「人生100年時代」のシニア活用 先入観に囚われず各人と向き合う

シニアの採用・活用はすべての企業にとって避けられないものとなりつつある。シニア専門転職支援サービスの経営者の立場から、シニアの採用・活用ポイントを解説する。

専門職・非専門職
ともに増えるシニア

中島 康恵

中島 康恵

株式会社シニアジョブ 代表取締役
1991年茨城県生まれ。大学在学中に自力で出資者と仲間を見つけて起業。2014年法人登記。2016年、シニア専門人材紹介を開始し現社名に変更。より多くのシニアの転職を支援するため、2022年にシニア専門求人サイトをオープンし、現在に至る。

少子高齢化による人手不足と、公的年金の受給開始年齢引き上げにともなう65歳までの雇用確保の義務化を背景に、シニアの採用・活用はコロナ禍以前から加速していたが、コロナ禍で多少の混乱があったものの、収束後の世界でも加速を続けている。定年後に働き続ける人口が増えているだけでなく、働き続ける年齢も上がっていることを、私も運営するシニア転職支援サービスの登録者状況から実感している。2025年のシニア求職者の登録は2024年の5.7倍に増加した。

シニア向けの求人が多い職種、増えている職種は、端的に言えば「なり手が少ない職種」だ。なり手が少ない職種にも2パターンあり、1つは経験や資格不問で求人数は多いが、なり手が圧倒的に足りていない介護、清掃、警備などの職種である。

もう1つは有資格者などの専門職だ。イメージと異なるかもしれないが、看護師、保育士、自動車整備士、施工管理技士といった専門職も、シニアを採用してもなお、充足しきっていない。

例えば、2010年代の半ば頃まで、60代後半の自動車整備士を歓迎する整備工場はほとんどなく、就業を希望する60代後半の整備士も少なかった。整備士は重量物を扱うことや無理な姿勢をとることが多いことで膝や腰を故障しやすく、年配になるほどに本人も辛い上に仕事のパフォーマンスも低下しやすいためだ。

しかし、2025年の状況では65歳以上の就業も目立ってきている。私たちのサービスの2019年と2022年の比較では、60代の整備士の就業数が2.5倍に増加したことがわかった。整備士の資格のための整備学校に入学する高校卒業者の減少率は、18歳人口の減少率を上回っていると言われる状況で、最近では60代の整備士についてもヘッドハンティングすら発生しているという。

つまり、人手が足りない、若手が集まらないといった状況から、消極的にシニア採用を選択する企業がこれまではかなり多かった。しかし、シニア特有の価値を求めて採用を目指す企業も増えている。

スキルと姿勢、
両面から求められるシニア

消極的に「シニア“でも”ほしい」のではなく、積極的に「シニア“が”ほしい」企業は、シニアのどんな特性を評価し、どんな期待を持っているのだろうか。

ほとんどの企業がシニアに求めるのは「即戦力」であることだ。これはすぐに業務で活躍できるスキルがあるということだけなく、会社員としてのマナーや心得といった面も含んでいる。

例えば、海外出身者を採用する場面では、異なる文化の溝を埋めるために多くの時間と慎重さが必要になるが、シニアでは業界や企業文化の違いはあっても、マナーや心得の浸透に時間を割く必要がない。

若い世代の価値観やマーケットの理解、新しいツールや手法への習熟などは、やはりどうしても得意なシニアが少なくなるが、想定外の事態ではシニアが強みを発揮する。

未経験・知識外の事態が発生しても、その場合にどう対処すればよいかを長いキャリアの中でシニアは知っており、トラブル時を含めて社員の「精神的支柱になってくれる」と語った経営者もいた。

このように、シニアを求める企業は、「即戦力」となり得る業務スキルはもちろんのこと、経験の中で培われた業務への姿勢や精神性についてもシニアに期待していることがわかる。反対に、姿勢・態度に懸念を持たれた場合は、十分な経験・スキルがあっても不採用となりかねない。

先入観に囚われず
任せる業務を“切り出す”

では、企業がシニアを採用・活用する場合、どのような点に注意すればミスマッチを起こしにくく、効果的なのだろうか。

まずは、先入観だけで決めつけないことが重要となる。特に、過去のよくあるシニアのイメージは、急速に変化する時代に合わせて同じように変化を続けるシニアの実態と合っていない場合が多い。さらに、良いイメージであっても、悪いイメージであっても、イメージとシニア個人の実態は異なるので、選考ではシニア個人の資質を見極めたい。

例えば、「真面目」「我慢強い」といった良いイメージもシニアすべてが当てはまるわけではない。逆に「頑固」「言うことを聞かない」「デジタルに弱い」といった悪いイメージも、シニアだからそうなのではなく、若者でも頑固な人はおり、個人の資質の問題である。私自身も最初にシニアを採用したのは20代の頃だったが、やはり採用する前は「若い経営者の言うことなどシニアは聞いてくれないのではないか」と思っていた。確かに中には頑固で言うことを聞かないシニアもいたが、頑固な若手の割合とあまり変わらず、素直で真面目なシニアが大半だった。

ITやデジタル領域については、80代以上はいざ知らず、既に今の70代も仕事でパソコンを使ってきた世代で、スマートフォンの基本操作も多くの70代は問題ない。

次に、シニアに任せる業務内容を明確にすることが必要だ。採用時は、求人掲載時点で業務内容を具体化しておくことで、ミスマッチを防止できる。場合によっては、若手や中堅と同じ既存の業務内容ではなく、シニアに任せる業務を既存の業務から一部分“切り出す”ことも効果的だ。

例えば、若手の教育がOJT中心である場合、シニアをOJTの担当に据えることで他の社員のOJTの負担を減らし、その分、コア業務に集中してもらうことで生産性の向上に貢献できる。シニアにとっても教育係は自身の経験・スキルを活かせる上、最前線よりも負担が少ない場合が多く、一石二鳥だ。教育係以外にもスキルのあるシニアが補助業務を担うことで、メイン担当の生産性を高めている企業もある。

また、デジタルツールの使用などでシニアを特別扱いするのは逆効果となる。デジタルが苦手だろうからと、良かれて思ってアナログ対応の特例を許すと、他の社員と異なる動きをするシニアは逆に孤立しやすくなり、孤独感が増して離職につながりかねない。シニアは若い世代が思う以上に「自分は若い世代から受け入れられていないのではないか」と孤独感を感じやすい。デジタルツールに限らず、若い世代と平等に接しつつ、十分なコミュニケーションを心がけたい。

また、シニアの新しいことへの学びや挑戦をセーブしてしまうのも意欲を削ぐ禁忌である。

ただし、健康管理に直結する勤務日数や勤務時間は、シニア自身に任せず、企業主体の管理が望ましい。若い頃のつもりでつい無理をするシニアが多いためだ。

積極的に「人生100年時代」と
向き合う企業が優位に

65歳までの雇用確保は既にすべての企業の義務であり、今後さらに70歳以上・75歳以上でも働き続けることが当たり前の時代となるだろう。そこでは渋々シニアを活用する企業よりも、積極的で上手なシニア活用をする企業が優位に立つはずだ。まずは「どうせシニアは使えない」といった先入観を捨て、リアルなシニアと向き合うところから始めてみてはいかがだろうか。