「どこでも受験」が未来を拓く──DET×クラクモが描く新しい英語学習のかたち
海外留学を目指す学生にとって避けて通れない英語検定試験。しかし現状では、地方在住者が都心部の試験会場まで足を運ぶ負担や、読み書き中心のインプット偏重教育による実践的コミュニケーション能力不足などの課題が存在している。近年注目を集めるDuolingo English Test(DET)は、「いつでもどこでも受験可能」な英語試験であり、既にアメリカの有名大学では入試に利用されている。このDETの対策アプリを通じて、学習者の英語力向上に貢献しているのがクラクモ株式会社だ。代表取締役の岡島幹氏は製造業からコンサルティング業界を経て、教育IT分野に転身した異色の経歴を持つ。同社が描く、英語教育改革の展望について話を伺った。
日本の英語教育の新たな形に挑戦する、クラクモ株式会社・代表取締役の岡島幹氏
立ちはだかる「場所」「時間」の課題
新たな英語試験の形の必要性
夕暮れ時の地方都市で、一人の高校生が電車に揺られている。目指すは県庁所在地のテストセンター。英語検定試験を受ける為に、片道二時間をかけて向かう姿がある。これが現代日本の英語教育におけるひとつの現実だ。「私自身田舎の出身ですが、英語試験の際は、遠くのテストセンターに行って、受験して帰ってくる必要がありました。これは田舎に住んでいると、ロケーション的な厳しさがあります」とクラクモ株式会社の代表取締役・岡島幹氏は語る。高校・大学受験の為、英語試験で一定のスコアを目指す学生は少なくないが、地理的な格差は小さくない課題だ。加えて一般的な英語試験には、日時の制約も存在する。数か月前から、受験の予約を取り、指定された時間に受験し、試験結果の通知が一か月後になる事も珍しくない。只でさえ、英語に接する機会が少ない、日本という環境において、こうした不便さは、受験者のモチベーションを奪う一因になっている。
そんな不便さの問題を解消しうる英語試験の一つが、Duolingo English Test(以下、DET)である。他の一般的な英語試験と遜色なく、DETでは、4技能の試験を、「いつでも、どこでも」受験する事が出来る。クラクモ株式会社・代表取締役の岡島氏は、製造業界やコンサルティング業界で働きながら、アメリカでのMBAの取得を検討していた時、このDETに出会った。「各大学の英語の認定試験一覧というものがあるのですが、そこにDETが当時の要件としてあり、調べたら非常にやりやすいなと気付きました。特に働いている自分からしたら、いつでもどこでも受けられるし安いということで、チャレンジし始めたのがきっかけです」とDETとの出会いを語る。
利便性に長けるDETの英語試験。携帯でもパソコンでも受ける事が出来る
取材を行った同社オフィス
DETの特性に合わせた英語学習
根幹となる英語の「瞬発力」の重要性
利便性を謳うDETだが、新規サービスならではの課題があった。「対策が特に難しかったです。当時は、日本語の資料すらも見つからない状況から始まったので、結局、他の英語試験の対策本や海外のアプリで対策しました。試行錯誤しながらスコアを取ったので、橋渡しを出来るアプリがあればいいなと思い、開発に至りました」と当時の状況を語る。元々MBAを取る予定だったが、勉強中にDETの課題を発見した事で、起業を決意し現在のサービスを作り上げた。
そんな岡島氏が英語学習のサービスを作る上で、一つ重要なポイントとして挙げたのが、「量」の重要性である。「日本語、つまり自分の言語でそもそも考えられないものを、英語で考えることは出来ないと思っています。その為に、私としては量をこなすのが、一つの対策として考えられるかなと。がむしゃらにやるという意味ではなく、普遍的なトピックに対して、自分の意見を述べられるように対策をしておこう、という意味合いです」(岡島氏)。日本の英語教育において、インプット・アウトプット両面で量の少なさを指摘される事は多いが、同社は対策アプリを通じてそうした課題に向き合っている。
また岡島氏によれば、DETには他の英語試験と違った特性がある。例として、岡島氏は偽単語の正誤判定や90秒でのスピーキングなどの出題を挙げたが、いずれの問題にも解答を瞬時に引き出す英語の「瞬発力」が要求される。同社のアプリ内の問題は、そうした特殊なDETに対応した仕様になっている。実際、同社がユーザーを対象に行った90日間の利用調査では、リーディングやリスニングに加えて、特にライティング領域で顕著なスコアアップが見られたという。この点に関しては単語暗記やリーディング能力向上を謳う類似サービスとは、一線を画していると言える。一方、現状の同社の対策アプリでは、スピーキング領域のAI機能には課題があるが、今後、採点機能の充実などで強化していくという。
利便性向上だけでない、新たな「英語試験」の在り方
大学との連携で、国内外の学生を惹きつける
新規サービスのDETには、もう一つ大きな課題がある。それが資格試験としての実用性だ。例えば、文部科学省が作成しているCEFR(セファール:英語技能のレベルを6段階で表したもの)の比較表では、DETは含められておらず、大学入学試験などでの導入が遅れている現状が見える。大学の試験で使えない、となると、必然的に他の試験を通じて英語を勉強する機会が増える。岡島氏によれば、既存の公認試験の中には、アウトプットを含んだ「真の英語力」が身に付きにくい試験もあり、DETの導入を通じて日本の英語力の課題に向き合う同社にとっては歯痒いものがある。
そうした導入の課題がある一方で、DETの導入には単に優れた英語学習手段が増えるというだけに留まらないメリットがある。一つが、留学先としての魅力を高める事が出来る点だ。DET発祥の地であるアメリカでは、多くの大学がすでにDETを導入しているが、他の地域では大学試験での導入はまだ限られている。そうした中で、日本の大学がDETを取り入れ海外の学生に対して新たな選択肢を提示出来れば、中長期的に双方にメリットをもたらす可能性は大きい。「特にアジア圏の学生が日本に来て勉強したい人が多いです。そうした学生に対して、DETで日本の大学に行けるという選択肢があれば、留学生が欲しい大学に対しても一つのソリューションになりうると思います」と岡島氏は語る。少子化が進む日本において、DETは貴重な突破口の一つかもしれない。英語対策アプリを通じて、学びやすさや英語学習の効果、そして日本の未来に向き合うクラクモ株式会社。岡島氏の言葉からは、これからの日本の英語教育に変革の兆しが感じられた。