『会社はあなたを育ててくれない』

採用難や離職率向上を背景に、労働環境の改善やハラスメント対策が徹底される中、若手社員は自由ではあるが誰も育ててくれない、ある種の過酷な環境に置かれている。そんな時代の生き方・働き方・学び方の指南書を、著者自身が解題。

「不安」の正体

古屋 星斗

古屋 星斗

リクルートワークス研究所 主任研究員
岐阜県出身。一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻修了後、経済産業省に入省。産業人材政策、法案作成、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。2017年よりリクルートワークス研究所。労働市場分析、未来予測、若手育成、キャリア形成研究を専門とする。他の著書に、『ゆるい職場』(中公新書、2022年)、『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』(日本経済新聞出版、2023年)、『「働き手不足1100万人」の衝撃』(共著、プレジデント社、2024年)。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。

『会社はあなたを育ててくれない ――「機会」と「時間」をつくり出す働きかたのデザイン』

『会社はあなたを育ててくれない――
「機会」と「時間」をつくり出す働きかたのデザイン』
古屋 星斗 著
大和書房、2024年11月
四六判、304ページ
本体1,700円+税

「成長の機会も時間も足りていない」、「ロールモデルになる上司がいない」、「我慢してもチャンスはやってこない」、「まわりに差をつけられている気がする」。こうした声を、筆者は若手社会人を対象とした調査や、実際の現場でのヒアリングを通じて繰り返し耳にしてきた。

本書『会社はあなたを育ててくれない』のタイトルにはやや刺激的な響きがあるが、その意図は決して現代企業を批判することにあるのではない。むしろ、「会社が育ててくれる」という従来の機会均等の原則がもはや通用しなくなった現代において、働く個人がどのようにキャリアを設計し、行動すべきかを問うための出発点である。

この背景には、労働法改正がある。働き手不足やブラック企業批判の結果として、「ゆるい職場」の増加という労働環境の変化が起こった。これは働き手を使いつぶすような企業を許さないという意味で、不可逆で、元に戻してはならない変化でもある。しかし「ゆるさ」とは、決して仕事が楽になったということではない。むしろ、上司や先輩からの明確な指導やフィードバックが減り、「すべては自分しだい」という構造が、じわじわと若手を孤独にし、成長機会を奪っている。「自由」と引き換えに、支援のない環境が広がっているのである。

本書は、こうした漠然とした不安や焦燥感の根源を可視化するとともに、自分自身のキャリア=生き方の戦略をどう描き、行動に落とし込むかを実践的に提示した。その基盤には、筆者が継続的に実施してきた2,000人以上の若手社会人を対象とする定量調査がある。本書ではその調査結果に加え、厚生労働省や経済産業省などの統計データも参照しながら、現代の働き方のリアルを浮き彫りにした。

(※全文:3787文字 画像:あり)

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