承継者のアントレプレナーシップの醸成へ 社会的ネットワークが重要に

事業承継において、アントレプレナーシップは重要となるが、その過度な発揮は経営者を疲弊させる恐れがある。アントレプレナーシップや「調和的情熱」の獲得と社会的ネットワーク形成の必要性、承継者の精神的健康・レジリエンスについて、東洋大学の山本聡教授に話を聞いた。

承継者の精神的健康と
レジリエンスが重要

山本 聡

山本 聡

東洋大学 経営学部 教授
専門分野は、中小企業経営論、アントレプレナーシップ研究、国際的アントレプレナーシップ研究。機械振興協会経済研究所、東京経済大学経営学部を経て、2019年4月より現職。金型や部品加工など素形材産業を主な対象としながら、国内・海外の中小企業の経営体制の変化を解明することを研究テーマとしている。学術論文や書籍だけでなく、企業経営者や技術者向けに産業・企業動向に関する多数のレポートを寄稿するともに、「東京の中小企業振興を考える有識者会議」など行政関係の各種委員も務めている。

── 中小企業経営者・承継者に求められるアントレプレナーシップについて、どのように考えていますか。

中小企業の成長や事業の維持・継続のためには、経営環境の変化への対応が不可欠です。そのためにアントレプレナーシップ、つまり起業家精神は必須となります。

アントレプレナーシップは大きく3つの要素から成り立ちます。第1にリスクを取ろうとする意志、第2に既成概念に縛られず新しいことをやろうとする革新性、第3に人より早く自分から行動する先駆性です。

ただし、アントレプレナーシップを教科書的に考えるだけでは不十分です。アントレプレナーシップは適度に発揮することが重要であり、過度な発揮は疲労や孤独感、強いストレスにつながるからです。既存研究を踏まえ、私はこれをアントレプレナーシップの「影の側面」と呼んでいます。

企業経営は長期戦です。仮に30〜40歳で事業承継した場合、その後の約30〜40年間、経営に従事することになります。事業承継は、承継者の人生全体に直結する重大な選択です。ライフステージによっては両親や兄弟との関係や子育てとの両立、地域での役割、従業員との関係など多様な課題に直面します。過度に頑張ってしまう人ほど、空回りしたり、周囲との軋轢を生み出したり、燃え尽きてしまいかねません。

(※全文:2182文字 画像:あり)

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