題として挙げた。宮田なつき氏(産業技術総合研究所人工知能研究センター研究チーム長)は、報告書のイメージ図が仕組みのつながりを示すにとどまり、研究者がどのように支援されるのかが見えにくいと述べ、各分野のデータベースが実態としてどこまで分断されているのかについても疑問を投げかけた。

7月末に情報委員会へ報告

会合の終盤、淵上孝氏(研究振興局長)は、研究データの扱いは世界各国が重視する課題だと述べた。5月に韓国を訪れた際、同国が法整備を通じて研究データの取り扱いを定めようとしている状況を目の当たりにしたと紹介し、研究データそのものの重要性が世界的に高まっていると強調した。あわせて、文部科学省と経済産業省は2026年6月4日(米国東部時間)、米エネルギー省との間で、日本のAI for Scienceの取り組みと米国の国家プロジェクト「ジェネシス・ミッション」を連携させる日米戦略的パートナーシップを発表しており、日米両国はそれぞれ今後5年間で5億ドル、合計10億ドルの投資を計画していることも紹介した。

淵上孝氏は、こうした国際的な位置づけも踏まえ、2027年度予算の概算要求に向けて今回の取りまとめの方向性を政策に反映させていく考えを示した。尾上孝雄氏は、当日出た意見を自身と事務局で最終調整したうえで、書面で委員に確認してもらう方針だ。取りまとめられた審議まとめは、7月末に開催が予定されている情報委員会で報告される見通しである。


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