不条理を乗り越え、真の理念型経営を実践するためには
日本企業はパーパス経営以前から、理念に基づく「理念型経営」を行ってきた。理念型経営は組織と個人に恩恵をもたらす一方、時として不条理も生む。それらを乗り越え、理念を形にするためには。
理念型経営とは何か

王 英燕
慶應義塾大学商学部教授
専門は組織行動論、組織論、国際人的資源管理。京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。文学修士(スタンフォード大学)、経済学博士(京都大学)。京都大学経営管理大学院助教、広島市立大学講師・准教授、京都大学経済学研究科准教授を経て、2019年より現職。著書に『組織コミットメント再考』(文眞堂、2017年)、『経営理念の浸透』(共著、有斐閣、2012年)、論文に「理念改定におけるアイデンティティ・ワークの研究」(『日本経営学会誌』52、2023年)、「態度形成の規定要因」(『組織科学』52(1)、2018年)など。
従来、多くの日本企業は理念を重視した経営を行ってきたことで知られている。理念型経営とは、理念を基盤に経営判断を行い、事業の社会的意義と存在意義を明確にした経営実践を指す。松下(現・パナソニック)創業者の松下幸之助は、経営における哲学や倫理観を強調し、安価で良質な商品の提供を目指す「水道哲学」を掲げ、経営理念と実践を結びつけた。また京セラ創業者の稲盛和夫は、「アメーバ組織」の経営手法を創造し、人間としての正しい判断をベースとする独自の経営思想を作り上げた。
しかし偉大な経営者であっても、創業当初から理念が明確だったわけではない。松下幸之助は、創業初期に事業拡大とともに社会に対する責任の重さを痛感し、経営の本質を問う綱領・信条を掲げた。稲盛和夫も、創業初期に若手従業員から処遇改善を求められたことを契機に、「何のために経営を行うのか」という問題に直面し、のちに「稲盛哲学」となる経営理念の体系を確立した。
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