【文科省議事録要旨】新教科書の動画に「上限」案
文部科学省は2026年10月2日、9月2日にWeb会議方式で開いた令和8年度教科用図書検定調査審議会総括部会(第2回)の議事録を公開した。会議の議題は「教科書検定の改善について」で、事務局は動画や音声などのデジタルコンテンツを含む新しい教科書の審査方法をまとめた「教科書検定の改善に関する方向性(骨子案)」を示した。骨子案には、外部Webサイトへのリンクを教科書として認めないことや、種目(教科書の種類)ごとに動画の総量の上限を定めることなどが盛り込まれている。
2030年度の導入へ、検定の在り方を検討
今回の議論の出発点は法改正にある。学校教育法等の一部を改正する法律(令和8年法律第37号)が2026年6月10日に参議院本会議で可決、成立し、6月17日に公布された。この改正によって、これまで紙だけが認められてきた教科書にデジタルを取り入れて作ることが可能になった。紙の教科書の内容をそのまま記録したデジタル版を、紙の教科書に代えて使える現行の制度は廃止される。デジタルを含む新しい教科書は、2030年度に導入される予定だ。
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制度の細部は、発行・採択の指針や端末での表示に関する標準仕様など、複数の会議体で並行して検討が進んでいる。教科用図書検定調査審議会はこのうち検定の在り方を担い、2026年4月14日の教科用図書検定調査審議会総会総括部会合同会議でも「教科書検定の改善について(審議要請)」を議題として扱っていた。
会議の冒頭では、8月6日付で着任した文部科学省の茂里毅初等中等教育局長があいさつに立った。茂里局長は、学校現場が「紙かデジタルかではなく、紙もデジタルも」活用する段階に入ったとの認識を示した。そのうえで今回の議論が次の段階につながる大きなきっかけになると述べ、次の段階は教育データの活用になるのではないかとの見通しを語った。
教科の本質的な理解に役立つか審査
骨子案は、デジタルを含む形になっても、学習指導要領に基づいて指導するための主たる教材という教科書の役割は変わらないことを前提に置く。動画や音声も現行の検定基準に照らして内容の適切さを審査し、そこに新たに3つの観点を加える。教科の本質的な理解の獲得に役立つか、学習での活用目的や活用方法が明確か、限られた授業時数の中で学習活動を行うことが想定されているか、の3点である。
観点を具体的に示すため、事務局は現行の教科書に掲載されている二次元コードの先の動画をすべて確認し、掲載できるものの例を整理した。算数・数学で図形やグラフを動かしながら試行錯誤できるシミュレーション、理科で実験器具の使い方や手順を示す動画、音楽や美術、技術で楽器の奏法や材料・用具の扱い方を学ぶ動画、外国語で発音を繰り返し聞ける音声などが該当する。反対に、狙いを踏まえずに文章を全編読み上げただけの音声データ、類題の域を超えた大量の練習問題や入学試験・資格試験、図鑑データそのもの、娯楽の要素が多いゲームや漫画、教師に代わって説明するだけの講義動画は、教科書への掲載が難しい例に挙げられた。
外部リンクは認めない案、AIは論点整理
掲載できるコンテンツは、教科書発行者が責任を持って編修・管理できるものに限る。このため骨子案は、外部Webサイトや教科書外の教材へのリンクを教科書として認めないことを提案した。学習指導要領に示す内容は文字と静止図画で不足なく取り上げ、動画などはその内容と密接に関連するものに限るという要件案も盛り込んでいる。AIを教科書に搭載するかどうかについては、必要性、性能や信頼性、出力結果の正確さを担保する方法、検定でどのような基準・方法・体制で審査できるかといった、当面整理すべき観点を示すにとどめた。
動画の総量に種目ごとの上限案
動画は再生に一定の時間がかかる。加えて、現在の二次元コードの先には、教科書の内容に必ずしもそぐわないものも含めて多種多様な動画が大量に掲載されている。こうした事情から骨子案は、教科の特性などを踏まえ、種目ごとに動画の総量の上限時間を段階的に定める案を示した。想定する区分は、技能の習得に動画が特に有効な実技系の教科、観察・実験を通して学ぶことが重要な理科、言語活動の充実に動画が効果的な外国語、国語や社会、道徳、算数・数学などそれ以外の教科の4つである。外国語の音声は、申請時に外国語音声に関する方針の提出を求め、客観的に明白な誤りがないか、その外国語として通用するかなどを確かめる。
骨子案には、教科書の構成と訂正に関するルールも含まれる。デジタル部分にもページ番号を振り、授業で扱っている箇所を教師と子どもがすぐに特定できるようにする。紙とデジタルに全く同じ文章などを重ねて載せるのは、真に必要な場合に限る。誤記や誤植などの軽微な訂正は文部科学省の承認を得しだい反映し、統計資料の更新など学習内容に関わる訂正は長期休暇中など学習に支障がない時期に反映する。審査体制については、デジタルコンテンツに特化して確認する専門委員を追加する案が示された。
校長会は精選と更新履歴の確認を要望
事務局は、学校現場の声として、全国連合小学校長会、全日本中学校長会、全国高等学校長協会、全国特別支援学校長会が提出した意見も紹介した。全国連合小学校長会は、動画1本を30秒から1分、長くても5分以内にすることや、過度なBGMや効果音を排除することを求めている。全国高等学校長協会は、質問によって表示内容が変わる生成AIについて、現時点では教科書の中核的な内容として検定するのは困難だとした。訂正や更新の履歴を教師が確認できる仕組みを求める点は、4団体に共通していた。
続いて、文部科学省初等中等教育局の後藤教至教科書課長が、デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議の状況を報告した。文部科学省が全国の国公私立の教科書採択権者である教育委員会や学校を対象に行った意向調査では、全学校種・全教科を通じて、紙とデジタルを組み合わせて一つの教科書とするハイブリッドな形態を望む回答が最も多かった。小学校低・中学年では、全教科で「ほぼ紙」か「紙のほうが多い」構成を望む回答が過半数を占めた。小学校高学年と中学校になると、デジタルの割合が半分程度以上の構成を望む回答が過半数を超える教科も出てきており、英語や実技系の教科でこうした回答が少し伸びている。
検討会議は、この調査結果に加え、認知科学や発達心理学の知見も踏まえて議論を進めている。すべてがデジタルの教科書は対象を一定の学年以上に限り、その中でもデジタルの活用が期待される場面が多い教科に絞るという方向性が出ている。検討会議は今秋ごろをめどに取りまとめる予定で、今後は大臣指針の素案を示す段階に入る。文部科学省は新しい教科書の導入後も実証研究を続け、教科の特性や発達段階に応じたデジタル活用の在り方を、見直しも含めて検討するとしている。
委員は教科ごとの具体例など要望
意見交換では、出村和彦委員(中央大学教授)が、報道のされ方や動画に付く音楽のように主観的な要素は検定が難しいと指摘し、発行者が編修・管理できるコンテンツに限る方針が明確になったことを評価した。これに対し事務局は、発行者が編修・管理できない外部のものは今後教科書として扱うのは難しく、授業で使う場合は教科書ではなく教材としてはっきり分けて扱うと説明した。山家浩樹委員(東京大学名誉教授)は、教科書に含めるデジタルコンテンツと教材に回すものの具体例を、教科ごとに示すよう求めた。海老洋委員(東京藝術大学教授)が従来の資料集との違いを尋ねると、後藤課長は、法律上の使用義務がかかる教科書とそれ以外の教材を分けることで現場の負担感を減らす狙いがあり、資料集などの教材がなくなるわけではないと答えた。
教育委員会の立場からも意見が出た。臨時委員の田邊俊治氏(全国市町村教育委員会連合会長)は、デジタルでは内容を盛り込みがちになるとして教科共通の歯止めを示すよう求め、発行者が申請時に出す資料を採択の際にも使えるよう要望した。臨時委員の吉村嘉文氏(岐阜県教育委員会課長)は、紙とデジタルの関係が分かるページ構成を求めた。事務局は、紙とデジタルの掲載内容を相互に表示させる要件案を骨子案に盛り込んでいると説明している。理科の観点からは、上村礼子委員(東京都立杉並高等学校長)が、実験を安全に行うための指導に動画が効果的だと述べた。
金子光一委員(東洋大学教授)は、配慮が必要な生徒のニーズを導入前に把握するよう求めた。後藤課長は、動画の字幕や再生速度の調整といった機能を付けることも考えられるとの見方を示した。さらに、紙の教科書で学ぶことが難しい児童生徒には、障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律に基づき、国が標準規格を作ったうえで、学校で使う教科書のフルデジタル版の確保を促すと説明した。会議の最後に椿広計会長(昭和女子大学理事長)は、委員から出た意見を踏まえ、事務局で改めて整理するよう求めた。
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