フィールドリサーチと政策提言で新たな発見と感動の場を創出

地域活性へ向けプロジェクト全体をマネジメントする「ブリッジ人材」を育成する地域プロジェクトマネージャー養成課程では、地方自治体に政策提言を行う機会がある。フィールド自治体として研究生を受け入れた静岡県富士市。小長井義正市長に受け入れの背景や狙いなどを伺った。
※肩書は取材当時(2025年12月)のもの。

持続的発展と好循環構築に向けて
外部人材による政策提言を期待

小長井 義正

小長井 義正

富士市長
1955年生まれ。富士市出身。一橋大学商学部卒業後、ニチメン株式会社、小長井米店を経て、富士市議会議員を5期(15年6か月)務める。2014年1月、富士市長就任。静岡地方税滞納整理機構議会議員、生活協同組合全国都市職員災害共済会理事、全国施行時特例市市長会監事、静岡県東部市長会会長などを歴任。座右の銘は知行合一。趣味はジョギング、バンド演奏(ギター)。

社会構想大学院大学「地域プロジェクトマネージャー養成課程」(以下「本課程」)では、地域活性へ向けた産官学連携プロジェクトを計画・運営する際に、様々な利害関係者の「架け橋」となり、プロジェクト全体をマネジメントする「ブリッジ人材」を育成。本課程は多様な専門家が通常学習する機会の少ない「行政視点」を多く取り入れながら、地方自治体の考え方、地域活性化や産官学連携の手法・事例などについて、リアルかつ現在進行形の知識・スキルを提供。また、地方自治体に政策提言を行う機会も設けている。

富士市は本課程第7期(2024年11月~2025年3月)のフィールド自治体として協力。研究生は5か月間にわたり、現地調査・文献研究・関係者ヒアリング等を通して、富士市の地域課題に対して具体的な政策提言を行った。

── 本課程のフィールド自治体としてご協力いただいた背景について、お聞かせください。

小長井 過去、本課程に参加した一般社団法人富士山観光交流ビューローの職員から「フィールド自治体として対応できないか」と提案を受けたことがきっかけです。本市をフィールドとし地域課題について研究していただくことは有意義で市としてもメリットが大きいと考え、「ぜひ協力を」と受入れを決めました。

富士市はこれまでも、多くの大学と連携し、市をフィールドにした学生の研究活動を歓迎してきました。今回は、社会人の皆さんにフィールドリサーチに来ていただき、より広い視点で地域課題を検討いただきました。今後、大学連携による地域課題解決を進めていく上でも、フィールド自治体となったことは意義のあることだと考えています。

また、関係人口創出の点でも意義があります。研究生の方が地域の課題に触れ、行政だけでなく民間事業者や市民の方と関わることで、地域により親しみを持っていただく。その結果、「ブリッジ人材」としての活躍にも繋がっていくのではないかと思います。

── 富士市の地域課題に対し、研究生にはどんなテーマに取り組んでもらうことを期待しましたか。

小長井 富士市では「第六次富士市総合計画」において重点戦略を掲げ、人口減少に歯止めをかけ、持続的に発展する好循環の構築を目指しています。その実現に向け、人口増減に直接的な影響が大きい雇用対策として、女性の就労機会の確保、ITを活用した新しい働き方定着のための取組の提言を期待していました。

また、外部の視点による既成概念にとらわれない提言をいただきたいと考えていました。隠れたまちの魅力を発見しシティプロモーションに活かす提案、富士山の麓である立地を活かし観光を産業として発展させるための提言なども期待しました。

5つの政策提言への期待
職員の意識変革にも寄与

── 研究生が発表した政策提言への印象をお聞かせください。

小長井 政策提言では、女性活躍や観光をテーマにしたものが多くありました。小川かれんさんの「“私らしく”を叶えるまち、富士市~『Mom Hag』プロジェクトの提案」は、子育てとキャリアの両立を支援するための提案。市内にある子育て世代の交流拠点「みらいテラス」ともつなげられる可能性があり、今後の市の少子化対策に大いに活用できる内容だと思っています。

下川路充さんの提案であるインターナショナルスクールの誘致は、富士市にとって願ってもないこと。当市に関心をもつ学校に海外から来ていただいて候補地を視察いただくなど、具体的な動きにつながっており、協議検討を進めています。

相内学さんの「かみさまぐるぐるツーリズムin富士」では「紙のまちで神だのみ」という、産業と観光を掛け合わせた非常によいコピーを作っていただきました。富士市が力を入れているサイクルツーリズムとも絡め、大きな可能性があると感じています。

村上華恵さんの「富士市の真ん中で、アートを描く!」は、アートウォーキングイベントを開催し、アートを作成しながら市内の観光スポットをつなげるというアイデアです。

富士市では、SNS映えする富士山写真の撮影スポットとしてインバウンドで賑わう「富士山夢の大橋」を起点に様々なスポットをつなぐ仕掛けを作っているところで、村上さんの提案を参考に、市の取組に磨きをかけられるのではないかと期待しています。

中澤裕子さんの「サマースクールで描く富士市の未来への幸せ」。地元から離れていった若い世代が夏休みに子どもを連れて帰ってくる。その子どもたちにサマースクールに参加してもらい富士市の魅力を知ってもらう。市の良さを知ってもらうことで孫世代が地元へ帰ってくる可能性にもつながるかと思います。

印象深かった提言を5点挙げましたが、全体として、我々にとって非常に有意義な、すぐにでも実施していきたい内容が多くありました。

── フィールド自治体となったことで、どういったインパクトがあったのでしょうか。

フィールドリサーチの様子。研究員は富士市まで赴き職員と意見交換を行った。

最終発表会で政策提言を行う研究生、小川かれん氏。

最終発表会で研究員の政策提言に対して講評する小長井市長。

小長井 研究生の皆さんの政策提言を受け、斬新なアイデアや発想、課題解決へつなげる視点の素晴らしさに感銘を受けました。いただいた提案をすぐにでも実施したいと、最終発表会の翌日に部長が集まる会議で報告しました。政策提言が、職員の気づきや問題の可視化につながり、担当課の意識も変わってきています。職員にとっても、研究生の皆さんとフィールドリサーチの際に対話し、実際の政策提言を目にすることで、プロジェクト思考や課題整理などの視点でスキルアップにつながったのではないかと考えています。

私自身、新しいアイデアや発想を取り入れることが重要と考えており、外部人材による多面的な視点や行政内部だけでは生まれにくいアイデア、改善案は大歓迎です。フィールドリサーチを実施した上での分析に基づく提言をいただいたことは非常に貴重な機会となりました。

また、研究生の受け入れを担当していた職員のなかには、その後、本課程を受講した者もおり、いかに影響が大きかったかが分かります。

── 2025年12月には社会構想大学院大学と「地域活性化包括連携協定」を締結されました。

小長井 今回のご縁から包括連携協定の締結に至ったことで、将来的に地域で活躍する人材の育成や、実際に提言を実現していくことによる地域活性化を進めていきたいですね。

研修生や社会構想大学院大学との接点も増えますので、今後の調査研究、外部人材登用につながる可能性もあると考えており、双方にとって非常によい結果につながるのではないかと期待しています。

目指す都市像は「生涯青春都市」
誰もが活躍できるまちづくりを

── 2026年1月で任期を満了されます。3期12年を振り返って、成果をどのようにお考えでしょうか。

小長井 私は市長就任以来、「生涯青春都市」を目指す都市像として、「青春」をキーワードにまちづくりを進めてきました。就任1期目の2016年、市制施行50周年の節目には「いただきへの、はじまり 富士市」というブランドメッセージをオール市民で作成。富士山と海を持つオンリーワンの自治体の魅力を見事に表現した、優れたブランドメッセージが出来上がったと思っています。

また、性別、年齢、障がいの有無、性的マイノリティなどの違いに関わらず「誰もが活躍できるまちづくり」を推進してきました。全ての市民が仕事に就き、「生きがい・働きがい」を感じられる「ユニバーサル就労」という考え方のもと、「富士市ユニバーサル就労支援センター」では幅広い方々へ働く機会を提供するべく、産業界にも協力いただきながら、就労支援につながるマッチングを行ってきました。

「まちに元気を、人に安心を」をモットーに、災害に強いまちづくりにも力を入れてきました。コロナ禍は厳しい状況もありましたが、市民、企業、様々な団体の皆さまと力を合わせ、オール富士市で乗り越えてきたと思っています。

近年は、デジタル技術の進化やSDGs理念の導入など、新しい視点での行政経営が求められています。

富士市は2020年7月に「SDGs未来都市」に選定されており、SDGsの理念に沿った取組を推進してきました。急速に進化するデジタル技術を最大限活用するべく、2020年8月に「富士市デジタル変革宣言」を発表。2021年4月には、2050年までの二酸化炭素排出量実質ゼロを目指す「富士市ゼロカーボンシティ宣言」も行いました。

── 残された課題や今後の政策等への期待があればお話しください。

小長井 2026年1月18日で任期満了となりますが、大きな事業について一定の方向性は示すことができたと思います。富士駅北口の再整備は2029年~30年にかけて完成予定です。新富士駅南口の土地区画整備事業も2029年と同じタイミングで完成に向かって整備されているところです。もう1つ、築40年以上となる市民病院の一刻も早い建替えと新しい医療ニーズへの対応は喫緊の課題です。この3つの事業については確実に推進していくべく、次なる市長にしっかりと引き継ぎたいと考えています。

── 最後に本課程に関してメッセージをいただけますでしょうか。

小長井 フィールド自治体として研究生を受け入れることは、我々にとっても新しい発見の機会であり、感動の場でもありました。研究生の方々が、自分事のようにまちを理解しようとする努力、そして、それらの調査研究を反映した政策提言、そのレベルの高さ、意識の高さに感銘を受けました。

ぜひ、他の自治体の皆さん、首長の皆さんにも、同じ感動を味わっていただきたいと思います。