プロジェクトマネージャーの経験を活かし、地方への貢献を

東京生まれの東京育ち、地方転勤もしたことがないという中川正明氏。大手IT企業でプロジェクトマネージャーとして長い経験を積んできた同氏が、その経験を活かして地方と関わりたいと飛び込んだのが「地域プロジェクトマネージャー養成課程」。そこで得た経験や学び、地域の人との関わりについて聞く。

地方を知りたい
受講を決めた3つの理由

中川 正明

中川 正明

ITプロジェクトマネージャー
大学卒業後は富士通に31年勤務。IT関連のプロジェクトマネージャーとして長い経験を持つ。米・PMI(Project Management Institute)が認定するプロジェクトマネージャーの国際資格であるPMP(Project Management Professional)も取得。クレディセゾンに転職後は大型プロジェクトを引き継ぎ、成功へ導いた。社会構想大学院大学「地域プロジェクトマネージャー養成課程」第6期修了生。

「地域プロジェクトマネージャー養成課程」(以下「本課程」)では、地域活性へ向けた産官学連携プロジェクトを計画・運営する際に、様々な利害関係者の「架け橋」となり、プロジェクト全体をマネジメントする「ブリッジ人材」を育成。本課程は、多様な専門家が、通常学習する機会の少ない「行政視点」を多く取り入れながら、地方自治体の考え方、地域活性化や産官学連携の手法・事例などについて、リアルかつ現在進行形の知識・スキルを提供。また、地方自治体に政策提言を行う機会も設けている。

第6期生として本課程を修了した中川正明氏は、富士通に31年勤務。IT関連のプレジェクトマネージャーとして長い経験を持ち、米・PMI※1が認定するプロジェクトマネージャーの国際資格であるPMP※2も取得。クレディセゾンに転職後は、大型プロジェクトを引き継ぎ、成功へ導いた。

中川氏が本課程を知ったのは、プロジェクトマネジメント学会で知人から話を聞いたのがきっかけ。受講を決めたのには3つの理由があった。

まず、「地方創生」が言われるなか、「東京しか知らなくていいのか」という想い。加えて、富士通時代、東日本大震災後に、人材開発部長として教育の一環で新入社員を岩手県の陸前高田や大船渡へ連れていった経験から、「地方を知りたい」という気持ちが高まっていた。

さらに、「IT業界のプロジェクトマネージャーとして積んできた経験を、地域プロジェクトマネージャーとして活かせるのではないかと考えました」と、受講の動機を振り返る。

原発の町、高浜町へ政策提言
人と人をつなぐのは酒と酒場

本課程を受講し、最も大きな学びとなったのは、行政側の考え方や動きの原理を知れたことだという。

「ずっと民間企業に勤めてきて、お客さまも民間企業ですので、行政のことは全く知りませんでした。本課程では行政側の話をたくさん聞けたことが、座学的には大きな収穫でした」

政策提言の対象自治体では、迷うことなく福井県高浜町を選んだ。

「高浜町を選んだ理由は原発がある町だからです。東日本大震災後、福島が地元の同僚から『農産物や海産物が売れなくなった』といった切実な話も聞きました。僕のなかで原発に対する引っかかりもあって高浜町を選びました」

また、高浜町のプロモーションビデオで見たハワイのような美しい海が、中川氏が持っていた日本海側の少し暗いイメージの海と大きなギャップがあったことも、高浜町を選んだきっかけとなったという。

政策提言では「高浜町を日本のサンセバスチャンに」をテーマに、高浜町独自の酒の開発を提案した。フィールドリサーチの前に1人で訪れた春先の高浜町には、メインストリートに人がほとんど歩いていなかった。

「こんなに綺麗な海があり、新鮮な魚もあるのに。僕は、人と人を結びつける1つの手段は、酒と酒場だと思っています。そこで、高浜町オリジナルの酒を創ったらどうかと提案しました」

提案の背景には、コロナ禍でリモートワークになった際、地元の酒場を通じて、それまでなかった地元のコミュニティが広がったという個人的な経験もあったという。

地元に対する愛着が副産物
知らない地域で新たな家族を

高浜町へ最終発表を行う中川氏の様子。

政策提言の中間発表までは、比較的手軽に色んな地域で作れるワインを考えていた。しかし、当初考えていた葡萄の品種がコスト的に難しいなどのフィードバックを受け、最終発表に向けクラフトジンへ変更した。

「高浜町で色んなつながりができるなか、山の方にあるハーバルビレッジという施設で薬草を作っているという話を聞きました。この薬草やハーブを原材料に高浜ならではのクラフトジンを作れば、地域の特産物としてピッタリだと考えました」

行政からは“面白い”“いけそう”といったポジティブな反応を得た。最終発表には間に合わなかったものの、その後、実際に薬草を原料にして作ったクラフトジンを持参したという。本課程を受講したことで、自身の地元に対する愛着が生まれたと中川氏は振り返る。

「東京生まれ、東京育ちの人間は、地元意識があまりありません。これまで地元に対する愛着はありませんでした。それが本課程を経て、自分の足元の地域に対する興味がわいた。これは予期しなかった副産物です」

また、本課程を受講することは「知らない土地で新たな家族をつくることにもつながる」と話す。中川氏は東日本大震災以降、新入社員教育の一環で陸前高田や大船渡を訪れたことで、家族的な付き合いのできる関係を地域の人々と構築してきた。

「高浜町でも、そうしたつながりができています。知らない地域で新しい家族をつくり、今までにない刺激を得る。そうした経験がしたい方は、ぜひ本課程に飛び込んでみてほしいと思います」

※1 Project Management Instituteの略。
※2 Project Management Professionalの略