【文科省議事録詳報】産業教育ワーキング(第7回)、専門高校の科目を教科の壁越えて組み替え可能に 評価は実習重視の「○」方式へ
文部科学省は2026年7月21日、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会に設置された産業教育ワーキンググループ第7回会合(2026年5月11日開催)の議事録を公開した。主査を務める牧野光朗氏(追手門学院大学地域創造学部教授)のもと、専門高校における教育課程の柔軟化と学習評価の見直しという二つのテーマについて、委員から実務に即した意見が相次いだ。会合の冒頭には、2026年4月1日付で高等学校振興課長に就任した寺島史朗氏が挨拶に立ち、高校教育改革が加速する中で産業教育の在り方に注目と期待が集まっていると述べた。
専門高校にも科目組み替えを解禁
会議ではまず、文部科学省初等中等教育局の栗林産業教育調査官が資料をもとに、高等学校における科目の柔軟な組み替えについて説明した。現行の学習指導要領では、教科・科目間で内容を移し替えることは原則として認められていない。教育課程特例校のみに許されてきたこの仕組みを、一定の要件のもとで通常の学校にも広げようという議論が、2026年2月19日の教育課程部会総則・評価特別部会で示されていた。
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要件として挙げられたのは、組み替え後も元の科目の目標を損なわないこと、教育課程全体として同等の学習成果が見込めること、変更の趣旨を生徒や保護者に説明することの3点だ。既存の科目だけで構成する場合は「組替え後科目」、学校独自の内容を含む場合は「学校設定教科・科目」として区別し、前者には単位数の上限を設けない方向で検討が進められていた。
説明では、専門高校において専門教科の科目を組み替える際は、あくまで専門教科の学びを充実させる目的で行うべきだという考え方も示された。共通教科と専門教科を組み合わせる場合であっても、専門高校である以上は専門教科側の学びが深まる組み替えでなければならないという整理だ。
単位計算見直し、資格養成に危機感
議論のもう一つの焦点は、1単位あたりの授業時間の計算方法だった。現行は50分授業35コマで1単位としているところを、50分授業17コマで1単位とする案が総則・評価特別部会で示されていた。
この変更に真っ先に反応したのが、主査代理を務める中島周氏(キユーピー株式会社取締役会長、株式会社中島董商店代表取締役社長)だ。高校と大学でほぼ共通して使われている単位の考え方が変わると、海外留学時の単位認定に支障が出かねないと懸念を示した。
続いて野口憲子氏(栃木県立佐野松桜高等学校校長)が、福祉分野の立場から発言した。介護福祉士養成施設の指定規則では、1単位を50分35単位時間として53単位分の教育内容が定められている。今回の見直しにより1単位あたり1コマ減るだけでも、53単位分では合計53コマの授業時間が失われる計算になり、資格取得に必要な学習時間の確保に大きな影響が出るという指摘だった。厚生労働省など所管省庁との調整を進め、学校現場が混乱しない統一的な考え方を早期に示すよう強く要望した。栗林産業教育調査官は、指摘はもっともだとした上で、関係省庁と連携しながら学習時間の確保と質の担保を両立させる方策を検討していく考えを示した。
清水雅己氏(埼玉工業大学工学部基礎教育センター教授)も、野口氏の意見に賛同する形で発言した。専門高校にとって資格取得は生徒の進路と社会をつなぐ重要な要素であり、資格取得を目的化させない配慮をしつつも、柔軟な学校設定科目の枠組みの中で資格取得を後押しできる仕組みを検討してほしいと述べた。さらに、電気主任技術者試験のように在学中の合格を目指す高度な国家資格について、必履修科目の履修免除の考え方がどう適用されるのか質問した。栗林産業教育調査官は、必履修科目であれば履修免除の対象になり得る一方、選択科目については学校外学習の単位認定という既存の仕組みで対応する案もあり、さらに検討を進めたいと回答した。
教員免許や検定活用にも意見相次ぐ
現場の運用面を巡る意見も相次いだ。溝上慎一氏(学校法人桐蔭学園理事長、桐蔭横浜大学教授)は、示された要件がすでに十分に細かいとした上で、今後は制約を踏まえた好事例集の整備に力を入れてほしいと述べた。専門高校ならではのテーマとして、学び直し科目と必履修科目の組み合わせ、そして総合的な探究の時間と課題研究を統合する取り組みの二つを挙げ、いずれもカリキュラム・マネジメントの推進に直結すると指摘した。
小川孝氏(東京都立大田桜台高等学校校長、全国商業高等学校長協会理事長、公益財団法人全国商業高等学校協会理事長)は、商業科の視点から発言した。中学校段階で簿記の検定取得を目指す生徒が増えている実態を踏まえ、入学前に取得した検定が高校の履修免除にどう関係するのか関心を示した。あわせて、授業中に検定試験の対策を行ってよいかどうかが長年の懸案になっていると説明し、CBT方式の検定を授業内の評価ツールとして公式に位置づけられないか検討を求めた。
森澄実氏(兵庫県立香住高等学校校長)は、異なる教科の科目を組み合わせて一体的に扱う新しい科目を設けた場合、担当できる教員免許はどうなるのかと尋ねた。水産科における海洋生物と理科の重複といった具体例を挙げ、片方の教員免許だけで組み替え後の科目全体を教えられるのか、現場への影響が大きいと指摘した。栗林産業教育調査官は、組み替え後の科目がその目標や内容に照らしてどの教科に紐づくかによって、担当できる教員免許が決まるとの考え方を説明した。
加藤史子氏(WAmazing株式会社代表取締役)は、学校間で好事例を共有する仕組みの有無を尋ねたほか、不登校の増加などで学び直しの対象が細分化する中での対応方針について質問した。栗林産業教育調査官は、都道府県の指導主事を集めた研究会を通じて好事例を周知していく考えを示した。
香山瑞恵氏(信州大学学術研究院(工学系)教授)は、資料で使われている「職業資格」という言葉が、海技士や看護師、介護福祉士のような養成施設を前提とした資格を指すのか、情報処理技術者試験のような資格全般を含むのかを確認した上で、今回の改訂の眼目は資格取得者を養成することではなく、変化する社会で学び続ける職業人を育てることにあると強調した。
吉野剛文氏(東京都立農芸高等学校校長)は、農業教育は分野横断的な学びと親和性が高いとして柔軟化の方向性を歓迎し、栽培や飼育など継続的な実習を軸に据えた制度設計を求めた。一連の意見を踏まえ、牧野光朗主査は今回示された方向性について異議がないことを確認し、議題を学習評価に移した。
学習評価も抜本改革、新たに「○」導入
続いて栗林産業教育調査官が、学習評価の見直しについて説明した。2026年3月30日の総則・評価特別部会では、学びに向かう力の評価を実質化すること、高次の資質・能力の評価上の扱いを明確にすること、評価の手順をシンプルに整理することの3方向が示されていた。
最大の変更点は、これまで独立して評価してきた「学びに向かう力」の扱いだ。学びの主体的な調整や対話・協働といった要素を、思考・判断・表現の評価に「○」として付記し、一体的に評価する方式へ改める案が示された。人間性に関わる部分は各教科の評価とは切り離し、指導要録の総合所見欄で教育課程全体を通じた個人内評価として扱う。「○」は思考・判断・表現の評定を通じて間接的に評定へ反映されるが、自動的に評定を1段階引き上げる仕組みではないとされている。
高次の資質・能力については、当面は直接評価の対象とせず、教員が単元を構想する際の指標として活用する方向が示された。評価のプロセス自体も、学習指導要領解説と国立教育政策研究所の参考資料、指導要録の役割分担を整理し、重複を減らす方針が示された。
専門教科・科目に関しては、産業界などの外部人材による評価材料を積極的に取り入れることと、実験・実習を重視するパフォーマンス評価を導入することの2点が提案された。専門高校では専門教科に配当する総授業時間数の10分の5以上を実験・実習に充てる決まりがあり、実践的な学びとの親和性が高いことが理由に挙げられた。
実習中心の専門高校、評価に注文
この提案について、加藤史子氏(WAmazing株式会社代表取締役)は、高次の資質・能力には到達基準を設けず生徒の突出した力を伸ばす発想があってよいとした上で、産業界からの評価材料の活用に賛意を示した。溝上慎一氏(学校法人桐蔭学園理事長)は、パフォーマンス評価の推進を歓迎する一方、教科・単元ごとに定める「見取る姿」については、汎用的な表現にとどめず単元固有の内容に即して具体的に記述すべきだと注文をつけた。
清水雅己氏(埼玉工業大学教授)は、実験・実習を重視する専門高校において、学びに向かう力・人間性等の評価が「○」の付記に一本化されることで軽んじられないか懸念を示し、評定を自動算出している校務支援システムの改修費用について国の支援を求めた。川﨑つま子氏(大坪会グループ看護局局長)は、看護分野では実習を通じて教員が生徒と接する時間が比較的長いという特性を踏まえ、その強みを生かした評価の仕組みを求めた。
西岡慶子氏(株式会社光機械製作所代表取締役社長、国立大学法人三重大学理事・副学長)は、産業界からの評価やパフォーマンス評価を有効な手段としながらも、できる・できないだけでなく、プロセスの進め方や他者との協働、課題発見・解決の姿勢といった成長の度合いを見る視点を重視すべきだと述べた。藤田晃之氏(筑波大学人間系教授)は、総合所見欄で行う人間性の評価が教育課程全体の中に埋もれてしまう懸念を挙げ、産業界との連携やポートフォリオ評価を組み合わせることで、専門高校ならではの学びの成果を可視化する工夫が必要だと指摘した。こうした意見を踏まえ、牧野光朗主査は学習評価に関する方向性についても異議がないことを確認した。
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